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第1章 旅立ち その6 ウバルとタンムの最後

ララク:アッシュール隊の副長格

 アッシュールが意識を失う前、ララクとタンム、ウバルの三人は駆け足で村に向かっていた。村に近づくにつれ、夜中なのに明るくなっていく。


 「ララクさん。目の前に一匹います」

 タンムが指さす方向には、トカゲの後ろ姿を認めることが出来た。


 「よし。静かに近づく。無言で突く」

 ララクが指示すると、タンムとウバルは槍を構え、静かに近づいた。二ジュメほどまで近づいたとき、ララクは二人に目配せをした。


 三人は一斉に突きを繰り入れる。

 トカゲは咆哮を発し、向きを変える。


 「トカゲの左右へ!」

 ララクが叫ぶと、タンムは右へ、ウバルは左へ動く。

 一瞬、トカゲの動きが止まった。


 「突き!」

 ララクの声で全員が突きを繰り出す。トカゲは痛みでのたうち回った。ララクは槍が抜けず、手を放すと剣を抜き、見えている腹へ剣を突き刺す。トカゲは痙攣を始める。ララクが剣を抜くと、槍が二本、腹に突き刺さった。トカゲは腹から血を流し、動かなくなった。


 「やったか、ララク」

 「ああ。次行こう。しかし、村が酷い」

 ララクが息を整えていると、タンムが鍛冶場を指さした。


 「鍛冶場にトカゲがいる! 誰かが戦っている。女の人だ」

 「行くぞ!」

 ララクのかけ声で三人は鍛冶場に走り始める。


 ジアンナは剣を抜いたが、困っていた。鍛冶場には年老いたエンメンがいる。とても走って逃げることは出来ない。逃げる場所も無いのが事実である。アッシュールの様に、颯爽とトカゲを斬りつけ、退治したいのだが、火を噴かれないように逃げ回るので精一杯であった。


 「このままでは殺される! 誰か! 誰か!」

 ジアンナは女ながら剣を振り、トカゲを牽制する。当たる距離まで踏み込むことが出来ない。トカゲが頭を振り回す動きが速く、剣で斬りつけようとするより早くトカゲの牙の餌食になることが見えていた。

 ジアンナは逃げながら剣を振り下ろし、何とかトカゲに傷を負わせようと試みるが、息が上がり、動きが遅くなってくる。


 「あ」

 トカゲはジアンナの正面を向き、大きく口を開けた。

 ジアンナは尻餅をつき、這って逃げようとする。


 「嫌ぁ!」

 ジアンナが叫んだとき。


 「口に突き!」

 ジアンナの耳に聞き慣れた声が届く。

 三本の槍は開いたトカゲの口に突き刺さった。トカゲは痙攣を始める。


 「もう一度、突き!」

 ララクの声で、三人はトカゲに突き入れる。

 二度目の突きで、


 「大丈夫か、ジアンナ!」

 ララクがジアンナに手をさしのべる。


 「良くやった、ジアンナ」

 「遅いよ、あなた」

 ジアンナは立ち上がると、ララクの胸に顔を埋める。


 「ララク、奥さんは無事だったか、良かった。エンメンのじいさんは無事か」

 ウバルは鍛冶場の中に入っていくと、胸を押さえて倒れているエンメンを見つけた。


 「おい、エンメン、どうした!」

 ウバルの叫び声で三人が入ってきた。三人はウバルを椅子に座らせる。


 「エンメンさん、大丈夫ですか!」

 ジアンナの声に、エンメンは目を開ける。大きく息をすると、しばらく荒い呼吸を続けた。


 「わしにかまうな。寿命なのじゃ。わかっておる。さ、戦いに行くのじゃ。早く行け」

 「しかし」

 ララクは躊躇う。


 「ゆくのじゃ!」

 エンメンの強い言葉にララクは頷き、外に出た。タンム、ウバル、ジアンナと続いた。


 「おい、タンム。あれは俺たちの家の方ではないか」

 タンムはウバルが見ている方角を確認する。


 「本当だ! ウバルさんの家と、僕の家が燃えている!」

 「クソ! ララク、確認に行きたい!」


 ウバルはララクの方を見ると、ララクは燃えている家の方に走り始める。三人も続いて走り始める。

 家が二軒、燃えていた。一軒から男性ひとり、女性ひとり、子供ひとりが飛び出してきた。男性はハンマーを持ち、トカゲを殴ろうと振り上げたとき、トカゲに腹を食いちぎられた。男性の腹から大量の血と、はらわたが吹き出す。男性はハンマーを振り下げることなく、その場で息絶えた。


