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第6章 神殿 その7 エルニカの過去1

 エルニカは生まれ出たものを満足してみていた。二十人分の魂を飲み込み、既に人を超えた存在となっているはずだ。


 エルニカは十五歳で雨降を継いだ。雨降の家系は特殊な家系だった。言い伝えによると、赤い世界という名の竜と共に入ってきて、隠し村に住み着いたらしい。住み着いた当初は、神のように竜の血の力を使いこなし、地面から木を生やしてみたり、雨を降らせたり雷を呼んだり、泉を作ったりしたらしい。しかし、子は竜の血が半分になる。孫は更に半分になる。世代が進む毎に力が失われていったのだ。血の濃さと力の強さが関係していると気が付いた祖先は、血を濃くする方策を思いついた。孫同士を結婚させ、血の濃さを維持するのだ。


 血の濃さが半分の者に半分の者を娶らせれば、血が薄い者と、極めて血が濃い者が生まれてくる。血が濃いと銀髪になり、薄いと黒髪になる。隠し村では血を維持する家を三家作った。三家では銀髪の男が生まれると、銀髪の娘、兄弟や従兄弟であろうと娶らせた。生まれた銀髪の子を三家に分配し、家の維持を図った。


 血が濃いということは近親婚を重ねているということだ。近親婚は重大な欠陥を抱えている。まともな人間が生まれなくなって来るのだ。


 虚弱で夭折したり、心がおかしく、まともに生活出来なかったり、わめきながら徘徊するなど奇行する人間が増え始めた。奇行があろうと、まともに話すことが出来なくても娘を娶らせ、子を産ませた。


 次第に、まともな人間が生まれなくなると、血を薄くすることを決断した。時折、一般の娘を娶らせるのだ。

 嫁にくる娘は恐怖の余り泣き叫び、自ら命を絶つ者があった。雨降の三家は人外の者として恐れられるようになっていたのだった。


 何十年かぶりに人と話すことが出来て、体が丈夫で普通の生活が出来る子が生まれた。エルニカだった。育つにつれ、エルニカの血の濃さは際だってきた。隠し村の人々はまともな雨降の誕生に沸いた。皆、これで村は安泰だと安堵した。


 エルニカは自分を知っていた。話す事が出来て、普通に生活が出来る。普通に生活した方が得だということに気が付いたのだ。自分は気が狂っていて、衝動を押さえられなくなることを知っていた。しかし、押さえた方が得なのも知っていた。


 エルニカは竜の血が濃い雨降となった。十五歳の時だ。村の秘宝である集魂の石を見せられた。大きな瑪瑙のようだった。


 エルニカには魂が見えた。他の者、竜の血を繋ぐ三家の者が見えるのかわからない。わからないというか、銀髪の持ち主でまともに話せる人間がいないのだ。エルニカ以外、赤子のように唸るだけなのだ。それでも嫁や夫を与えられ、性交を無理強いされる。


 集魂の石に魂が集まっているのが見えた。魂は集魂の石に触れると、消えていなくなった。集魂の石に魂が潜んでいると感じられなかったので、どこかに行っているのだろう。


 三家から、雨降の他に隠し剣という人間も任じられた。隠し剣には秘術を授けられ、竜の血の力で人を殺めることが出来た。殺めた痕跡は一切残らない。三家に反する者の命を絶ってきた。隠し剣であるが、二人を殺めると術者の息の根も止まってしまった。血が濃いエルニカの場合は何人殺めても大丈夫だった。エルニカは夜な夜な人を殺めた。快感だった。術を誰にも教わっていないのだが、出来る様になった。相手の魂を抜き取るのだ。


 雨降や隠し剣が使う術の秘密が段々と理解出来てきた。人の魂、術を使う人間自らの魂を使って術を行っているのではと思い始めた。

血が薄いと削られる魂が大きく、魂を失って死に至るのだ。


 竜は、魂を喰らうために集魂の石を村に置いたのではないか。竜の力の源は死んだ人の魂なのだと確信した。


 エルニカは隠し村で葬儀があった時、集魂の石を持ち自らの体に死者の魂を呼び込んだ。案の定、魂はエルニカに入り込んだが、視界はぼやけ、意識は混濁した。何者かがエルニカの体を乗っ取ろうと蠢いた。


