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第5章 蠢動 その6 地下宮殿の人狼

 ルガングは巻物がある部屋のもう一つのドアを開けた。幅が三ジュメほどの細長い通路に繋がっている。通路の左右には使われなくなった剣、鎧が乱雑に放置されている。通路の奥には階段が見えた。


 ルガングは無造作に置かれているオイルランプに火を付ける。二つ付け、一つをアッシュールに渡すと、黙って階段を下りた。二階も、三階と同じく細長い通路だ。二階は古いネックスだったり、乾燥した草花、木箱などが並んでいる。ベラフェロが顔を顰めながら木箱の匂いを嗅いでいる。ココがネックレスを手に取った。ネックレスは真珠で出来ており、竜の形の紋章が描かれていた。ルガングはココからネックレスを受け取ると、ココの首に掛ける。ココはにっこりと笑うと、ネックレスをアッシュールに見せてくる。アッシュールのつま先が、木箱に当たってしまい、蓋が落ちた。


 「アッシュール、静かにしなさいよ。壁の向こうは人がいるのよ」

 箱の中には無造作にティアラが放り込まれていた。プラチナの土台にダイヤがちりばめられている。大きなルビーが二個、ルージャの目のように輝いていた。ルガングが驚いた表情をしたが、ティアラをアッシュールの手に渡した。ルガングがアッシュールに頷く。アッシュールはティアラを手に取ると、ルージャの頭に乗せる。ルージャは嬉しそうにしている。


 通路は、一階に下りる階段があった。ルガングが階段を下りると、アッシュール達も降りていった。

 一階も細長い通路だった。一階はスコップ、鍬、鋸、ハンマーなど大型の工具類が置いてある。


 「その先が、洞窟の降り口です。棟梁、行ってみて下さい。開かないんですけどね」

 ルガングは手でどうぞを合図をする。ルージャは熱い視線をアッシュールに向ける。ルージャの頭にティアラが輝いている。本当に王女のような美しさだった。

 アッシュールが階段を下りると、内部は直径三ジュメほどの洞窟になっていた。


 「アッシュール、開けてみて」

 一行は正面に釘付けだった。木製のドアが行く手を阻んでいる。

 「どうしても開かないんです。木なのに酷く丈夫で、壊すことも出来ないんです。残念ですが、当家の秘密はこれだけです」

 アッシュールはドアの取っ手に手を掛けた。動かなかった。鍵穴もあるように見えない。


 「開かないの、アッシュール」

 「凄い硬い。不思議な力で固定されているようだよ」

 アッシュールは残念そうにしているルージャからココに視線を移した。


 「パパ、棟梁が来たぞって偉そうにすればいいっちゃよ、きっと」

 アッシュールは顔を顰めるが、ココにランプを手渡すと竜の剣グアオスグランを抜き、言い放った。


 「当代の竜の棟梁、赤い世界の清い風と赤い世界の真理、子の赤い世界の青い空が赤い世界の護衛と共に凱旋である。ドアを開けよ」


 「もう少し声が低い方がいいっちゃよ。あ、開いたっちゃ」

 カチリと、甲高い音が洞窟に響く。アッシュールは竜の剣を鞘に戻すと、ドアを押す。ドアは軋み音を立てながら、開いていく。


 「信じられん。本当に竜の棟梁だったのか」

 ルガングが驚きの声を上げる。

 アッシュールはココからランプを受け取り、中に入っていく。洞窟はすぐに右に曲がる。


 「風が吹いているわ。出口があるはずね。素敵。ほら、右手に洞窟が続いているわよ。絶対に丘の上に出るのだわ」

 アッシュールは洞窟を進んでいく。時折立ち止まり、洞窟の壁を確認する。明らかに自然の洞窟では無かった。


 「凄いっちゃね。誰が掘ったちゃかね」

 ココも感心して壁を見ている。

 アッシュールは用心深く進んでいく。洞窟は右手に大きく曲がる。曲がった先には広場があったが、明かりが零れ、物音がした。


 「静かに。様子を伺ってくる」

 アッシュールは小声で話すと、一人で広場の入口に近づいた。物陰から物音の原因を探る。黒いローブの男が二人、ランプを持っていた。アッシュールの鼓動が速くなる。

 「エモノノニオイガスル」

 ローブの男が、酷く片言で呟くと、全身から毛が生え、筋肉が膨張し、衣類を破く。爪は伸び、手足は犬の様に変わっていく。尻から尾が生え、口も、顔も犬そのものに変わっていく。