 「あなた!」

 「お父ちゃん!」

 泣き叫ぶふたりを橙色の炎が襲う。悲鳴を上げる間も無く、真っ黒に炭化し息絶えた。 

 

 「あああああ! 家族が! みんなが!」

 タンムは絶叫と共に槍を構え、突進した。タンムに気が付いたトカゲは口を開き、火を放つ。トカゲが火を放つと同時に、タンムは槍を口に突き刺した。タンムが槍を突き刺したが、しばらくの間、トカゲは火を吐き続けた。タンムは橙色に染まり、炭化して息絶えた。トカゲも脳を突き刺され、絶命した。 

 

 「お前たち! お前たち! ああ、俺はなんと言うことを! 自分の家族も守れなかったのか! 俺は何をしていたのだ!」

 ウバルは剣を口に含むと、力一杯突き刺した。剣は首の後ろから突き出て、正確にウバルの命を奪った。ウバルは血を吹きながら倒れ落ちた。


 倒れ落ちた先には、上半身と下半身に分断された女性と、首が無い子供、炭化した子供の死体が血の海の中に倒れていた。


 「ウバル!」

 「きゃあああ!」

 ララクとジアンナは目を背けた。ウバルは家族が殺された事を知り、咄嗟に自殺を図ってしまったのだ。


 「ウバルさんが! ウバルさんが! ねぇ、何のために! ウバルさんは一生懸命戦ったのに! 何でこんな目に合うの!」

 「今は泣くな、ジアンナ! 行くぞ! 辛いが戦うぞ!」

 ララクはウバルの槍を拾うと、ジアンナに手渡す。


 「剣では届かない。槍で遠くから突き入れるんだ。アッシュールから教えて貰った、トカゲ退治の方法だ。槍を持て。泣くのは後からだ」


 ジアンナは剣を鞘に戻すと、槍を受け取った。ララクとジアンナは本能的に理解していた。戦った方が、生存率が上がると言うことを。


 ララクは右方向に強烈な明かりを感じ、ジアンナを抱き寄せ、地面に転がり、タンムの家の物陰に隠れた。

 タンムの家はたちまち炎に包まれた。


 「巨大な火だ! 逃げるぞ、ジアンナ!」

 二人は立ち上がり、タンムの家影から広場を伺うと、剣を持った四人が炎に包まれいた。エリドゥの隊だった。炎はララクを狙ったのでは無く、エリドゥを狙ったものだった。


 「エリドゥがやられた! アッシュールが突っ込んでいく! 待て、アッシュール! 待て!」

 ララクが叫んだ先には、巨大なトカゲがいた。アッシュールは四人が殺された事を知ると、トカゲめがけて馬を走らせていた。


 「アッシュール!」

 アッシュールはトカゲに槍を突き刺した後、剣を顎下から突き刺し、見事に巨大トカゲを退治した。アッシュールは突き刺すと同時に飛んできた巨大トカゲの尾に打ち付けられ、動かなくなった。


 「行くぞ、ジアンナ!」

 ジアンナは頷くと、二人はアッシュールめがけて走り始めた。動かないアッシュールにトカゲが口を開いていた。巨大トカゲの側に、もう一匹、トカゲがいたのだ。


 「アッシュールは殺させん! ジアンナ、槍を突き刺すぞ!」

 「わかったわ!」

 ララクとジアンナは槍を構え、突進する。トカゲは二人に気が付くが、一瞬遅く槍の餌食になった。

 二本の槍は正確にトカゲの口を貫いた。ララクは素早く槍を引き抜いたが、ジアンナは引き抜くことが出来なかった。


 「手を放せ!」

 ララクが叫ぶと、ジアンナは槍の手を放す。ララクは自分の槍をジアンナに手渡すと剣を抜き、苦しみもだえるトカゲの腹を剣で突き刺した。ジアンナも槍を腹に突き刺す。トカゲは痙攣すると動かなくなった。ララクは剣を鞘に戻すと、槍を引き抜いた。


 「アッシュちゃん!」

 ジアンナはアッシュールの元に駆け寄り、口に手を当てる。


 「息をしている! 生きているわ! あなた、生きているわ!」

 「よし、俺が背負う。まずは墨婆さまの家に運ぼう。あの家は石造りだ、焼けていないはずだ」

 ララクはジアンナに槍を渡すと、アッシュールを背負った。


今回で竜の村の戦いは終結です。


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