表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/70

第6章 神殿 その2 アッシュールの心の奥底

 ナンムは立ち上がった。エルニカは距離をとる。


 「おい、来い! 新たな神の誕生だ!」

 入口から十名ほどの黒いローブの者達が並んで入ってきた。


 「新たな神へ、貴様等の命を捧げよ」

 「喜んで、新たな神の御霊へ参ります!」


 一名が自分の喉に剣を突き立て、口から血を吹いて倒れた。残りの者も、次々に自害した。部屋は血の海となり、吐き気を及ぼす匂いが充満した。


 「ふむ。十人全員の魂は使われないか。五人分か」

 ナンムは少女の姿ではなく、成熟した女性の姿になっていた。顔は美しいが中性的だ。


 「女神よ、ご誕生おめでとうございます」

 ナンム、いや女神と呼ばれたものはじろりとエルニカを睨む。


 「私の魂を食うのは待って下さいませ。ご降臨に慣れるまで、私がご案内いたします」

 女神はじろりとエルニカを睨んだ。


 「まずは、雨を降らして下さい。依り代の少女は隠し村の雨降です。あなたは雨降の力が使えるはずです。最初は小さな範囲で結構です。雨を降らしてくださいませ」

 エルニカは要求に、エルニカは考え込みながら雨を降らせた。手のひらの範囲で、ごく少量の雨が降った。


 「お見事でございます。お力が付くまで。私をお使い下さいませ」

 エルニカは膝をつき、臣従を誓った。


 「さ、体を拭いて、服を来て下さい。神殿へ行きましょう」




 エルニカが新たな神を誕生させた頃、ルージャ達は人狼となったアッシュールを追い、宮殿地下の洞窟を急いでいた。


 「ひ!」

 ルージャは立ち止まって人狼の遺骸を見ていた。二体だ。洞窟内に響いていた足音の代わりに、ルージャの小さな悲鳴が響き渡る。


 「ルージャさん。アッシュールではないでしょう。槍を持っていない。大丈夫です。生きていますよ」

 ララクは頷くと、先頭を歩き始めた。洞窟はひたすら真っ直ぐに闇を伸ばしている。闇に飲み込まれたのか、飲み込まれまいとしているのか、皆無口で先を急いでいた。足音だけが響いていた。

 永遠に続くかと思われた洞窟に、物音が聞こえてきた。獣の鳴き声だ。


 「アッシュールの声だわ。急ぎましょう!」

 ルージャは走り始めた。広くなった空間に出た。空間には大きな階段がある。下に行けるようになっていた。


 ルージャの目には階段が目に入らなかった。暗闇で咆哮が聞こえて来る。ルガングがランタンをかざすと、アッシュールの姿が見えた。時折、アッシュールめがけて炎が飛んでくる。炎が上がった瞬間、アッシュールの周囲が明るくなる。何者かと対峙していようだった。アッシュールの左にはベラフェロがいて、威嚇を行っている。


 アッシュールは炎を吹かれた瞬間、槍を振り下ろした。対峙している者の姿があらわになる。石像だ。石像が動いている。頭からは角が生え、口には嘴が生えている。目は精気が無く、虚ろだ。背中には羽根が生えている。四肢は人と同じようだが、後ろ足は獣に似ている。人と決定的に違うのは、鋭い爪が生えていた。尾は長く、先端が鋭く尖っている。


 動く石像が炎を噴くと、アッシュールとベラフェロは左右に動き、炎をかわす。ベラフェロに鋭い尾が襲いかかるが、後ろに跳躍して尾をかわす。

 アッシュールは両手で槍を振り下ろす。槍は動く石像の左腕を砕いた。


 石像はガチョウを潰したような鳴き声を発し、階段を駆け下りていった。ベラフェロはルージャに気が付き、走り寄ってきた。振り向くと、アッシュールに向けて遠吠えを行った。アッシュールは遠吠えに気が付き、ゆっくりと歩いて近づいてきた。アッシュールはよろめくと、槍を杖代わりにして体重を支えようと力を込める。


