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第4章 街へ その8 虎神

 「ナンムちゃん、アッシュールとタルボさんに乗って、とても嬉しそうな顔をしていたわ。アッシュールは子供の女の子がお好みなのかしらね。私はもうお払い箱なのね」


 「なに言っているんだよ」

 「だって、ココちゃんもアッシュールの話ししかしないし、ココちゃんもアッシュールが大好きなのよ。父親としてではなくね。私がいるから諦たみたいだわ。ココちゃんは初恋と失恋を同時に体験しているのよ」


 「そうなの?」

 「あら、駄目ねぇ。ココちゃんはほら、綺麗な翼が生えているじゃない。只でさえ結婚は難しいと思うのよ。翼の人達はあと二人だけよね。おじさまとおばさまよね。グアオスグランは女泣かせの剣ね。ココちゃんとナンムちゃんは子供だし、幼女泣かせの剣と呼ぶべきだわ。でもアッシュールの一番は私よ」


 ルージャは何か言おうとするアッシュールの口を唇で塞ぐ。ルージャの舌がアッシュールの舌に絡みつく。ルージャが唇を離すと、にっこりと笑う。


 「ね、アッシュール。私、アッシュールの子供が欲しい。何処か、旅が終わったら産みたいわ。いいでしょう、アッシュール」

 アッシュールはルージャに横にさせられる。


 「横になっていて。疲れているでしょう。私が見張るわ」

 ルージャは正座をすると、アッシュールの頭を膝にのせる。


 「ね、アッシュール。私ね、あなたに出会えて良かったと思っているの。私を竜では無くて、人として見てくれてるし。あの、相性も良いようだし」


 「なんの相性かな」

 アッシュールはルージャの胸を愛撫する。


 「ちょっと、もう。アッシュール。止めてよ。みんなに見られるわよ」

 アッシュールはルージャの美しい胸に触れる。ルージャはアッシュールの顔を触っている。手がアッシュールの唇に触れた。


 「もう終わりよ、スケベさん」

 アッシュールが睡魔に襲われ始めた頃、ルージャは草むらに頭を隠した。


 「来たわ、アッシュール。起きて」

 アッシュールは身を起こすと、黄色い猛獣の姿が目に入る。猛獣は五頭だった。猛獣は黒い縦模様が入っている。


 「猫か? 違う。大きすぎる」

 「虎だわ。一度見たことがあるわ。南の草原で。こんな寒い場所へどうして」


 「ルージャ、奥の一頭は一際大きい。翼が生えている」

 虎の群れは散乱した死体に近づくと、残っている四肢を食べ始めた。羽の生えた一頭が近づくと四頭は後ろに下がり、食事を眺めている。


 「羽根の生えた一頭がボスだな。いや、この草原の土地神さまだろうな」

 「土地神さま?」


 「その毛皮の主も、森の王だったんだ。森の王は、飢餓に苦しんでいた。翼の人をそうとう殺して食べたらしいのだけど、飢餓感は満たされなかったと、黄泉の入口で言っていた」

 アッシュールはルージャの顔を見る。


 「チパコちゃんやヘガルさんもいるし、どうする、アッシュール。逃げても追いつかれそうよ」

 アッシュールの額に汗が浮かび、流れ落ちる。


 どうやって戦う。アッシュールは草むらから五頭の虎を伺いながら思案する。アッシュール、ルージャとココ、狼のベラフェロ。ルージャとココは戦わせたくない。雨降の少女ナンムと従者のヘガル、使い魔である子犬のチパコ。ヘガルは正直、戦力と言い難く、チパコは子犬であるのに加え、ナンムの守りをしなくてはならない。


 アッシュールは無言で五頭の虎を見つめる。虎は骨を砕く音を周囲に響かせた。虎達はアッシュール達に気が付かないまま、頭と骨を残し、去って行った。

 アッシュールは虎が去っても立つことが出来なかった。陽が傾き始めた頃、アッシュールは立ち上がり、音もなく岩場に戻って行った。


 「パパ! ママ!」

 アッシュールとルージャの姿を認めると、ココが泣きながら飛び込んできた。


 「死んじゃったかと思ったっちゃ! 死んじゃったかと思ったっちゃ!」

 ココはアッシュールの胸の中で声を上げて泣いた。

 「もう一人は嫌と!」


 「ココちゃん。アッシュールは強いのよ。知っているでしょう。だから顔を上げて」

 ルージャがココの肩に手を当てる。ココは泣きはらした目をルージャに向ける。

 アッシュールが視線をあげると、ナンムと従者のヘガルがアッシュールを見つめている。


 「大丈夫ですか、アッシュール様」

 ナンムが近づいてくる。


 「うん、大丈夫。大丈夫」

 「アッシュール殿、あの怪物は一体」

 ヘガルは絶望した目をアッシュールに向ける。


 「よし。みんな座ってくれ」

 アッシュールは焚き火に座ると、皆で焚き火を囲んだ。


 「はっきり言って状況は最悪に近い。まず状況を説明する。街道の死体は昨晩の洞窟にいたときに遭遇した六人の賊で間違い無いと思う。賊の中に黒装束が一名いた。彼が指揮を執っている様だった。黒装束は以前、神殿と名乗った人物の服装に良く似ていた。恐らく、神殿と名乗る一団のひとりだと思う」


 「神殿、ですか」

 ナンムはアッシュールに問いを投げかける。


 「僕には神殿、という以上はわからない。ナンムかヘガルさんは何か知りませんか」

 ナンムは首を振り、ヘガルは下を向いている。


 「まぁ、神殿は今は置いておく。賊を襲った者達は、遙か南国に住む虎という猛獣だ。全部で五頭いた。六名の剣士では歯が立たなかったようだ」

 皆は黙り込んでアッシュールの話しを聞いている。


 「虎達は人肉を綺麗に食べていったんだ。食べ終わったら、街道の向こう側に消えて行った。そして、ボスと思われる一頭は巨大で、背に翼が生えていた。僕は草原の土地神様だと思う。ココ、四腕の灰色熊と同じだと思うんだ」


 「何ですか、土地神さまっていうのは」

 ヘガルがアッシュールを見る。


 「この草原の王者だと思う。草原の生命力が生み出した、神聖なる生き物とも、ひたすら生き物を襲い喰らうだけの邪悪な生き物とも言える」


 「普通の生き物では無いのですね」

 ナンムは下を向く。


 「うん、普通ではない。今後の方針は三つだと思う。一つは街道をタルボとカルボを全速力で走らせ、逃げ切ること。荷物も食料もここに捨てて行く事になるし、助かるのは二人だけで、ボスは飛ぶと思われるので逃げれるかはわからない」


 「二人だけ」

 「うん、ナムル。解決にならないと思う。二つ目は、北側の山脈を越えることだ」

 アッシュールは北の山々を指さす。山は切り立ち、登るのは難しそうだった。


 「無論、タルボとカルボはここに置いていく事になるし、食料も持って行けないと思う」

 皆は黙り込む。


 「僕は戦おうと思う。籠城だ。ここに砦を築き、抗戦する。虎を倒し、堂々と街道を歩いて行きたい」

 ココとルージャは当然のように聞いてる。


 「パパはそうじゃなきゃ駄目っちゃね。どうやって戦うっちゃか」

 ココとは既に二回も戦いを共にしているため、アッシュールの言いたいことは理解している。


 「戦うって、六人の賊があの姿になっているのに、どうするのですか」

 ナンムの顔が不安で歪んだ。

アッシュール達の前に、強敵が現れました。

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