第3章 目覚め その10 雨降の少女ナンム
ルージャが命ずると、ナンムは目を閉じ、眠りに就いた。アッシュールには表情が和らいだかのように見えた。
「パパ、ママとあの子、ナンムしゃんは知り合いなの。秘密の名前まで知っとっと」
アッシュールは首を振って否定する。
「ねぇアッシュール。この子誰かしら」
ルージャは真面目な顔をしてアッシュールを見る。
「誰って、僕が知るわけないだろ。まるで知り合いかと思ったよ」
「雨降って何かしら。誇らしげに言われてしまったわよ。思わず話しを合わせたのだけど」
アッシュールは首を振って知らないと意志表示した。
「ママはくしゃみすると火を飛ばして大火事になるから、雨を降らして火を消すんちゃ。きっと」
ココが鍋に水を張り、湯を沸かし始める。
「ココちゃん、お口が悪くなったわね」
「お話は後にして、ご飯にするっちゃ。お腹すいたっちゃ」
「ルージャ、いつから僕が竜の棟梁になったんだい。ルージャじゃないのかい」
アッシュールは麦と干し肉を取り出し、ココに渡す。受け取ったココはごく少量の麦を鍋に入れた。
「ココ、もうちょっと麦をいれていいよ」
ココは頷くと、鍋に麦を入れていく。
「私の夫なのだから、棟梁よ。血の力だって、私より、ココちゃんの槍の方が強いし、アッシュールの剣はもっと凄いわ」
「うん。まぁ良いけど、棟梁と言うからには、まとめるべき人達がいるんだろ。何処にいるんだい」
アッシュールはココにナイフを渡す。ココは干し肉を切って、鍋に入れている。
「さぁ。知らないわ」
「え」
驚くアッシュール。ココは当然という顔でルージャを見る。
「パパ、いちいち驚いていちゃ駄目っちゃよ」
「そうよ。驚かれても困るわ。私の島にはね、火山があるのよ。私はそこで生まれたの。生まれたらね、先代棟梁が話しかけてきたのよ。次の赤い世界の棟梁はお前だ、赤い世界の真理よ、って言葉だけ発して消えたわ。残留思念かなにかかしらね。竜は私しかいなかったわ。だから、何も聞いていないの。残念ね。良きに計らってね、棟梁。アッシュールは物知りだから大丈夫よ。良かったわね、アッシュール。アッシュールは竜神様だから、もう祈る必要はないわ」
「はぁ」
アッシュールは符に落ちない返事をする。
「あ、納得していないわね。仕方ないのよ。私は生まれてから空を飛んでいただけなので、私が上手く棟梁ができる訳が無いじゃない。ね、ベラフェロ。お前は私の味方よね」
ベラフェロはルージャに頭を撫でられながら眠りについている。
「パパ。棟梁って何っちゃ」
ココは沸騰する鍋を気にしながら問いかける。
「棟梁というのは村長みたいなものだよ、ココ。もう少し、漠然としたイメージがある。村と村をまとめる実力者みたいな感じだね」
アッシュールは焚き火に薪を追加していく。ココは鍋の味見をし、塩を足していた。アッシュールは器をスプーンを取り出すと、ルージャとココに配る。
「もういいっちゃよ。はい、ママ。パパのはこっち」
「この娘をどうするか決めないとね。明日、起きたら話してみるか。ココは食べたら寝なさい。僕は見張りをするよ」
アッシュールは麦かゆを食べ終わると、地面に器を置いた。
今回で3章が終わります。
分量が少ないので、引き続き4章をアップいたします。




