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第7章 竜の村へ その1 宮殿への帰還

第七章 竜の村へ


 アッシュールはルージャの視線で目が覚めた。しばらくルージャの顔を見る。微笑するルージャの頭を引き寄せ、キスをする。


 「大丈夫、アッシュール」

 傷口を見ようとルージャは視線を下に移動させるが、微笑が零れる。ココがしがみついていた。


 「棟梁殿、起きてますか」

 ルガングの声が聞こえてきた。アッシュールはココをゆっくりと剥がし、立ち上がる。まだ腹が痛む。

 ルージャの肩を借りながら外に出ると、ルガングとキユネフルーガスがいた。ルガングはキユネフルーガスの腰に手を回している。


 「アッシュール、王子さんがお姉様の腰を当たり前のように抱いているわよ。顔もすっきりしているわね」

 ルージャがにやりと笑う。


 「四代目、いやルージャと呼んだ方がいいかしら。ルガング様はお優しいかたでした」

 キユネフルーガスは顔を赤らめて下を向く。


 「ルージャさん、からかわないでくださいよ。キユネフルーガスはルージャさんの姉になるんでしたっけ」

 ルージャはこくりと頷く。


 「棟梁殿、これであなたも王族です。手練れを王族に迎えることが出来て嬉しいですよ。よろしくお願いしましよ、義弟殿。公式の場では棟梁殿を義弟殿と呼ばせて頂きますよ」

 ルガングはにやりと笑う。


 「あれ、街に関わりたくないのに王族に」

 ルガングの指摘にアッシュールがため息をつく。


 「今回も兵を連れてきたかったんですが、暴れる棟梁殿にびびってしまって駄目でした。棟梁の村に麦を刈りに行きますから、同行までお願いします」


 「麦刈りはわかりました。僕はルガングさんの弟さん、リムリーギ王子に剣を突きつけましたから、宮殿で働くのは無理ですよ。旅を続けますし」

 アッシュールはルージャと顔を見合わせる。


 「リムリーギの阿呆は血筋を残すだけにいますので、お気になさらずにと言いたいのですがね」

 ルガングは視線をアッシュールから外し、横を向く。視線の先にはララクとジアンナがいた。両手にざくろを持っている。


 「みなさんおはよう。ざくろを獲ってきたぞ。王子、昨晩はどうだったかな」

 皆でざくろと、ルージャが持ってきた干し肉を食べながら今日の予定について話し合う。洞窟は東に続いているが、丘の上の洞窟に続いているならば、四日は歩かなければならず、食料が足りなかった。ルージャは行きたいといい続けたが、食料が無いと説得するとようやく諦めた。


 ルージャとキユネフルーガスは二人で話をしている。アッシュールは亡くなった鍛冶屋のエンリム、シュアンナが頭から離れなかった。エンアンに何を話せば良いのか、わからなかった。


 一行が宮殿に戻り、地上に出てくると多数の人が出迎えに出てきた。周囲の注目は二人の女性だった。ルージャは宮殿内でも噂になっていたようだった。「第三王子が拉致しようとした女人か」「確かに美しい」と聞こえて来る。キユネフルーガスはさらに衝撃を周囲に与えている。


 「ルガング第一王子、無事のご帰還おめでとうございます。で、こちらのお方はどなたでしょう」

 上品な服に身を包んだ初老の男性が近づいてくる。嬉しそうな顔をしている。


 「執政官、紹介する。キユネだ。キユネ・フルーガス。噂になっているルージャ殿の姉に当たる。父上の許可が得られたら、后になる。丁重にもてなせ」

 ルガングが指示を発すると、執政官が頭を垂れた。


 「は。後ほど王に謁見していただきます。ようこそ、宮殿へ、お美しい姫よ。私は執政官のコロルドと申します。お見知りおきを」

 執政官がキユネフルーガスに頭を下げる。


 「ありがとう、コロルドさん。これからよろしくお願いいたしますね」

 キユネフルーガスはスカートを両手でつまみ、たくし上げる仕草を見せた。

 後ろでリムリーギ第三王子が口を開けて見ていた。


 「兄上まで、あのような美姫を。どうなっているのだ。何故私は王子なのに美姫がいないのだ」

 「アッシュール、ほらあなたの敵がいるわよ。お姉様はフルーガスという家のキユネ姫なのね。私もフルーガスの一員なのかしら」


 リムリーギはアッシュールを睨むと、去って行った。アッシュールの元へ、体格の良い革鎧姿の男性が近づいて来た。


 「アッシュール殿でしょうか。第一王子に話を聞いております。人狼をも切り伏せる手練れだとか。私は近衛隊長をしておりますアルナと申します」

 アッシュールは近衛隊長と握手をする。


 「こちらは妻のルージャと、娘のココ、狼のベラフェロです」

 「お姉様がお世話になるようです。お姉様は私より体が強くないので、無理させないでくださいね」

 アッシュールが挨拶をしていると、兵達が宮殿内へ慌てて入ってきた。


 「ルガング第一王子様! 門内に人狼が侵入いたしました! 危険ですのでお逃げ下さい!」

 宮殿内がざわつき始める。


 「ルージャ、ベラフェロ、行くぞ。ココは後ろで見ていろよ。飛んじゃ駄目だぞ」

 「見せ場が無いっちゃか」

 「アッシュール、行くか」

 ララクとジアンナは槍を構える。

 アッシュール達が中庭に出ると、五名の兵で人狼と対峙していた。兵は腰が砕け、戦意を喪失している。


 「ララクさんとジアンナさんは左から、僕とルージャは右から行きます。挟みましょう。ベラフェロは後ろから、人狼の気を引け」

 アッシュール達は兵の後ろから飛び出し、左右から人狼と対峙する。後ろからベラフェロが威嚇する。神狼を囲むと一瞬動きが止まった。槍は人狼の腕の長さよりも長く、反撃を喰らう可能性はほとんど無い。アッシュールが戦況を見極めると、大声で指示を出す。


