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第5章 蠢動 その9 鍛冶場の戦い

 アッシュールは首筋に違和感を感じ、静かに起きた。ベラフェロも何かを感じたのか、小さく唸り始めた。

 アッシュールは微かな匂いに気が付いた。血だ。血の匂いが微かに流れてくる。


 アッシュールは外を覗くと、何者かに囲まれている。

 アッシュールは首筋の違和感が強くなった。竜の剣、グアオスグランを静かに構え、ドアを見る。ドアの向こうに誰かいる。誰かが殺気を放っている。


 ルージャとララクが起きてドアを注視している。アッシュールがルージャにドアを指さす。ルージャはドアを開ける場所に音もなく動く。ララクは緊張した面持ちで剣を構える。


 アッシュールが頷くと、ルージャは勢いよくドアを開けた。

 ドアの向こうには、黒と紫のローブを纏った人物が剣を構えて立っていた。アッシュールとララクは驚いたローブの男に剣を突き立てた。


 「がああ」

 男は叫び声と血しぶきを上げて倒れた。


 「みんな! 下に行くぞ!」

 アッシュールが叫ぶと、ココとエンアンが跳ね起きた。

 アッシュールは全員起きたことを確認すると、静かに階段を下りていく。広い鍛冶場に出ると、槍を構えた。既にドアが開かれており、ドアの向こうにはローブの男が立っている。


 「槍衾、ココは二階で状況確認、変化があったら教えて!」

 アッシュールが指示を出すと、アッシュールの右にララク、左にエンアンが槍を構える。後ろにはルージャとジアンナが槍を構えた。ルージャはララクとアッシュールに間から、ジアンナはアッシュールとエンアンの間から槍を構える。ルージャとジアンナは少し上に構える。


 「真ん中の男を引っ捕らえろ! 他は殺せ!」

 指揮官らしき男の指示で、三名が入ってきた。


 「槍を上段に構え! 斬れ!」

 アッシュールの指示で五人が一斉に槍を叩き付けた。一名は剣を落とし、一名は脳天を槍で叩き付けられ、地面にもんどり打った。一名には当たらなかった。


 「前衛、前の二人に突き!」

 三人で前の二名の止めを刺す。ローブの男は血を吐きながら倒れた。

 ドアから二名入って来る。一撃目で倒せなかった一名と合流し、三人で突入してきた。


 「前衛突き!」

 三人で一人ずつ、槍を繰り出した。剣の攻撃範囲に届く前に、槍の突きが繰り出される。アッシュールとララクはローブの男に突き刺さった。


 「ジアンナさん、叩き付けて! エンアン、突き!」

 アッシュールの指示でジアンナが上から叩き付ける。エンアンはアッシュールと突きを繰り出す。三名の槍はローブの男に命中し、動かなくなった。

 入口から三名が入ってきた。剣を構えるが、突っ込んでこない。槍衾に入って来れないのだ。


 「一歩前進! 足下注意!」

 アッシュールはローブの死体に足を取られないよう、一歩前進した。三名のローブの男と距離が詰まる。


 「突撃!」

 アッシュールが叫ぶと、アッシュール達は槍を構え、一気にローブの男に襲いかかった。ローブの男は剣が届かないため、一方的に槍で突かれ、息絶えた。


 「パパ、お城から兵隊さんが来たっちゃ!」

 ココの叫び声にローブの男達がうろたえる。


 「ええい、引き上げるぞ!」

 外にいる指揮官と思しき男が叫び声を上げると、ローブの男達は去って行った。


 「エンリムさんは! 無事か!」

 アッシュールが叫ぶと、エンアンはエンリムとシュアンナの寝室へ走って行った。


 「ああああ! 父さん! 母さん!」

 エンアンは大きく叫ぶ。

 アッシュールは血の気が引いた。急いでエンアンの後を追う。


 「う」

 ベッドの上で、血を流している死体が目に入った。エンリムと妻のシュアンナだった。


 「そんな」

 アッシュールは目の前の光景を否定しようとしたが、無駄だった。


 「お前だ! お前のせいだ! 彼奴等はお前を狙っていた! お前のせいで父さんと母さんが死んだ! お前のせいだ!」

 エンアンは怒りの形相でアッシュールを睨み槍を構える。


 「僕が、エンリムさんとシュアンナさんを殺した」

 力なく、アッシュールは呟く。アッシュールの目は力なく空を彷徨っている。


 「違う、違うぞアッシュール! お前のせいでは無いぞ! エンアン、槍を降ろせ!」

 ララクが大きく叫ぶ。


 ・・・ワレガヒツヨウデアロ。ヨブガヨイ。

 力を失ったアッシュールの心に、何かが広まって行く。


 「お前も死ねぇ! うあああああ!」

 エンアンは棒立ちのアッシュールに向けて槍を突き出した。槍はアッシュールの腹を正確に貫通した。


 「あ、あ、あれ、あれ」

 エンアンはアッシュールを貫通した槍を手放し、尻餅をつく。


 「そんな、そんなつもりじゃ」

 「お前は!」

 ララクは叫ぶと、エンアンの顔を殴りつけた。エンアンは吹き飛び、動かなくなる。


 「アッシュール、そんな」

 ルージャは信じられない光景を見て、呆然と立ちすくむ。


 「ルージャさん。アッシュールは腹をやられた。致命傷だ。助からん」

 ララクは力なく呟いた。


 「そんな。アッシュール、アッシュール!」

 「パパ、パパ! パパ!」

 ルージャとココは悲鳴を上げる。


 アッシュール口から血を吹き出し、膝を着いた。腹が熱い。視界がぼやけ、真っ黒になる。思考が停止し、何もかも感じられなくなる。死だ。アッシュールは悟った。アッシュールは自分が死に行く道程にあることを受け入れた。ルアンナ。バド。タンム。ウバル。墨婆。死んでいった、大切な人達の元へ行く事が出来る。アッシュールが守る事が出来なかった人達の顔が浮かんでくる。

 アッシュールは自分が死ぬことで、贖罪が出来ると悟った

神殿がアッシュールをとらえに来ました。

防戦は成功しましたが、被害も大きいです。

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