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第4章 街へ その2 愛犬チパコ

 アッシュールは言葉を止めると、駆け足で岩の影に隠れる。アッシュールはタルボから降り、岩の影から街道を伺う。


 「みんな、静かに。奴らが来ている。動かないで」

 アッシュールの言葉でナンムの顔に緊張が走る。ナンムもタルボから降り、街道の様子をうかがっている。


 街道には新たな馬車が二台来ており、六名の人間が昨日の襲撃跡を調べていた。アッシュールは息を殺して見守る。

 ルージャとココもカルボから降り、岩陰から街道を眺める。


 アッシュールには五名は一名の元で動いているように見えた。五名の服装に統一感は無く、ならず者に見える。指揮している一名は黒装束に見えるが、アッシュールの目では遠すぎて確認出来なかった。


 「ルージャ、隊長みたいなのがいるだろ、黒いローブか何か着ていないか、見えるかい」

 アッシュールは小声で話す。


 「黒かな、赤かな、両方かな、小さくてちょっとわからないわ」

 「赤とか黒?」


 「それは間違い無いと思うわ」

 「よし、わかった。洞窟に入ってやり過ごそう。しばらく出ない方がいいかもな」


 アッシュールはタルボの手綱を引き、洞窟の入口に向かう。入口を隠している岩は四ジュメほどの大きさだが、入口の大きさは二ジュメほどだ。普通の視力では、岩のために洞窟の入口が見えない。


 「ルージャ、見張りを頼む。ココ、手綱を持っていて」

 アッシュールはタルボとカルボの手綱をココに手渡す。


 「う、うん。頑張るっちゃ」

 ココは緊張して手綱を持つ。アッシュールは軽く鼻面を叩き、タルボとカルボを座らせた。アッシュールは拳の太さの枝を四本拾ってきた。ザックから一番汚い衣類を取り出すと四つに切り裂き、棒の先端に巻いた。オリーブ油を取り出すと二本に染みこませ、松明を作る。二本はザックにしまい込む。


 「ルージャ、火を」

 アッシュールは背中から松明を差し出す。


 「よし、みてなさいよ」

 ルージャは大きく息を吸うと松明に火を付ける。


 「どう、アッシュール。竜の火は、鼻が、鼻が」

 ルージャは体をよじってアッシュールの方を向くが、アッシュールに無理矢理前を向かされる。


 「ハックション」

 ルージャはくしゃみと共に岩に向かって火を飛ばすが、燃える物が無く火は消えた。


 「酷いわ、アッシュール。無理矢理なんて駄目よ」

 「なんでくしゃみするとき僕の方を向くんだい。まぁいいや。ルージャ、一本持って。ベラフェロと僕が先頭、ルージャが最後尾。ココとナンムは真ん中ね」


 アッシュールは松明を洞窟に掲げる。光が少し先を照らす。光が照らされたら身を刺すような洞窟の持つ殺気めいた感覚が薄れていった。


 「パパ、この洞窟は普通じゃないっちゃね。お馬さんも変な顔をしているっちゃ」

 「そうね、でも私の火があるから脛に傷のある者達は出てこられないわ。いざ、行くわよ洞窟の中へ」

 ルージャはアッシュールから松明を受け取る。アッシュールは松明を左手に持ち、ベラフェロと共に歩き始めた。


 洞窟は下を向いていた。アッシュールは岩肌を眺める。


 「驚いた。ここは洞窟じゃないな。トンネルと言った方がいいかも」

 アッシュールは驚いて壁を触る。


 「そうなの、パパ。ウチにはわからんきに」

 「本当に美しい洞窟よね。ほら、ココちゃん、天然の洞窟はこんなに真っ直ぐになってないのよ。細くなったり、曲がったり」

 ルージャがココの問いに、恍惚とした表情で答える。


 「ひやっ」

 ナンムが悲鳴を上げ、上を見上げる。水滴が落ちてきたようだ。


 「さぁ、少し進もうか」

 アッシュールはゆっくりと歩く。左手に持つ松明を掲げるが、洞窟の先は見通せない。アッシュールは歩きながらベラフェロの様子を伺うが、変わった様子は無い。


 「ママ、水の音がするっちゃよ」

 アッシュールは耳を澄ますと、水の流れる音が聞こえてきた。


 「地下水脈ね。アッシュール、早く行来ましょう」

 流水音が聞こえてしばらく歩くと、ベラフェロが唸り始めた。


 「何かいるのか、ベラフェロ」

 アッシュールが剣を抜くと、皆静かになった。ルージャも剣を抜き、ココも槍を構えた。


 アッシュールが手でルージャとココを制すると、ベラフェロには手で来るように合図する。アッシュールは音もなく先へ進んでいく。ベラフェロは背を低く保ち、音と気配を完全に殺している。


 洞窟は左に曲がった。曲がり口から先を覗くと、明るい光が目を刺した。目を刺す痛みに慣れると、大きな空間が目に入った。小さな滝があり、空洞の向こう側が池になっている。池の向こうに洞窟が続いているようだ。天井が崩れ、陽光が差し込んでいた。崩れた天井から木々が覗き、単調な色調に鮮やかな緑を加えていた。


 「ベラフェロ、行くぞ」

 子供が倒れている。ココと同じくらいか。


 「間に合え!」

 アッシュールは走り始める。アッシュールは走りながら剣を鞘に戻し、松明を右手に持ち替える。


 アッシュールは粗末なボロ布の子供の体を抱え上げ、頭に向かって松明を近づけた。軟体動物だった。形が不定型で水分とも固形とも言えない物体が子供の頭を覆っていた。火で焼かれた物体は子供から離れ、池に向かって這っていく。


 アッシュールは物体に松明を押し当てる。火はルージャの竜の火だ。物体は火から逃げようと体を痙攣させるが、アッシュールは松明を両手で持ち、物体に押し当てた。

 物体が沸騰し始め、動かなくなった。


 「ワン!」

 後ろから元気の良い犬の声が聞こえてくる。アッシュールが振り向くと、ベラフェロは子犬に抱きつかれて困った顔をしている。


 「ワン! ワン!」

 子犬は両手でベラフェロの毛を掴み、ベラフェロの顔を嘗め始めた。尻尾を嬉しそうに動かしている。


 子供だと思ったのだが、頭が犬だった。よく見たら胴も毛むくじゃらだ。毛は黄金色で長い。シルエットは人だが、かなり犬だ。

 アッシュールは左手で子犬を抱き上げる。


 「ワン、ワン!」

 子犬はアッシュールの顔を執拗に嘗め始める。


 「おーい、こっち来て!」

 アッシュールが叫ぶと、残された一行がやって来た。


 「わんちゃんがおる!」

 ココは手綱を引きながら近づいていた。アッシュールの腕の中で、子犬が暴れ始める。


 「チパコ! チパコ!」

 「ワン! ワン!」

 子犬がナンムの声に反応し、アッシュールの腕から逃れると、ナンムめがけて走っていった。

洞窟へ行ったおかげで危機を脱したようです。

読んで下さっている方、ありがとうございます。

引き続き、よろしくお願いいたします。

最近、なかなか筆が進まない状況です。

ストックも少なくなって来たので、頑張らねば・・・

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