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第1章 旅立ち その4 決戦1

 アッシュールは葬儀、という言葉を口に舌途端、現実に引き戻された。あっという間に三名が死んだ。アッシュールに剣を教えてくれた強いバドも死んだ。アッシュールの瞳に涙が溢れてきた。拭っても、拭っても涙が止まらなかった。


 アッシュールは丸い球体を見つけた。バドの頭部だった。大蛇の一撃で頭部が胴体と切り離されたのだ。アッシュールは歩いてバドの頭部を拾う。目は恐怖で開かれている。そっと目を閉じ、バドの胴体へ戻した。胴体も仰向けに寝かせ、手を組ませた。


 「う」

 アッシュールはバドの遺骸からめを離すと思わず目を伏せた。辺り一面の血の海の真ん中に、若者の遺骸があった。遺骸は二つある。上半身と下半身だ。


 「エンタラ・・・」

 アッシュールは若者の名を呼んだ。上半身を引きずり、バドの横に寝かせた。胸の上で腕を組ませる。はらわたが上半身から長く伸びていた。アッシュールは丁寧に上半身におしこんだ。下半身も引きずり、上半身に合わせる。

 もう一人の遺骸に近づいていく。


 「ラファン」

 ラファンは腹を食いちぎられ、やはりはらわたが飛び出ている。ラファンの遺骸も引きずり、三名を並べる。ラファンのはらわたも体に戻した。アッシュールの両手は二人の血で真っ赤になった。


 酷い有様だった。一体は首を刎ねられ、一体は胴を真っ二つにされ、もう一体は腹を食いちぎられている。

 アッシュールは三体の遺骸が揃うと後ろを向き、胃の中身を吐いた。全て吐き出し、胃液しか無くなっても吐いた。


 「何故、このような事になったのだろう。僕たちが何か悪いことをしたのだろうか」

 「う」

 後ろで声がした。


 「全員、死んだのか」

 アッシュールは後ろを向いた。エリドゥが遺骸から目を背け、アッシュールの方を向いていた。


 「お前の隊は無事か」

 アッシュールは頷く。


 「そうか。お前も村に戻れ。体を洗って休め」

 「エリドゥさん。最初に村に戻ってきたギンドは大丈夫ですか」

 エリドゥは首を振った。


 「そんな。死にすぎだ。死にすぎじゃないですか、エリドゥさん。僕たちが何をしたって言うんですか。なんでこんなに死ななくてはいけないんですか」

 エリドゥは首を振った。アッシュールは分かっている。エリドゥにだって、理解出来ない事態なんだと言うことが。


 アッシュールは立ち上がると、一礼して村に向かって歩き始めた。

 村に戻ると、広場では大勢の村人で溢れていた。


 「一体どうなっているのさ! 説明しなさいよ!」

 「うちの子が、警備隊なのよ! うちの子も死なせたくない!」 

 「もう終わりだ! 竜神様はどうせ守ってくれない! みんな死ぬんだ!」


 広場は村人の不満で溢れていた。アッシュールは村人の言葉に滅入ってしまい、下を向いて広場を横ぎった。

 アッシュールが広場を通ると、皆は押し黙り、アッシュールを眺めた。誰もがアッシュールに不満が有る目で見ていたが、アッシュールの血まみれの姿を見て、言ってはいけないことなのだと判断したかのようだった。


 「アッシュちゃん、うちのバドは、バドは」

 アッシュールが振り向くと、中年の女性がアッシュールの手を取り、涙を流していた。

 「おばさん。済みませんでした。助ける事が出来ませんでしたが、バドさんを殺した化け物を殺すことは出来ました」


 「あの子は死んだの。そう、わかったわ。それにしてもごめんね。アッシュちゃんを酷い目にあわせてしまったのね。アッシュちゃんを巻き込んだのはバドだからね。バドの敵を討ってくれたのね。ありがとうね。これでバドも浮かばれるね」

