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第3章 目覚め その3 亡霊の両親

 ココは金切り声を上げながら、全身全霊の力で、飛んで行く。景色が流れ、熊の喉元しか見えない。


 「いけぇぇ!」

 轟音と雲が灰色熊の喉に突き刺さる。

 灰色熊は叫びも上げることなく、頭部が吹き飛んだ。頭を失った灰色熊は、血しぶきを上げながら倒れ込んだ。


 ココは全身の力で灰色熊に飛び込んだ。ココは灰色熊に衝突した衝撃で、小屋に向かって吹き飛んでいく。ベラフェロがココに向かって飛び込んで行く。ココの体が、ベラフェロに当たり勢いが弱まったが、かなりの勢いで壁に打ち付けられた。


 「う」

 ココはうめき声を上げたあと、動かなくなった。


 「ココを追わないと!」

 アッシュールが立ち上がると、両腕を羽交い締めされる。


 「行きますよ、アッシュール殿。しっかり掴まって!」

 アッシュールは両腕を抱えられ、コリ夫妻に抱えられて木の上に出る。時折、妻のクコの力が抜け、落ちそうになる。


 「頑張れ、クコ! もうすぐだ!」

 木の上を、三人が飛ぶ。歩くと、時間が掛かるが、飛ぶとすぐに小屋が見えて来る。


 灰色熊が血しぶきを上げて倒れている。傍らで、ベラフェロが悲痛な鳴き声を上げながらココを嘗めている。ココはぐったりして動かない。


 「ココが! ココが!」

 アッシュールは思わず叫ぶ。


 我を抜け。赤い世界の清い風よ。


 誰かが、アッシュールの脳裏に声かける。 

 我を抜け。


 もう一度、脳裏に響く。

 アッシュールは竜の剣、グアオスグランを引き抜く。


 「ココ、今行く!」

 

 アッシュールの視界が、不意に真っ暗になる。

 

 狼の雄叫びに、アッシュールがベラフェロが足下に居ることに気が付いた。

 ベラフェロはアッシュールの裾を噛み、引きずるように歩き始める。アッシュールは小走りでついて行く。


 アッシュールに、ベラフェロの意図が見えてきた。小さな子供が横たわっている。

 銀髪、白い肌。毛皮の衣類。ココだ。

 

「ココ、ココ!」

 アッシュールはココを抱き寄せる。


 「ココ、ココ、しっかりしろ、ココ!」

 ココは動かない。


 アッシュールと、ココ、ベラフェロ以外は漆黒の闇。アッシュールはこの闇は来た事があると感じた。

 ベラフェロが、ココの後ろに向かって唸り声をあげる。


 「ココはこちらに貰い受けます。今まで、お世話になりました」

 黒い翼、灰色の髪の男性と、灰色の髪と翼を持つ女性が立っている。顔立ちがココに似ている。


 「ご紹介が遅くなりました。私はココの母親、コロです。こちらが父親のカコ。お見知りおきを。ココはまだ、春を手の指を超えた位数しか迎えていません。まだ子供なのです。ご承知かと思いますが、親のいない子供は、辛い人生を送ります。感情が不安定になり、不安定な感情が不安定な行動を産みます。不安定な行動は回りの者を不幸に落とし入れます。親が居ないという事実が、子供の成長に非常に悪影響を及ぼします。ココは良い子でしたが、私が熊に殺されてから不安定な子になってしまいました。思慮が足りず、感情に起伏があり、コリやクコの言うことも聞きません。親がいない悲しみがココを支配してしまっています。このまま育ったとしても、弱い子になるでしょう。この子に、そこまで苦労はさせたくはありません。この子は、あなたのように強い胆力を持ち得ないのです。弱音を吐き、道ばたで野たれ死ぬのです。我々は人ではありません。人であれば、弱音を吐いても生きて行けるかも知れませんが、この子は一人で生きて行かなくてはなりません。我々の最後の生き残りとなるからです。どの村にもいることは出来ず、死ぬまでさすらうのです。コリは村を、翼の無い者どもに任せようとしています。もう、居場所が無いんです。さぁ、ココを渡してください」


 ココに強い力が掛かる。アッシュールは離さないように力を込めるのに精一杯となった。


 「ココは渡さない! 渡さない!」

 アッシュールは叫ぶが、ココを奪い取ろうとする力に必死であがなう。


 「もう良いのです。ココを楽にさせて下さい。もう、ココは悲しみで胸が張り裂けそうなのです」

 アッシュールは必死でココを抱きしめる。ココの母親の言葉が、正当性を持ってアッシュールに襲いかかる。


 「違う、違う!」

 アッシュールは必死であがなうが、心の底ではあがなえなくなっている。


 「あなたも、私の言葉は分かっていただけたかと思います。何処か間違っていますか。全て本当の事です」

 アッシュールは片手でココを抱き、竜の剣、グアオスグランを構える。


 「僕は、竜の剣、グアオスグランの持ち主、赤い世界の清い風だ。竜の意志を継ぐものだ。赤き竜、赤い世界の名において、ココはこの世に生きて行く。これからは、常に僕がいる。ココの苦しみは、僕の苦しみだ。二人で分かち合う。だから、安心して黄泉に帰れ。帰れ!」


 アッシュールは、負けそうになる心を竜の名で奮起させ、声を振り絞る。


 「三人です。清い風と、私赤い世界の真理も側にいます。安心して下さい」

 ルージャが不意に現れた。ルージャはアッシュールからココを抱き取る。


 「さぁ、アッシュール。あの二人を、黄泉に帰してあげて。これから、三人で頑張って生きていきましょう」

 アッシュールは立ち上がると、グアオスグランを構えた。


 「わかりました。ココをお願いいたします。ココは、これから反抗期ですから、扱いが難しくなりますよ。では、ココをお願いしたします」

 アッシュールは頷くと、グアオスグランを横薙ぎする。ココの両親は二つに割れ、消えていった。


灰色熊戦終結です。

お読みいただき、ありがとうございます。

鋭意執筆中です。

今後もよろしくお願いいたします。

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