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第5章 蠢動 その5 宮殿へ

 アッシュールはため息をついて座り込む。


 「あなたは赤い世界の眷属でしたか」

 アッシュールは小さく呟く。


 「いかにも。真の王よ、名をお聞かせ下さい」

 ルガングは片膝を付く。アッシュールは観念した。グアオスグランを抜き、ルガングの頭の上を薙ぐ。


 アッシュールの視界は真っ暗になる。目が慣れると、後ろに竜の姿を保ったルージャがいる。アッシュールの傍らには美しい羽根を広げたココがいた。

 遠くから白い影が、近づいて来た。ベラフェロだ。ベラフェロが何者かを引き連れてきた。


 「こ、ここは。あ」

 ルガングはアッシュールを認め、更にココを見た。ルージャを見たときに言葉を失った。


 「本当に、本当に赤い世界が存在したのか」

 ルガングは片膝を突き、頭を垂れた。


 「僕が当代の竜の棟梁、赤い世界の清い風です。娘のココ、赤い世界の青い空と、竜である僕の妻ルージャ。赤い世界の真理です。ここは竜の剣、グアオスグランによって生み出されたあなたの精神の世界だと思います。ここでは決して騙すことは出来ないし、あなたの考えていることも丸わかりです」


 「あ、あ、あ」

 ルガングの体は歓喜に震え、言葉をきちんと発する事は出来なかった。


 「あなたの王が狙ったのは僕の妻、ルージャです。諦めていただけませんか。僕たちの望みは旅を続けることだけです。そっとしておいていただけませんか。竜は、僕たち三人しかおりません。あなたは既に人の王です。竜の眷属なのかも知れませんが、我々は眷属を必要としておりません。」


 アッシュールは再びルガングの頭上でグアオスグランを振るった。

 アッシュールが目を開けると、ルガングは脂汗を流し、四つん這いになっていた。呼吸は荒く、瞳孔は開いていた。

 「まさか、まさか」

 ルガングは荒い息で呟く。


 「初めまして、ルガングさん。ルージャです。こちらは娘のココです」

 ルージャはルガングの手を取ると、ゆっくりと立たせた。


 「弟が失礼いたしました。まさか竜の奥方を拐かそうとは。戻ったら自刃させます」

 ルガングは真面目な顔をしながら言い放つ。


 「いや、いいのですよ、僕たちをそっとして置いてくれるだけで良いんです、本当に」

 アッシュールが慌てて言い放つ。


 「かたじけない。王は病状で、政務は私が行っている状況です。王が所望と言い放つとは、許せることではありません」


 「ねぇアッシュール。お城が見たいわ」

 「えっ、いや別に」

 アッシュールは驚いてルージャを見る。


 「ウチも行きたいっちゃ。羽根は広げないから、行きたいっちゃよ」

 「竜の王、是非おいで下さい」

 ルガングは心なしか勝ち誇っている。


 「おい! 戦士殿を城へご案内する! 準備いたせ!」

 ルガングが大声で叫ぶと、兵士が入ってきた。


 「城へご案内しろ!」

 「は!」

 「こちらへどうぞ!」

 アッシュール達は兵に促されて外に出る。外は野次馬でびっしりだった。


 アッシュールが外に出ると、観衆は安堵のため息を漏らしたが、ルージャが外に出るとため息とも、歓声とも言えぬ声が漏れる。少年が口を開けてルージャを見ている。ルージャは少年に小さく手を振った。少年は顔を真っ赤にして後ろに引っ込んでしまった。


 「エンリムさん、城に行ってきます。馬たちを頼みます」

 「だ、大丈夫か」

 心配するエンリムを後ろに、アッシュール達は門へ向かって行った。アッシュールが最初に尋ねた、衛兵のいる門である。


 アッシュール達は第一王子ルガングに率いられて、門にたどり着く。到着まで、一行は好奇の目にさらされた。主に見られていたのはルージャであった。ルージャが通り過ぎるとため息が漏れ、歓声が上がった。