 「構え! 総員突き!」

 四本の槍が人狼の腹に突き刺さる。


 「抜けないわ!」

 ジアンナが叫ぶ。


 「槍を引き抜け! 抜けないなら手を離して剣を抜け!」

 アッシュールは槍を手放すと、動きが鈍っている人狼に上段からグアオスグランを斬りつける。グアオスグランを脳天に叩き付けたが、人狼は体勢を崩すだけだった。アッシュールは叩き付けた反動で再び上段に構えると力一杯水平に薙いだ。

 人狼の首が飛び、胴から血が噴き出した。


 「血を浴びるな! 人狼になるぞ!」

 アッシュールは叫びながら後ろに飛び退く。最初に対峙した五名の兵はその場に座り込んでしまった。二名は失禁している。アッシュールは兵の肩を抱えると、後ろに引きずり出す。


 「血を浴びるぞ! 後ろへ下がれ!」

 アッシュールが叫ぶと、ララクも真似して兵を引きずり出す。

 人狼は力を失い、倒れた。兵が一人、近づいていく。


 「触るな! まだ生きている! 下がれ!」

 アッシュールは叫ぶと、足から近づいていく。人狼の右手がアッシュールを襲う。アッシュールは後ろに一歩下がってかわすと、グアオスグランを胸に突き刺す。

 グアオスグランを引き抜き、後ろに下がる。首が飛んだときに血が抜けたのか、心臓からは血が噴き出さなかった。兵達が呆然と眺めている。


 「ルガング王子! 薪はありませんか! このまま燃やしてしまいます!」

 アッシュールは荒くなった息を深呼吸で整える。


 「近衛隊長、薪を」

 ルガングに肩を叩かれた近衛隊長ははっと正気に戻り、兵達に指示を出す。兵達が人狼に薪を積み上げ、火を付けた。


 「もっと薪を持って来て下さい」

 アッシュールの声に、兵達は薪を山のように積み始める。人狼の死体が燃え始めると周囲に異臭が漂う。


 「アッシュール殿は強いだろう。自慢の義弟だ」

 ルガングはにっと笑い、近衛隊長を見る。近衛隊長は信じられないような顔をしている。


 「人の身で化け物を退治できるのか。ルガング第一王子様、何者なのですか」

 「私の新たな后の妹殿がアッシュール殿の嫁御だ。リムリーギを街で打ちのめしたのは彼だ。喜べ、王族として竜の村の大蛇退治に同行してくれるぞ。おい、水と布を持て! アッシュール殿達の剣の血を拭え。手を切るなよ。人狼になるぞ」


 「アッシュール殿、いや義弟殿、執政官」

 ルガングが呼ぶとアッシュールと執政官がルガングに近づいてきた。

 「二日後に竜の盆地へ大蛇退治及び麦刈りに出る。旅程は片道七日程度だ。兵は十人だ。近衛隊長も同行を頼む。私も同行する。麦狩りに農民兵を二十人。手配を頼む」

 執政官と近衛隊長は頭を下げる。


 「すみません、お願いなのですが、街の警備を強化していただけないでしょうか」

 アッシュールの発言に、皆が一斉にアッシュールを見る。


 「どうした、義弟どの」

 「はい、エルニカが潜伏しているかもしれません。不審人物に注意していただきたく思います」

 アッシュールの発言にルガングは頷く。


 「エルニカは捕らえる必要があるな。近衛一隊と四隊で昼夜交代で警戒にあたれ。指揮は近衛一隊長か。」

 ルガングは近衛隊長に指示する。


 「近衛隊長さん。エルニカは竜の眷属の生き残りで、竜の血の力を使える非常に恐ろしい男です。エルニカは竜みたいな存在を作ることに成功したらしく、恐ろしい存在と行動を共にしている可能性があります。決して攻撃してはいけません。見つかったら逃げて下さい」


 「わかりました。竜の血の力とは具体的にどのようなものでしょう」

 「詳しくはわからないのですが、人を自殺させるほど強く洗脳できるようです。人狼の呪いも使いこなします。掴まったら最後、助からないでしょう。見つけたら、僕が対処します」

 近衛隊長は頷くと去って行った。


 「義弟殿、部屋を用意するのでくつろいでくれ」

 「一度、鍛冶場に戻ります。鍛冶屋のエンリムとシュアンナがエルニカに殺されてしまいましたので」

 ルガングは頷くと宮殿に戻って行った。


連載に当たり、原稿をストックしていましたが

ストック量がかなり少なくなりました。

極力毎日更新していましたが、ペースが落ちるかもしれません。

申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。

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