第4章 街へ その5 ナンムの花園
アッシュールは、グアオスグランから団栗が一個落ちたのに気が付いた。
ナンムが団栗を拾う。団栗は淡い光に包まれている。
「さぁ、好きな所に植えて」
ナンムは頷くと、足下に埋めた。
「雨を降らしてみて。少しでいいよ」
ナンムは小さな雲を呼び寄せ、雨を降らせた。
アッシュールはグアオスグランで団栗を植えた上を薙いだ。
雨を受け、団栗が発芽した。発芽した団栗は芽吹き、葉を出し、どんどん大きくなっていく。みるみるうちに木と呼べる大きさになった。木は二股に分かれ、大きくなっていく。二股の幹が拳大になった頃、グアオスグランで片方を切った。
アッシュールはナイフを取り出し、枝を払っていく。半ジュメほどの棒を切り出すと、棒の端を削り、持ち手を作った。
「チパコ、元の姿に戻って」
アッシュールがチパコの頭上でグアオスグランを振るうと、アッシュールが知る、頭が犬で、体が毛むくじゃらの人の姿になる。
「チパコ、竜の木で作った棍棒を渡すよ。これで、ナンムを守るんだよ」
「ワン!」
チパコは棍棒を受け取ると、軽々と振り回す。
「ナンム、今後はこの木を枯らさない程度の雨でいいからね。わかったかい。君は今日から竜の木守りだ。だけど、誰にも言っちゃいけないよ。僕と、竜神と、ナンムだけの秘密だ。君の村の人には、雨降として適当に話しを合わせればいいからね」
「木を守るの?」
「うん、この木はオークの木だから、大きくなるよ。わっかたかい。正真正銘、竜神自らの頼みだよ」
ナンムは頷くと、オークの木に雨を降らせた。木は太くなり、幹の太さは人の体ほどになった。
アッシュールが目を覚ますと、ルージャが寝ているナンムを抱きかかえ、洞窟内の焚き火の側に寝かした。
アッシュールは右手に持っている棍棒をチパコに渡す。
「ワン、ワン!」
チパコは軽々と棍棒を振り回し、使い心地を確かめるとナンムの横で座り込んだ。
アッシュールも焚き火に座り、カモミール茶をすすった。
「ねアッシュール。さっきお茶でなくて鮭を食べていたら、鮭畑になってさ。いくらが落ちてきて、大きな鮭が生えて来たのかしらね。チパコちゃんには干物の鮭を渡してこれで守れって。素敵ね」
「何だ、ルージャはお腹が空いたのか。鮭を炙って食べようか。ココ、鮭を二本持って来て」
「お昼っちゃね。お昼」
ココは小走りでザックから干物の鮭を取り出す。
「一本は火で炙って。一本ちょうだい」
ココはアッシュールに鮭の干物を一本渡す。アッシュールは鮭を二つに切り裂き、ベラフェロとチパコに渡す。チパコは匂いを嗅ぎ、食べられるのか思案している。
「ほら、ベラフェロが食べているだろ。食べても大丈夫だよ」
ベラフェロが鮭を食べるのを見て、チパコも食べ始める。
「ううん、何」
ナンムが物音で目を覚ました。服が乾いていなく、寒さで体を震わせている。
「少し食べな。鮭の干物だけど」
ナンムは鮭の身を受け取ると、口に含んだ。
「見て。アッシュール。鮭を食べたわ。鮭が生えるかもしれないわ」
アッシュールもルージャの戯言を聞き流し、鮭を食べた。横ではルージャがココに鮭を裂いて渡していた。ナンムは疲労の色が濃く、再び眠り始めた。
「ナンムちゃん、すっきりした顔をしているわ。やったわねアッシュール」
ベラフェロが立ち上がった。匂いを嗅いでいる。
「ワン! ワン!」
チパコも立ち上がり、出口の方へ走り始めた。
「あっ、こら。ベラフェロ、ここにいて」
アッシュールはチパコの後を追う。チパコは洞窟内の人影に抱きついた。チパコは人影の手を持ち、小走りで洞窟に案内している。
「ワン!」
アッシュールの前に金髪で痩身の男が姿を現した。年の頃は壮年といってもいいだろう。アッシュールは神経質そうな印象を受けた。
「こちらで、我が村の者をお預かりしていただいているかと思うのですが」
アッシュールは後ろに下がり、ナンムを指さす。
「ナンム様!」
叫ぶ男に、アッシュールは静かにするように口を指で塞ぐジェスチャーをする。
「疲れて眠っています。お静かに。僕はアッシュール。家族で旅をしている者です。妻のルージャと、娘のココです」
「私、ナンム様の護衛をしているヘガルと申します。此度はナンム様がお世話になり申した」
ヘガルはナンムを見ると、傍らで寝ているのを確認する。ヘガルがほっと息をついたようであった。
「ヘガルさん、説明していただけませんか。誰に襲われたんですか。今朝、賊どもが僕たちが野営した跡を調べていました。もう賊はいませんでしたか」
ヘガルは立ち上がると、下を向いた。
「街道には賊はいませんでした。もう大丈夫だと思います。我々は二人で街に行く予定でした。途中で襲われ、離ればなれになってしまいました。賊の正体はわかりません」
アッシュールはヘガルの目を見る。ヘガルは下を向いたままだ。
アッシュールは、ヘガルの視界内で竜の剣、グアオスグランを抜く。ヘガルは剣を抜くが間に合わない。アッシュールはヘガルの喉元へ剣を突きつける。ヘガルが何か言おうとしているが、声にならない。
アッシュールはグアオスグランを鞘に戻した。
「失礼しました、ヘガルさん。あなたひとりではナンムを守れない。僕たちも街へ行く途中でしたから、同行しましょう」
アッシュールは手を差し出す。ヘガルはアッシュールの目を見直し、握手をした。
「かたじけない、アッシュール殿。恩に着ます」
「ナンムも疲れている様ですし、今日はここで野営します。明日、朝から街へ移動しましょう。いいですか、ヘガルさん」
「わかりました。街までお世話になります」
ヘガルとチパコはは寝ているナンムを挟むように座った。
祝、10万文字です。
これからもよろしくお願いいたします。




