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第4章 街へ その3 遠話の術

 「チパコ、どうしてここにいるの。頭がべとべとじゃないの」

 「ワン! ワン!」

 チパコと呼ばれた子犬は嬉しそうに尻尾を振っている。


 「わんちゃんはナンムしゃんとなかよしっちゃね」

 ココが子犬のチパコに近づくと、顔をべろりと嘗められた。


 「ナンム、地底湖があるから頭を洗ってあげたほうがいいよ。ぶよぶよした変な怪物に頭を喰われていたんだ」


 アッシュールは地底湖を指さすと、ナンムはチパコを抱いたまま地底湖に行き、頭を洗い始めた。チパコが水の中に入ろうとするのを左手で押さえ、チパコの頭に水を掛けた。


 「ワン! ワン!」

 チパコは嬉しそうに尻尾を振り続ける。洗い終わるとチパコは水の中に飛び出して走り回り、水しぶきを上げている。


 「チパコ、寒いよ。こっちおいで」

 アッシュールが足下に落ちている枯れ枝を集めると、松明で火を付けた。天井が抜けた部位の下は草が生えている。

 タルボとカルボは草を喰みはじめた。


 「可愛いなぁ、わんちゃん」

 「ベラフェロさん、ココちゃんを嘗めてあげて。寂しそうにしているわ」

 ベラフェロはルージャに言われるとココにのしかかり、顔をべろべろと嘗め始める。


 「きゃー、重たいっちゃ、狼さん。ちょっと」

 チパコが水から上がると、全身を振るわせて毛の水を飛ばした。ココはよだれでべとべとになった顔を洗い、焚き火に座る。ナンムもチパコと一緒に焚き火に座る。ナンムは座ると目を閉じ、呪文を唱え始めた。


 「あの子、術か呪いを使うみたいね」

 「ああ、ルージャ。何者なのだろう」


 「わからないなんて駄目ね。雨を降らすのよ。雨降なんだもの。二十五代目なのよ」

 「ルージャ、何を言っているんだ。雨を降らしてどうする」

 アッシュールが言い終わらないうちに、呪文を唱えるナンムの顔が濡れ始め、水が流れ落ちた。明らかに汗ではなかった。ナンムの周囲に水滴が落ち始める。


 「ほら、雨よ。雨。見て、アッシュール。横に大量の水があるのに、雨を降らすのよ。凄いわ。しかも洞窟内で。最早機能美といっても差し支えないわ」


 ルージャは感心した面持ちでナンムを見ている。ナンムは水でずぶ濡れになっている。チパコは雨は嫌なのか、焚き火の反対側へ避難していた。


 「ナンムしゃん本当に雨降っちゃ」

 ココが関心していると、ナンムは目を空け、立ち上がった。


 「村の者を術で呼びました。近くにいるそうです。遠話の術を使うと、何故かずぶ濡れになるんです。私が雨降だからでしょうか」

 ナンムは服を乾かそうと、焚き火の側に寄る。アッシュールは薪を足して火を大きくする。


 「ほら、チパコ、焦げているじゃない。火から離れなさい」

 ナンムはチパコを火から遠ざける。やりとりを見ているココもベラフェロに襟口を引っ張られ、焚き火から遠ざかる。


 「ココちゃん、髪が焦げているわ」

 ルージャがココの焦げた髪を見ている。

 アッシュールはタルボとカルボの荷をほどく。荷に手綱を結んでおく。


 「今日はここで野営しよう。明日になってあいつ等がいなければ街道を進むよ」

 「アッシュール、この先はカルボさんには無理ね、確かに。残念だけど諦めるわ」


 ルージャが地底湖の向こうを指さす。洞窟は大きな地底湖の向こうにも続いている。時折、天井から水滴が落ち、音が洞窟内に反響する。アッシュールは焚き火を太めの薪で挟み込んだ。鍋に水を汲むと、太めの薪の上に置いた。


 「あるのはローズヒップとカモミールだな」

 アッシュールはザックから乾燥した赤い実、ローズヒップとカモミールの花を取り出すと、鍋に入れた。しばらく煮立たせ、コップに移す。アッシュールはコップをナンムに渡す。ナンムは頭を下げてコップを受け取る。チパコにも渡そうとしたが、匂いを嗅ぐと首を振った。


 「ナンム、花のお茶だ。暖まるから飲んで。で、お願いなのだけど、ルージャの事は誰にも言わないで欲しいんだ。今から来る村の人にもね。僕たちはまだルージャの影響がどのようなものなのか、測りかねているんだ。僕の村も竜信仰があってね。君の村もだろう。君の場合は不思議な力を使うから、もっと強い信仰なのかも知れない。この土地は竜信仰が強いらしんだ。ルージャが竜だとなると、何が起きるかわからないからね。僕たちの望みは旅を続けることだけだ。頼むね」


 「誰にも、ですか」

 「うん。お願い出来るかい。そして、君も雨降だと誰にも言わない方がいい。術も人前では使わない方がいい。君の持つ不思議な力を欲しがるよこしまな人達に追われているんだろ。ルージャも同じだと思うんだ」


 ナンムは真剣なまなざしでアッシュールを見る。ルージャがコップを取り出し、ココと二人で花のお茶を飲んでいる。

 「アッシュール。あなたに話しがあるわ」

 ルージャがコップ片手に近づいてきた。


 「なんだい」

 「アッシュール、なによ、いつもはお湯しか出さないくせに、今日はこんなに美味しいお茶を」

 ナンムはルージャとアッシュールのやりとりを見てにっこりと微笑んだ。


 「わかりました。私とルージャ様との秘密にします」

 「ありがとう。可愛いわね、ナンムちゃんは」

 ルージャはナンムを抱きしめる。ナンムはまだ背が低く、ルージャは女性としては長身であるため、ナンムの頭がルージャの胸に挟まれる。


 「ナンムちゃんの為に祈って上げるわね」

 ナンムは驚いて顔を上げる。


 「あなたに素敵な旦那さんが出来ますように。子供はそうね、七人がいいわ。七人産むのよ。決まりね」

 ナンムは驚いたようにルージャを見上げる。


 「ルージャ様。かなり変ですけど、子孫繁栄のようなお祈りありがとうございます」

 「目を閉じて」

 ナンムは目を閉じると、ルージャは強く抱きしめた。


 我を抜け。赤い世界の清い風よ。

 竜の剣、グアオスグランがアッシュールに話しかける。


 「いいわよ」

 ルージャが小さく耳打ちした。

 アッシュールは剣を抜くと、ナンムの頭の上を薙いだ。

アッシュールは竜の剣を抜きましたが、どんな秘密が隠されているのでしょうか?

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