 バドの母親はアッシュールの手を強く握る。手には涙が流れ落ちた。


 「おばさん。バドさんを迎えに行ってあげて下さい。勇敢なる戦士、バドを」

 「バドの最後を教えてちょうだい」

 「しかし」

 「いいのよ。覚悟は出来ているわ」


 「ギンドが村に戻ってきて、応援を受けました。急いで駆けつけたのですが、ちょうど大蛇に首を落とされていた所でした。もう少し早ければ助ける事が出来たはずです。悔やんでも、悔やみきれません。バドさんは村を背にして大蛇と対峙していました。大蛇に背を向けることなく、勇敢に戦ったのだと思います」

 バドの母親はアッシュールを抱き寄せた。


 「ありがとう。アッシュール。あの子は勇敢に戦ったのね。よかった」

 バドの母親の発言に、村の人達は押し黙り、一人、また一人と広場から去っていった。アッシュールもバドの母親に頭を下げ、帰宅した。


 「アッシュール、大丈夫だったかぇ」

 アッシュールは皮の鎧を脱ぎ捨て、衣類も脱ぎ捨てた。井戸で体を洗い、血を流した。アッシュールはおぼつかない足取りでテーブルに座る。


 「アッシュール、水でも飲んで、まずはお休み」

 アッシュールは水を飲むとベッドに向かい、眠りに就いた。アッシュールは夢を見ることなく、泥の様に眠り続けた。


 「アッシュール、起きるがえぇ」

 墨婆がアッシュールを揺り起こす。部屋の中は墨婆のランプの回りだけが明るく、他は漆黒の闇だった。


 「嫌な占いが出たぞぇ。戦う支度をするがえぇ」

 アッシュールは飛び起きると皮の鎧を纏い、腰に剣を差し、赤い槍を取る。手渡されたパンをかじりながら厩舎へ向かう。


 葦毛のタルボが、大きな声で嘶く。


 「タルボ、お前も何かを感じているんだな。よし、行くぞ。辛いけど、戦いに行くぞ」

 アッシュールは鞍を付けるとタルボに跨り、厩舎を後にした。

 夜明け前、満月が足下を照らしている。

アッシュールは心を静めて、異常が無いか耳を凝らす。

 アッシュールはうなじに寒気を感じた。村の南側から、嫌な気配がする。


 「何かいるのか」

 アッシュールはタルボをゆっくると歩かせる。村がある竜の盆地は、南北に川が流れている。村は川の東側に位置している。入口は南西にある橋のみだ。


 「ああ」

 アッシュールは川を凝視する。近くに行っていないが、川の中を真っ黒に埋め尽くす何かがいることが見えた。

 アッシュールは急いで村へ戻り、ララクの家に向かった。


 「ララクさん! 起きて下さい! 川にトカゲが沢山来ています!」

 アッシュールは扉を叩き、大きな音を出す。扉が開き、ララクが出てくる。


 「どうした、アッシュール!」

 「川にトカゲの大群がいます! 僕は川に向かうので、村人を避難させてください! お願いします! では!」


 アッシュールはララクに言伝すると、タルボに跨り、川へ向かった。後ろから、わかったと、叫ぶ声が聞こえた。

 川に戻ると、橋がトカゲで埋め尽くされていた。トカゲの大きさは二ジュメほどで、三十人の被害を出したオオトカゲより遙かに小型だった。


 「ああああ!」

 アッシュールは叫び声を上げると、橋へ突進した。アッシュールは橋へ渡らずに、トカゲの頭部を槍で突いた。嫌な叫び声を上げ、トカゲは絶命した。アッシュールは橋の横を駆け抜け、踵を返す。再び橋に突進し、トカゲの頭部を突き刺す。


 「村に入れさせない!」

 アッシュールは叫び声と共にトカゲへ槍を繰り出す。橋で三体を仕留めたところで、橋ではなく川岸から直接トカゲが上陸を開始した。数は十体だろうか。アッシュールは上陸したトカゲに向かって槍を振り下ろす。絶命したトカゲを気遣う事無く、トカゲは村に向かって走り始める。


 アッシュールは先頭のトカゲに追いつき、槍を振り下ろす。先頭が絶命しているなか、二番目が先頭となり村を目指す。アッシュールは二体、三体と槍を繰り出し、次々に倒していくが、トカゲは犠牲を物ともせずに村を目指していた。

大量の怪物に、村の運命は?!


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