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第5章 蠢動 その8 ララクとの再会

 アッシュールは目を覚ますと、ベッドに寝かされていた。見知らぬ天井だった。アッシュールが戸惑って周囲を見まわすと、ココの姿が見えた。


 「パパ、パパ!」

 ココがベッドに潜り込み、アッシュールに抱きついて来た。ココは暖かく心地よい温もりを与えてくれた。


 「目が覚めた、アッシュール」

 アッシュールの視界に、赤い眼が飛び込んできた。ルージャの美しい顔だ。アッシュールは左右を見まわす。綺麗な部屋に寝かされていた。


 「宮殿の二階にいるのよ。王子さんがゆっくりきてくれって」

 ルージャはココの頭を撫でると、ココはにっこりと笑った。ココはアッシュールの意識が回復し、嬉しそうだ。


 ドアがノックされ、開くと皆がドアの方を向くと、ルガングが入ってきた。女中を連れている。女中は礼をすると、葡萄酒と水、稗の粥、干し肉がテーブルに置かれた。女中は恐る恐るベラフェロに近づくと、生肉を渡す。ベラフェロは肉の匂いを嗅ぐと、女中の手から肉を受け取る。女中は短く悲鳴を発する。


 「ありがとう。下がっていいぞ。いや、顔を拭う湯とタオル、着替えを持って来てくれ」

 ルガングの声で、女中は礼をすると部屋から出て行った。


 「地下の洞窟には、聖堂のクソ坊主よりクソがいるようです。見過ごせませんので、明日に兵を連れて行き」

 アッシュールは体を起こすと、ルガングを見る。


 「僕も行きます。何故母と父がいたのか、確かめたいです」

 アッシュールは立ち上がると、体を伸ばし、異常の有無を確認する。特に何ともないようだった。


 「言うと思いました。近衛兵を四人連れて行きます。おう、湯はこっちだ」

 女中が湯とタオル、着替えを置くとベラフェロに近づかないように退出していった。ルガングも出て行った。


 「ほら、アッシュール脱いで。拭いて上げるわ」

 「え、でも」


 「いいから脱ぎなさい。血で酷いわよ」

 アッシュールは諦めて、返り血の着いた服を脱ぐ。


 「わぁ、パパ、凄い筋肉っちゃね」

 ココは六つに盛り上がっている腹筋を触る。


 「こら、くすぐったい」

 ルージャはタオルを絞ると、顔から順番に体を拭き始める。タオルはたちまち真っ赤に染まる。


 「ココちゃん、アッシュールの筋肉は凄いわね」

 「ほわ、凄い硬いっちゃ」


 「おい、二人とも、くすぐったいよ」

 アッシュールは体が拭き終わると、服を着て立ち上がった。


 「一度、鍛冶場へ戻って明日の朝にここに来よう」

 アッシュールは衛兵に案内を頼み、王子に言づてを頼んだ。衛兵からは、手形を受け取る。

 鍛冶場に戻ると、人影が目に入る。


 「アッシュール! 久しぶりだな。先ほど、お前宛に毛皮が届いたぞ」

 「アッシュちゃん」

 アッシュールの前に、最早懐かしいと感じさせる人物が立っていた。部屋のテーブルに、毛皮のコート、帽子、手袋と下着類が置いてある。


 「ララクさん。ジアンナさん」

 アッシュールは竜の村で結成した警備隊の唯一の生き残り、ララクの顔を見る。隣には、ララクの妻で、竜の村の生き残りであるジアンナが立っていた。


 「ララクさん。墨婆は竜神の法を執り行い、息を引き取りました。鍛冶屋のエンメンさんも息を引き取りました」

 アッシュールの胸に感情が溢れてきた。涙を堪えようとしたが、ぼろぼろとこぼれ落ちる。

 ララクはアッシュールを抱きしめる。


 「皆を送ってくれたんだろ。ありがとう」

 アッシュールはララクの胸の中で、嗚咽を堪える。

 アッシュールは落ち着くと、ルージャとココを招き寄せる。


 「ララクさん。妻のルージャです。こちらは娘のココ」