 「アッシュール!」

 ルージャはアッシュールに向かって走り始める。


 「駄目だ、ルージャさん! 戻ってください!」

 ルガングはルージャに叫ぶが、ルージャは聞き入れない。

 アッシュールは槍でも自分の体重を支えきれなくなり、俯せに倒れた。


 「お願い、グアオスグラン。頼みを聞いて。あなたならアッシュールに掛けられた呪いを祓えるでしょう。お願い、力を貸して、グアオスグラン。お願い!」

 ルージャの叫びが響き渡る。ルージャはグアオスグランを抜くが、グアオスグランは無反応だ。


 「いいから私に使われなさい! お前は元々私なのよ! お前の主人の命が危ないのよ! 私に使われないとお前の主人は死んでしまう! 死んでしまうの! もう命が尽きかけているの! お願い!」


 ・・・我を振れ

 「ありがとう、グアオスグラン。ココ! 行くわよ!」

 「いいっちゃよ、ママ!」


 ルージャは目を閉じると、アッシュールの上でグアオスグランを振った。

 ルージャが目を開けると、畑の真ん中いた。左右を見ると、盆地になっている。ルージャの左手に、暖かい温もりを感じた。左を見ると、ココが泣きそうな顔をしていた。ココの左手を強く握りかえす。足下にベラフェロがいた。ベラフェロはルージャの裾を噛み、歩行を促した。

 麦畑を進んでいくと、アッシュールが倒れていた。


 「アッシュール!」

 「パパ!」

 ルージャは驚いてアッシュールの半身裸の胸に飛び込む。微かに鼓動が聞こえる。


 「生きている。良かった」

 ルージャは安堵の息を漏らす。


 「ここは何処かしら」

 ルージャは左右を見まわす。麦畑の向こうには山々が見える。盆地だった。


 「ママ、パパの話の風景に似ているっちゃよ」

 ココはアッシュールの頭に近づき、座り込むと足の上にアッシュールの頭を乗せた。


 「ここが、アッシュールの古里の風景」

 麦が黄金に輝いていた。風が吹き、麦が揺れる。ルージャは胸が熱くなる。素敵な場所だった。もう一度、アッシュールはこの風景を見なくてはならない。ルージャは強く感じた。


 もう一度、ルージャは目を閉じるとアッシュールの上でグアオスグランを振るった。

 ルージャは目を開ける。村だ。村にいる。

ルージャは左右を見る。村は燃え、死体が散乱している。


 「ママ、酷い」

 「うん。酷いね。ここはアッシュールの心の奥底よ。酷いのは、アッシュールの心の状態なのね。グアオスグランは私の竜の血の力の結晶だから、人狼ごときに負ける訳がないの。心が弱っていたから、人狼になったのね。私はアッシュールに頼りっきりで、苦しみを分かち合ってなかったのだわ」


 ルージャの目から涙が零れた。

 「ママ。どうしてここはこんなに酷いの」

 ココもルージャの心に刺激され、涙を流している。


 「アッシュールは故郷の村が、怪物に襲われて皆殺しになったと言っていたわ。責任を感じていたのだと思う」

 ルージャは燃えさかる村を見て、どうして良いのか途方に暮れた。


 「ここは棟梁殿の心の中なのですか」

 「王子しゃまっちゃ」

 ルージャは不意に聞こえた声の方を向くと、ルガングが立っていた。


 「なるほど、昨日話を聞いた棟梁殿の村ですね。成る程、酷い」

 ルガングは左右を見まわし、納得したように頷きながらため息を漏らす。


 「王子さん、どうしたらいいのでしょう」

 ルージャはすがる思いでルガングを見る。


 「人ってね、人を殺すように出来ていないのですよ。我々王族は罪人や戦争で人を殺すのが仕事なのです。耐えれる者が王位に就くのです。兵達にも相手の兵や罪人を殺すことで、おかしくなる人間が出てきます。夜に眠れなくなったり、何かに怯えたり、見えない何かを見てしまったり、心が傷ついてしまうんです」


 「どうしているんです、その人を」

 ルガングは燃える村を見る。


 「土地を与えて退役させます。兵としては使えません。というか、人並みの生活も出来なくなります。土地と、なかなか結婚出来なくなるので、理解のある兵の後家さんを娶らせます。時間が少しづつですが心を癒してくれるようです」


 ルガングの話に、ルージャは光明を見いだした。ルージャは両手で持ったグアオスグランを凝視する。


 「グアオスグランは傷付いた心を癒す剣のような気がするわ。ココちゃんもグアオスグランに助けて貰ったのよね。私もそう。竜の形にこだわる私を、人として生きていけばいいと諭してくれた。今度は、私の番よ」

前回からの話しの切り方がおかしかったです。

女神となってしまったナンム。一方、アッシュールもピンチを迎えています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