 衛兵はルガングを認めると、剣を抜いて剣先を上に捧げ持ち、直立する。


 「ルガング第一王子ご帰還、開門!」

 一名が大きな声で叫ぶと、アッシュールが追い払われた門が開いた。


 「奥方様、どうぞ我が城へ」

 ルガングは恭しくルージャを案内する。一行は門の中に入った。


 「おっきいお家が沢山っちゃ」

 ココはびっくりして左右を見まわす。


 「本当に大きいわね」

 ルージャもココに同意した。アッシュールは内心、かなり驚いているが、驚きを必死に隠している。


 「いかがですか、奥方様。正面左手の大きな建物が我々の宮殿です。左手の禍々しい建物は聖堂です。正面右手は兵達が寄宿しています。右手は倉庫です」

 ルガングがルージャに丁寧に説明する。


 「ありがとう、王子さん。で、地下の洞窟へは目の前の宮殿とかいう建物から行くのかしら。連れていってくださらないかしら」

 アッシュールは驚きの余り咳き込んだ。


 「パパ、大丈夫っちゃか」

 「ルージャは何を言っているんだ」

 アッシュールは咳き込みながら第一王子の顔を見る。第一王子も驚いている顔を見せている。


 「とりあえず、宮殿へおいで下さい。お前達、もう良いぞ」

 兵達は剣を捧げ持ち、兵舎に入って行った。


 「アッシュール、草原に洞窟があったでしょう。地底湖の先が、この街を指しているのよ。絶対ここに入口があるのよ。有るに決まっているわ。早く行きましょう、王子さん」

 ルージャは目を輝かせて宮殿を指さす。


 「仕方有りません。着いてきてください」

 ルガングは宮殿の左手にある入口から中に入る。中は広い空間になっていた。


 「ほら、あそこ、立派な椅子の後ろに怪しい空間があるじゃない。あそこね。外と中で広さが違っているもの」


 「わかりましたから、大きな声を出さないで下さい。王家の秘密なんです! とにかく私の部屋へ行きましょう」


 王子は右手にある階段を上り、二階に上がる。階段を上がるとホールになっていた。奥の壁に三階へ行く階段が見える。左手は壁になっていた。奥行きから、小さな部屋があるようだった。

 ホールには身なりのいい人達が話し込んでいたが、ルガングを認めると頭を下げ、左手の壁の奥に去って行った。


 ルガングは三階に登ると、階段の正面にある部屋に入っていった。部屋の中にはテーブルがあった。埃がうっすらと積もっている。


 「汚いけど座ってください。この部屋は私以外は入れないようにしてあるので、掃除もしてくれないのです。」

 アッシュールは座りながら周囲を見まわす。壁は戸棚になっており、皮の巻物が所狭しと置いてある。


 「聖堂のクソどもが竜神を捨てて、勝手に女神を作りましてね。でも、この部屋には竜神の巻物が残されています。ここです」

 ルガングは皮の巻物一つを広げる。巻物は古く、痛んでいる。今にもばらばらになりそうだった。


 「この巻物は初代の王が残し、六代目と九代目が写し取ったものらしい。ほら、中心に竜神がいるでしょう。竜神の右手には竜神を先導する者が書かれています。左手には何だろうな、水をまく人間が書かれている。竜神の回りを飛び回る人間がいます。これは娘さんでしょう。後ろの軍勢が多分我々の王家です。棟梁殿はこの先導している人間じゃないですか。川の上の盆地の出自ではありませんか」


 「ウチがいるっちゃ。これナンムしゃんじゃなかと」

 ココが水をまいている人間を指さす。

 アッシュールはココの頭を撫でる。ココはアッシュールにくっついてくる。


 「いかにも、僕は竜の盆地にいました」

 アッシュールは巻物を見ながら出自を口にする。


 「やはり。どうやってこの大河の街まで来たのです。街道には虎神と熊神がいるはずです。容易い事でありません。険しい山を越えたのですか」


 「ココ、牙を見せて上げて」

 ココは懐から虎の牙を取り出した。


 「まさか」

 ルガングは驚きの声を上げる。アッシュールは小さく頷く。


 「虎の土地神さまよりいただいた牙です。もう、安全に通ることが出来ます」

 「驚いた」


 「王子さん。戦を仕掛けるのですか。街では物騒になると持ちきりでした」

 ルガング大きくため息をした。


 「仕方ないのです。人が増えすぎて食べ物が足りないのです。麦は既に底をつき、雑穀を食べている状態です。飢えて死ぬか、二者択一になっています」


 「王家の秘密を教えていただけたら、竜の盆地を提供します。盆地は怪物の襲撃に遭い、全滅して誰も住んでいません。村は全て燃えてしまいましたが、麦は実ったままのはずです」


 「なんと、あの地はくろがねも採れると聞ききます。良いのですか」

 ルガングは驚いてアッシュールを見る。


 「ただ、首が五つとか四つとかの大蛇がうろついています。退治しなくてはいけませんが」

 「なるほど、他国に攻め入らずに怪物を退治せよと申されるか。して怪物の数はいかほどか」


 「二十匹位だと思います。剣では相手の攻撃範囲に入ってしまうため、犠牲が増える可能性が大きいです。攻撃範囲が一ジュメあります。反射神経ではよけることができません」

 「このルガング、承知した。それでは当家の秘密へご案内します」


次回、王家の秘密へご案内です。

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