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第4章 街へ その1 丘の上の洞窟

第四章 街へ

 ルージャは徐々に登る太陽を見ていた。傍らではアッシュールとココ、ベラフェロ、そして雨降のナンムという少女が眠っている。昨晩、何者かに襲撃されたので、アッシュールと交代で見張りをしている。アッシュールはルージャが見張りをすることに反対したが、少しは寝ないと駄目だと諭すと、渋々納得した。


 ルージャは薪に火を付けると、立ち上がり街道へ出た。太陽の斜光は草原を光らせ、光の海にいるかのような錯覚に陥る。


 ひんやりする風が頬に気持ちいい。ルージャが草原を見ていると、小高い丘が目に入った。

 ルージャの心臓が高鳴った。もう一度確認するが、間違い無い。ルージャは丘に視線を集中させる。


 「は、早くアッシュールに教えないと!」

 ルージャが駆け足で戻ると、アッシュールは起きていた。


 「おはよう、ルージャ。火をありがとう」

 アッシュールは鍋を取り、水を汲みに行こうと立ち上がる。


 「アッシュール、アッシュール、こっち来て、こっちよ!」

 ルージャは興奮して大声を出す。


 「おい、ココが起きるから静かに」

 「いいから、こっち、こっち!」

 アッシュールの声はルージャに届いていない。


 「ママ、何かあったの」

 ココが起き上がる。


 「ココちゃん、凄いのよ! 凄いの!」

 ココは不思議そうな顔をアッシュールに向ける。


 「パパ、ママはどうしたの」

 アッシュールは首を少し傾ける。

 ルージャは立ち上がると、街道めがけて走って行った。ココとアッシュールは慌てて後をついて行く。


 「アッシュール、ココちゃん。ほら、あそこに丘が見えるでしょう」

 ルージャは草原を指で示す。アッシュールはよく見ると、草原の一部が小高く盛り上がっているのを発見した。


 「ああ、小さな丘があるね。よく見えるな。凄い目だ」

 アッシュールは丘に何かあるのかと思ってよく見るが、遠くてわからない。


 「ココちゃんもよく見て。丘の中腹に大きな岩があるのよ。奥は空洞ね。間違い無いわ。洞窟よ、洞窟があるのよ!」

 「え、丘って何処にあるっちゃ」


 「ほら、あそこよ、よく見て。あそこ」

 ココはルージャが指さす方向を真剣に眺める。


 「有るような気がするっちゃ」

 ココは丘が判別出来なく、話しを合わせた。

 「よし、そうしたら朝ご飯食べるわよ! 洞窟があるなんて、雨降の女の子も喜ぶわ! ココちゃんも嬉しいわよね!」


 「えっ」

 ココは驚いて声を上げるが、当然ルージャには声が届かない。


 「おい、ココ。女の子は洞窟が好きなのか」

 アッシュールは小さい声でココに尋ねる。


 「いや、うちは行きたくないけど、ママは竜だし、洞窟が好きっちゃよ、多分」

 「ああ、そうか。竜のすみかは洞窟だもんな」


 ココとアッシュールを置いて、ルージャは焚き火に戻って行った。ルージャは荷物から鮭の干物を取り出し、火で炙り始める。


 「おはようございます。赤い世界の竜神様。昨晩は助けていただいてありがとうございました。そして、このようなお召し物まで」

 雨降と名乗った少女、ナンムはルージャに深々と頭を下げた。ナンムもアッシュール達と同じ銀髪だった。


 「私の本当の名は神聖で秘匿すべきなの。ルージャと呼んでね。よろしくよ」

 ルージャは焚き火の上で、鮭を暖めている。暖まった身をむしると、ナンムに渡す。


 「ありがとうございます。ルージャさま」

 「さまも余計ね。呼び捨てにしてね。ルージャって」

 アッシュールとココも戻って来て、鮭を食べ始めた。ベラフェロもおこぼれをいただいている。


 「さぁ、みんな、行くわよ!」

 ルージャは高らかに宣言する。


 「えっ」

 アッシュールは小さく否定してみるが、ルージャに届かない。


 「無駄っちゃ、パパ」

 ココは立ち上がると、天幕を外し始める。アッシュールも片付けを始める。


 全ての荷物をタルボとカルボに積むと、アッシュールとナンム、ココとルージャの組み合わせで騎乗した。ナンムは馬に乗るのが初めてらしく、手綱を握りしめて離さなかった。ルージャの前にココが乗っているが、ルージャは二人で騎乗しているので普通に乗っている。


 アッシュールは注意深く、丘に向けて歩を進めた。草原の下は湿地であるが、水が拳半分ほど染み出て来るだけで、歩行には問題なさそうだった。


 「初めまして、僕はアッシュール。三人で旅を始めたところなんだ。君は何処から来たの」

 「あ、あの、私は」


 「言いたくなければ言わなくてもいいよ。僕たちは街へ行こうと思っているのだけど、都合の良いところまで君を送っていくよ。済まないけど、ルージャが洞窟を見つけてしまって興奮しているので、そこまで付き合って貰おうかな。ルージャと少なからず因縁がありそうだしね」


 「申し訳ありません。隠れ谷の掟で、話すことが出来なのです」

 「うん。いいよ。お、見えてきたよ。近くで見ると大きな丘だね。確かに大きな岩がある」


 アッシュールはナンムの村の場所が秘密にされていること、代々、雨降という役職が継承されていること、雨降という役職が誘拐にあうほど特別であることが伺い知れた。襲われた場所から判断して、隠れ谷はこの近くであり、特別な少女なのだろうと見当を付ける。アッシュールの竜の村とかなり近いことになるが、村があるとは聞いた事も無かった。もしかしたら、本当に雨乞いが出来るのかも知れない。できるのであれば、人知を超えた能力と言うことになる。人知を超えた能力を欲がっている輩がいるのも事実なのかも知れない。昨晩の襲撃で、相手は不思議な死に方をしているので、単に少女を拐かしたのでないのは明白だ。


 ナンムの周辺がきな臭くなっている。扱いは慎重にした方が良いとアッシュールは思った。

 「カルボさん、急いで」


 ルージャに言われ、カルボが駆け足で丘に向かう。あっという間に前を塞ぐ岩に隠れ、見えなくなる。アッシュールも駆け足でルージャの後を追う。


 前を走るベラフェロが立ち止まり、後ろを向いた。後ろと言うより、街道を見ている。

 「どうした、ベラフェロ、何か、あ」


今回から新章スタートです。

ルージャが丘の上に洞窟を見つけましたが・・・

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