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第3章 目覚め その1 決戦前夜

第三章 目覚め

 熊の探索後、何事も無く日々が過ぎていった。木々の葉すっかり赤や黄色に変わり、落ち始めた頃、ココが来た。


 「お兄さん、柵とお堀の準備が出来たよ。いつでもいいって。凄いよ。でっかい木のお壁とね、穴が空いているんだ」

 アッシュールはココの頭を撫でると、寝ているベラフェロに声をかけた。


 「ベラフェロ、戦に行ってくる。何日か、小屋を開けるけど、留守番頼むよ」

 ベラフェロは大きく遠吠えする。


 アッシュールは竜の村の鍛冶、エンメンから受け継いだ竜の鎧を身につける。一人では着ることが出来ず、ココに手伝って貰う。


 「お兄さんの鎧、竜みたいっちゃね」

 ココは赤い鱗の鎧を見つめる。アッシュールは面を付けると、ココの顔に近づいた。


 「お兄さん、ちょっと怖い」

 ココは顔をそらす。

 アッシュールはありったけの鮭を天井から降ろす。十匹ほど、ベラフェロの前に置く。

 

「夜も留守番頼むよ。ご飯は鮭を食べてくれ。頼んだよ」

 ベラフェロはルージャの血を嘗めて、体が大きくなっている。どうやら、かなりの知能を持っていると思われた。アッシュールが話しかけると、人の言葉を理解しているのではと思わせる。


 「タルボ!」

 アッシュールは鞍を持ち、放牧場の前で葦毛のタルボの名を呼んだ。タルボとカルボは揃ってやって来た。


 「しばらく戦いに行って来るから、元気でな」

 アッシュールがタルボに声を掛けていると、ココはカルボを触ろうと手を出すが、カルボが動くとびっくりして手を引いてしまった。

 アッシュールはベラフェロの頭を撫でる。


 「ベラフェロ、留守番を頼んだよ。夜も狩りに行かないでくれよ。鮭を置いていくからさ」

 アッシュールは十匹ほどの鮭を地面に置いき、槍に鮭をぶら下げた。

 ココと二人小屋を出る。鮭を十匹、森にある、獣道の入口に置いた。


 「ココ。ここから村まで歩いて行けるかい」

 「うん、歩くとお昼過ぎるけど、大丈夫」

 ココは熊の出入りする獣道と逆側の森に入っていく。よく見ると、獣道になっている。深く、暗い森を歩いていく。時々、鮭を置いていく。獣道が、不意に広場に変わる。ココは二人で鮭を食べて休憩する。


 広場は熊と一対一であれば、立ち回れるが、少し狭い。狭いと、熊の手をかわすことが難しくなる。広場で迎え撃つのは難しそうだ。


 広場から登りになる。木々はまばらになり、細い谷間を進んでいく。人が二人通れるか否かという幅である。守りやすい土地に村があるらしい。大勢の兵に押し寄せられても、少ない兵で守る事ができる。だが、相手は人では無く、異形の者だ。どちらかと言うと、熊たちに有利な地形である。


 狭い谷を歩くと、丸太の柵が見えてきた。道は少し下りになり、柵との間に、人が一人分の高さの段差が出来ている。余った鮭を全て柵の前に置く。


 「おーい、帰ったっちゃ!」


 「おお、ココ帰ったか。今はしごを降ろすからな。そちらは熊殺し殿じゃな。よろしく! わしは村の長、コキの弟、コルじいじゃ。よろしゅう」

 クゴがはしごを降ろすと、ココが登っていった。コルじいも黒髪、黒い翼の老人がいる。


 「お尻が見えるから、すぐ来ちゃ駄目っちゃよ」

 「いいから登れ」

 ココが登り終わらないうちに、アッシュールは槍を持ちながら登っていく。


 「ぎゃ、エッチ!」

 騒ぐココを無視して、柵の向こうに降り立つ。


 「なかなかの出来じゃないですか。これなら勝てます」

 「お兄さん、何か聞こえるっちゃ。来たのとちゃう?」


 ココが恐怖の表情と共にアッシュールを見る。 

 コルじいも押し黙る。確かに、遠くで獣が鳴く声が聞こえる。


 「ココ、村長の息子を連れてこい!」

 「あい!」


 「やりましょうか、熊殺し殿!」

 コルじいが短剣を構え、翼を広げる。


 「弟さん、戦う前に言っておきます。飛んだら駄目ですよ。いいですか。あいつらは動きが速いです。爪でやられるかもしれません。今回は弓で片を付けます」

 コルじいは翼をしまい、短剣を構える。


 「ぐむ、わかったわい。先祖伝来のこの剣で討ち滅ぼしちゃるわい」

 アッシュールは、翼の人たちは短剣で熊と対峙していたのかと、いぶかしむ。これでは、灰色熊に殺される訳だ。


 「ご加勢恩に着る! 弓と、油は用意いたしましたぞ!」

 ココと、村長の息子コリ、妻のクコが走ってきた。


 「長の様子はどうじゃい」

 コルじいがコリに尋ねる。コリは静かに首を振るだけだった。


 「そうか、もう長くないか。あいすまぬ。熊殺し殿。村の長、我が兄コキは病のため、此度の戦には参上できぬ。ご容赦願いたい」


 翼の人たち、村長の息子コリ、妻のクコ、村長の弟のコルじい、そしてココとアッシュールを加えた五名で戦う事になる。

 コリがアッシュールを見る。


 「して、アッシュール殿。我らはいかにすればよいのか」

 この言葉にアッシュールは安堵する。本来、

この場を仕切るのはコリだ。今の言葉は、指揮権をコリからアッシュールに委譲したことを示している。翼の人は、無謀に飛び込んでいく可能性が大きい。アッシュールは被害が拡大しそうで、指揮を任せる訳にはいかないのでないかと考えている。


 「それでは説明します。灰色熊を一頭づつ、柵の前におびき出し、仕留めたい。二匹同時に来られると、やっかいになります。そこで、コリさんと、クコさん、コルじいさんは弓で足止めをしていただきたい」


 「足止めじゃと?」

 「はい。弓を真っ直ぐではなくてこう、空に向かって構えます。山なりに射って下さい。灰色熊からしたら、空から矢が降って来る感じです。当てても良いですが、足下手前に落として欲しい。矢が降って来るので踏み出せない、という作戦です。人であれば、足止めが出来ます。熊も多分、いけると思います」


 「空に向ける感じじゃな?」

 コルじいが声に出すと、コリ夫妻も真似をする。


 「仕留めるのは槍を持つ僕が行います。ココ」

 「お兄さん。うちはどうする」


 「ココは、もう一頭を弓で撃ち続けて欲しい。真っ直ぐで良いよ。山なりではなくてね。おびき出すんだ」

 「うん。よかとよ。まかしとき」


 「油と、たいまつで熊に火を付けながら戦います」

 アッシュールによる説明が終わると、皆押し黙って前を向いている。


 「聞こえるっちゃ。もうすぐ来るっちゃ」

 皆の表情が硬くなる。たいまつの炎で、油の入った革袋の影が揺れる。

 熊の咆哮が、アッシュールにも聞こえて来た。二頭だ。

 アッシュールはつばを飲み込み、前方を凝視する。

しばらく間が開きましたが、新章スタートです。

今後ともよろしくお願いいたします。

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