 「初めまして、ルージャさん、ココちゃん。アッシュちゃんをよろしくね」

 ジアンナはルージャとみてにっこりと笑う。アッシュールはココをジアンナの前に連れて来る。


 「ココです」

 ココは緊張して、口調がいつもと変わっている。


 「ココちゃん、よろしく。アッシュールは優しくしてくれている?」

 「うん!」

 ジアンナはココを抱き寄せる。


 「あれ、なにかあるわ」

 ジアンナはココの背中に違和感を感じた。

 アッシュールは鍛冶場内が外から見えないようにドアを閉めた。火事場内が渦暗くなった。アッシュールはちらりとルージャを見た。ルージャは笑いながら頷いた。


 「ココ。見せて上げて」

 ココは毛皮を脱ぎ、純白の羽根を広げる。


 「わぁ。綺麗」

 ジアンナは驚きの声を上げる。


 「ココは翼の人達の最後の一人なんです。正しくは叔父と叔母もいるのですが、彼らは人と交わらない土地へ旅立って行きました。多分、竜神の眷属だと思うんです。竜神と共にこの土地に入ってきたのではと思います」


 「我らの他に、竜に率いられた人達がいたのか」

 ララクは驚いてアッシュールを見る。

 「ええ。アッシュールには私の代わりに竜の棟梁をお願いしているの。つまり、アッシュールが竜神様なんです」

 「ルージャ、言い過ぎだよ」

 ルージャはにこりと笑う。


 「初めまして、ララクさん。アッシュールがいつも、あなたに会いたいと言っていました。私は四代目の竜です。竜の血の力はアッシュールの剣に全て込められています。私は力を失い、短命になりました。アッシュールは竜の棟梁として、辣腕を振るって貰うつもりですわ」


 「竜?」

 ルージャの説明に、ララクは訝しむ。


 「竜です、と言われても俄に信じられんが、アッシュールであれば当然かもな。我らも竜の一族だしな。ところで、パブヌを知らないか。探しているんだが、見あたらないんだ」

 ララクの言葉に、アッシュールは下を向く。


 「パブヌさん一家は竜の村を出てすぐ、殺されていました」

 「何、あの化け物にか」

 アッシュールは首を振る。


 「いえ、明らかに剣で切られていました」

 「なんと」

 絶句するララク。黒い目を大きく見開く。アッシュールは「神殿」なる者達に殺されたであろうことを説明する。


 「本当に僅かになってしまったのか。しかし、行方不明になったエンリムがいるとは思わなかったぞ」

 「ララクさん」

 アッシュールはララクの方を向く。


 「先ほど、僕の母と父に会いました。化け物になっていました。まだ、誰かいるかも知れないので、明日、再び向かうつもりです」


 アッシュールは洞窟での出来事を話す。行く先にパブヌを殺したと思われる神殿なる集団があるのではないかという懸念も伝える。

 ララクがため息をつくと、鍛冶屋のエンリムが戻って着た。手には四本ほど、槍を持っている。


 「アッシュール、お帰り。頼まれていた槍じゃ。四本でたりるじゃろうか」

 エンリムはアッシュールとルージャ、ララクの妻ジアンナに槍を渡す。


 「おい、エンアン、お前にも槍を渡すから、一緒に行け。アッシュールの手伝いをするのじゃ」

 「はい、お父さん。敵を討って参ります」

 エンアンはアッシュールの方を向く。


 「よろしくお願いいたします。アッシュールさん」

 一行は麦酒を飲み、再会を祝った後、就寝した。客間にはアッシュール一行とララクとジアンナ、エンリムの息子エンアンが寝ている。夜遅くまで槍の使い方について、アッシュールと話をしていたのだった。

あけましておめでとうございます。

連載再開です。


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