 「人狼になったか。もう戻れぬぞ。まぁいい。行け」

 人狼は口から唾液を垂らし匂いを嗅ぎながら、アッシュールの方に近づいてくる。


 「ニオウゾ、ウマソウナオンナトコドモダ」

 人狼は腰の剣を抜く。

 アッシュールはベラフェロを見た。ベラフェロは音もなくアッシュールに近づく。

 「いくぞ、ベラフェロ」

 アッシュールは竜の剣、グアオスグランを抜くと、人狼に飛びかかった。


 「おおおおお!」

 雄叫びが洞窟に響き渡る。アッシュールはグアオスグランを上段から大きく斬りつけた。人狼は片手に持った剣でアッシュールの一撃を受け止める。アッシュールは渾身の力を込めた一撃を軽く受けられ、驚愕の表情になる。人狼は左手の爪でアッシュールの腹を狙う。アッシュールは慌てて飛び退く。


 アッシュールは大きく息をすると、裂帛の気合いと共に上段から斬りつける。人狼は難なく左に動き、アッシュールの剣をかわす。


 間髪入れず、アッシュールは突きを繰り入れる。

 獲った。アッシュールは突きが入ると思った瞬間、人狼の剣にかわされる。常識を逸した反射神経と身のこなしだった。


 アッシュールは左にかわされた剣の勢いを利用して左から右へ大きく剣を振り回す。一度人狼に背中を見せ、人狼の右を斬りつける。剣は大回りした事により威力が増していた。人狼は驚くべき反射神経でアッシュールの剣を受け止めるが、僅かに体勢を崩した。


 白い影が素早く動く。ベラフェロが人狼ののど笛をかみ切った。

 人狼の動きが止まる。アッシュールは上段から肩口へ剣を叩き付けた。剣は人狼を切断出来ず、分厚い筋肉に止められる。人狼は剣を落とし、獣声を上げながらアッシュールに左右の爪を突き立てようと迫る。アッシュールは剣を中断に構え、人狼の胸に突き刺さした。アッシュールは力を込め、人狼を貫いた。

 

 人狼は雄叫びを上げ、右手を振り上げる。人狼は右手でアッシュールの頭を掴む。アッシュールを掴む右手はアッシュールの頭をねじ切ろうと力を込める。アッシュールは死を覚悟した。アッシュールは完全に勝ったが、強すぎる生命力に敗れ去ろうとしていた。


 「アッシュールは殺させないわ!」

 後ろからルージャが剣を突き立てる。ルージャは思いっきり力を込め、腹を切り裂いた。人狼の腹わたがはみ出るが、人狼の力は変わらない。


 「パパ! パパ!」

 轟音が洞窟内に響き渡った。人狼は力を無くし、首から血を吹き出したあと、倒れた。

 ココが槍を持ち、洞窟の壁で倒れていた。ココが高速で飛び、人狼の動脈を断ち切ったのだった。ベラフェロがココと壁の間に入り、激突は免れている。

 アッシュールは剣を引き抜いた。


 「オノレ、キサマヲコロス」

 もう一人のローブの男が人狼に変化を始めていた。アッシュールは変化前にローブの男の首へグアオスグランを振り抜いた。男の肩口に剣がめり込む。


 「ぐ」

 ローブの男はうめき声を上げ、人狼化を止めた。アッシュールはローブの男の頭の上を薙ぐ。

 アッシュールの視界を暗闇が支配した。相手の心の中に潜り込んだのだ。目が慣れると、傍らでココが倒れている。精神世界と現実が同時進行していた。


 「ココ! 大丈夫か!」

 「いたた、狼さん、ありがとうっちゃね」

 よく見ると、ココの下にはベラフェロがいた。


 「アッシュール、ココちゃんは任せて」

 アッシュールはココをルージャに託し、立ち上がるローブの男に対峙する。


 「あがががが」

 男の姿は人狼になりきってはいなかったが、知性は人狼になってしまっていた。


 「お前は神殿の一員だな、言え!」

 アッシュールは大声で叫ぶが、瞳は知性の色を無くし、叫び声を上げるのみだった。


 「ムダデアル! ムダデアル! ワレガトリツイテオル!」

 男の後ろで、血で出来た狼が叫んでいた。狼の眉間に禍々しい短剣が突き刺さっている。アッシュールは竜の剣、グアオスグランを狼に刺さっている短剣に振るう。短剣は乾いた音を立て、抜け落ちる。


 「ヤメロ、ワレガキエル。ヨウヤクソトニ、デラレタノニ。ヤメロ、ヤメロ」

 「呪いよ、消えよ」

 アッシュールはグアオスグランで狼を斬る。狼は叫び声を上げ、消えていった。

 アッシュールは目を開ける。

 目の前には人間に戻った男が、肩を押さえて立っていた。


 「お前は神殿の人間だろう」

 アッシュールはグアオスグランを突き立て、尋問を開始する。


 「エルニカ様、新たなる神のご光臨、お手元に参ります!」

 男は叫ぶと舌を噛み、口から血を吹き出した。ひるむアッシュールを片目に、腰から剣を抜き、自らの喉に突き立てる。血しぶきが上がり、男は動かなくなった。

いよいよ地下迷宮探索です。


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