 エルニカは村に大雨を降らせ、雷を落とした。大きな術を使うと意識が戻ってきた。人も殺した。入り込んだ魂を消費すると意識が戻ってきた。


 にやりとエルニカは笑った。血の濃い者に魂を纏わせれば、新たな神を作れるのではないか。


 神を生み出すという新たな考えは、エルニカの竜の血が呼ぶ欲求を抑えきれず、欲求を満たすように行動するようになった。


 村人を殺め、魂を得ると弟に魂を纏わせた。弟は夜が明けないうちに気が狂い、泣きわめき雨を降らせ死んでいった。


 村人の洗脳も出来る事がわかった。手を頭に当て、エルニカが願うと村人を自分の言いなりに出来た。集魂の石があると洗脳が楽だった。村人の四十人ほどの洗脳を行い、決して裏切らない兵隊に出来た。死ねと命ずれば自ら死んでいった。エルニカは上々の結果にほくそ笑んだ。


 体に集魂の石を埋め込めば気が狂わないのではと思い、妹の腹を裂き、集魂の石を突っ込み、魂を纏わせると傷口が治っていった。成功だと感じたが、やはり気が狂って周囲の人を六人ほど殺し、三家の一家が全員死んだ。


 エルニカがおかしいと言うことが村人に発覚した。村人が武器を持ち、エルニカの家を取り囲んだ。エルニカは集魂の石を持ち、村人を十人ほど殺めると村を出た。無差別に殺した時は快感が背筋を走った。


 エルニカは隠し村を出て竜の盆地の外輪を構成する山に神殿らしき建物を見つける。エルニカは洗脳した村人を呼び、人体実験を再開した。使う人間は竜の盆地にある村の人間だ。感づかれないように慎重に、時間を掛けて人間を攫ってきた。


 集魂の石を埋め込むには人の心の蔵が良いことが、呪い師の夫婦でわかった。しかし、埋め込んで取り外す時、集魂の石は砕けて散っていった。夫婦は死なず、動き回った。剣で刺しても腹を切っても、胎児を引き裂いても死ななかった。


 エルニカは平原にある洞窟内に夫婦を捨てた。エルニカは洞窟を進んでいくと、地下の街が現れた。宮殿には集魂の石が安置されていた。女がひとりいて、トカゲをけしかけて来た。エルニカはトカゲの意識を奪い、全て配下にした。使えると感じた。宮殿に、集魂の石が置いてあった。エルニカは笑いが止まらなかった。これで再開出来る。


 五月蠅い女を閉じ込め、神殿に戻った。今度の依り代は竜の盆地の新しい村長だ。捕まえて心臓に集魂の石を埋め込んだ。トカゲを放ち、村人を虐殺した。魂が依り代に吸い寄せられたが、ごく一部しか依り代に入り込まなかった。傷口が塞がったが、間も無く息絶えた。


 死体から集魂の石を取り出した。割れなかった。まだ運は自分に味方していると感じた。誤算だったのは、呪い師の孫にトカゲを全て退治されたことだった。


 エルニカは思案した。今度は失敗が許されない。占い師の夫婦はかなり上手くいっていていた。占い師の女に集魂の石を埋め込み、次に夫を殺し、魂を埋め込むと傷口が癒えた。依り代は女が良いのだろう。巫女だからか。であれば処女が良い。最初に与える魂は近親者か。次も親しい者、知り合いの者だろう。


 竜の血が濃くて、処女で、近親者がいる依り代候補がいるのか。


 エルニカは邪悪な笑みを浮かべる。いた。今の雨降は女児だったはずだ。


 エルニカは降臨した女神を見つめ、ほくそ笑む。女神誕生まで、殺した人間を思い出していた。

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