表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/70

第3章 目覚め その4 ルージャの目覚め

 「さぁ、ココちゃん。起きて」

 「あい。母さまと、父さまが行ってしまったっちゃ」

 

「ココちゃん。まだココちゃんの中ではお別れできてなかったのね。きちんと、お別れするのよ。出来る?」

 「うん。出来る。母さま、父さま、さよならっちゃ。うちは元気に生きるっちゃよ」


 「うん。これからね、私がココちゃんのお母さんになるから、一緒に暮らそうね」

 「お兄さんが父さまになるっちゃか?」


 「うん、うん、そうね。そうなるわね。仕方ないわね。あの男、私に一目惚れしてね。僕の美しい人! とか言い出すのよ。ちょっと気持悪いけど」


 「お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと、頑張って守っとたよ。大きな熊が来て、かっこよく倒したとよ。お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好いとらんの」


 「うふふ。三人で暮らそうね」

 ルージャがココにウィンクする。ココにこりと笑って頷いた。ベラフェロが近づいて来て、ルージャに頭をこすりつける。次に、ココの頬をべろりと嘗めた。


 「ほら、お兄ちゃんのベラフェロですよ」

 「あれ、弟じゃないの。がっかりっちゃ」

 女性陣、ルージャとココがアッシュールから離れてひそひそ話をしている。内容はアッシュールは聞こえていない。アッシュールには別の、消えそうな不定型な心が見えていた。


 「アノコムスメハ、イキテオルカ」

 「お前は、熊か」


 「イカニモ。コムスメハ、ウツクシク、ミトレテシマッタ。クビヲ、モッテイカレタ」


 「お前達は何者だ」

 「ワレワレハ、神トモ、魔物トモイウ」


 「何処から来たのだ」

 「キガツイタラ、サントウデ、モリニイタ」


 「神とは何だ。魔物とは何だ」

 「オナジモノダ。魔ノチカラノツヨイモノダ。アノオナゴヤ、ソノ、ケンモオナジダ」


 「あの森は、お前の物だったのだろう。横取りしたようで済まない。我々も生きるために仕方なかったのだ」

 「キニスルナ。イマハ、モウレツナキガ、クウフクガナイ。クビヲオトサレテ、ヨウヤクココロガシズカニナッタ。レイヲイウ」


 「まて、お前達の目的は何だ。教えてくれ」

 「ワレワレハ、ソコニアルダケダ。カミノクニヤ、マノクニカラキタト、ニヒキハイッテイタガ、ワレハシラヌ。ワレニモクテキナドナイ。ワレハヒタスラ、コロシテ、クラウノミダ。ナンノタメニソンザイシテイタノダロウ。モリノオウハオマエダ。ソクサイデ」


 熊の残留思念は薄くなっていった。アッシュールはグアオスグランを横薙ぎすると、完全に消え去った。


 全てが漆黒の闇に閉ざされた。


 アッシュールは目を開ける。コリとクコに肩を掴まれ、小屋目指して飛んでいた。小屋はすぐに近くなり、アッシュールは走ってココの元に行く。


 「ココちゃん!」

 クコが狂った様にココの名前を呼ぶ。


 ココはぴくりとも動かない。手の脈を診るが、反応は無い。

 ココの口に血が溢れている。ココを横むきにし、口に指を入れて血を吐き出させる。


 アッシュールは、ココに微かに息が戻った感じがした。アッシュールは、鼻を摘むと、ココの口に自分の口を当て、息を吹き込む。二回吹き込むが反応が無い。もう二回、大きく吹き込む。


 ココは大きく咳をし、血反吐を吐き出した。アッシュールの顔も血で真っ赤になっている。血を吐き出してから、ココの呼吸は徐々に力強く、魂のこもったものになった。


 アッシュールはココを小屋の中に入れ、ココの靴と弓、毛皮の上着を脱がし、ルージャの横に寝かせた。


 「う、うん・・」

 ココが苦しそうに反応した。アッシュールは手ぬぐいを水で濡らし、ココの顔を拭いていく。たちまち、血で真っ赤になる。


 ココが目を開けた。痛そうに体を起こす。


 「ココ!」

 アッシュールがココを抱き寄せる。


 「ココ、良かった、良かった」

 「お兄さん、痛い、痛い」


 「ココ、ごめんな。ココを戦いに巻き込んじゃったな」

 「ううん、うちこそ、ありがとうっちゃ。母さまと父さまの敵が討てて、よかったっちゃ」

 ベラフェロが、ココの頬を嘗める。


 「ベラフェロ兄さん、ただいまっちゃ」

 コリとクコの夫妻は会釈すると、小屋から出て行った。轟音と共に、村へ戻っていった。


 灰色熊を倒した日、アッシュールとココは小屋で泥の様に眠った。アッシュールが起きたのは、昼近く、ココに起こされた。


 「ね、起きて。起きて」

 ココがアッシュールを揺する。


 「ん、ココ。おはよう」

 アッシュールは寝ぼけてココを抱き寄せる。


 「ちょっと、ちょっと、離してっちゃ! おねぇちゃんが浮いていないっちゃ! 寝返りをしとるよ!」


 「え!」

 アッシュールは驚いてルージャを見る。確かに、ルージャは竜の力か、拳半分浮いていた。微動だにせず、まるで石像のように動かなかった。それが、横向きに寝ている。


 「ううん・・・」

 ココとアッシュールの前でルージャが寝返りをうつ。

 天井を向いて、仰向けになる。


 「み、水を飲ませないと」

 アッシュールは革袋をルージャの口元に寄せ、唇を湿らせる。唇はゆっくりと開き、微量の水が流れ込む。


 「あ」

 アッシュールは手元が滑り、大量の水がルージャの口に入る。ルージャは咳をして水を吐き出した。


 「何をするのですか! 本当に死んでしまいます!」

 ルージャが跳ね起きた。


 「おねいちゃん! おねいちゃん!」

 「ただいま、ココちゃん。初めましてかな。アッシュールを助けてくれて、ありがとうね」


 「おねいちゃん! お帰り!」

 ココがルージャに抱きつく。ココとルージャは透き通るような白い肌と、輝く銀髪だ。見ていると、血縁があるように見える。ルージャの瞳は赤いが、ココは青い色をしている。


 ルージャはココの頭を撫でながら、アッシュールを見つめる。


 「ただいま。アッシュール」

 「ルージャ!」


 アッシュールはルージャを抱きしめる。

 「起きないかと思ったよ。本当に、起きないかと思ったよ」


 「いいから涙を拭いて、アッシュール。これからよろしくね」

 ルージャはアッシュールの顔を両手で抱き寄せた。ルージャはアッシュールの胸の中で温もりを感じていた。目が会うと、二人はキスをした。

長かったルージャの昏睡ですが、ようやく目覚めました。

ココも助かり、灰色熊編は終了となります。

大変お手数ですが、評価及び、ブックマークしていただけると

励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