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第1章 旅立ち その2 警備隊

 エリドゥは立ち上がると、墨婆に礼をした。

 「墨婆さま、ありがとうございます。凶兆というと、またデカ物の襲来がありそうですね。準備するとしましょう」

 エリドゥは出て行った。アッシュールも立ち上がるが、胸が酷く痛む。額から脂汗が流れる。大きく息を吸い、歩き出そうとした。


 「アッシュ坊、墓に行きたいのはわかるが、まだ動いたらだめぞえ。治らなくなるぞえ」

 アッシュールはベッドに横になると、目を閉じた。目を閉じると、すぐに寝息を立て始めた。


 アッシュールは十日間、動くことが出来なかった。ようやっと胸の痛みが引いてきたので、立ち上がった。

 まだ胸が痛むが、行動出来ないほどではない。大きく息を吸い、家を出た。


 アッシュールの家の裏は厩になっている。中に入ると、栗毛のタルボがアッシュールを見つけ、嘶きの声を上げた。横には村長の帰路駒、カルボがいた。馬に乗れるのは村長とアッシュールだけだった。カルボは乗り手を亡くしたため、アッシュールの家に連れてこられたようだ。


 アッシュールはタルボに鞍を付け、跨ると北の森へ馬を走らせた。畑に入ると、麦畑の一部が焼けていた。西の小山に登る。芦毛のタルボは坂道をゆっくりと登っていく。西の小山は墓地になっていた。墓地には、丸太が立てられている。丸太の一部は削り取られ、古い言葉で名前が記載されていた。丸太の墓標が三十基ほど増えていた。


 アッシュールはルアンナの墓の前に立った。

 「本当に死んだのか。ルアンナさん。小さい頃から、綺麗だったルアンナさん。僕が先に殺しておけば、ルアンナさんやみんなも死ななかったよね。形が竜神みたいだったから、竜神だと思い込んでしまったよね。みんなから非難されて村八分にされたかも知れないけど、最初に殺しておけば良かったよ。死ぬよりいいよね」


 アッシュールが墓の前に立つと、胸が締め付けられ、瞳から大粒の涙が流れ落ちた。拭いても、拭いても涙が止まらなかった。


 「何故、あんなに大きなトカゲが出たんだろう。何者なんだろう。何がどうなっているのか、わからないよ。なんだか全然わからないよ。竜神って一体何者なのだろう。姿を見せろ、僕が叩ききってやる」


 「アッシュール、物騒なことを言うなよ。アッシュールでも竜神を斬るのは無理だぞ、多分な」

 アッシュールが振り向くと、バドが立っていた。バドは黒髪の青年で、アッシュールの二歳年上になる。農家だが、剣が上手く、アッシュールの剣はバドから習ったものだ。


 「バドさん」

 バドはアッシュールに花束を渡した。


 「ありがとう、バドさん」

 アッシュールは花を墓に供えた。

 「アッシュール、エリドゥの指揮で警備隊を組織することになった。しばらくの間、夜間も見張りをすることになる。四名一組で、一隊はエリドゥ、二隊は俺、三隊はアッシュールが隊長だ。よろしく頼むぞ。今晩は一隊が当番、明日が俺の隊、明後日がアッシュールだ。交代で回して行くからな。欲しい物があれば、鍛冶屋のエンメンじいさんに言えばいいよ」


 「警備隊ですか・・・」

 「ああ。アッシュールの隊は、タンム坊やとララク、ウバルさんだ。人の良さそうな奴を集めたぞ。タンム坊やを死なすなよ」


 タンムは農家の倅で、まだ十五歳だったはずだ。

 「タンムまで警備隊に」


 「ああ。警備隊が欠けたら、今度は娘達を入れていくから、そのつもりでな」

 「そんな」


 「墨婆さまの占いに凶兆が出たそうじゃないか。気を付けないと。村の奴らも、墨婆さまの占いの結果だと言ったら、納得してくれたよ。なぁ、アッシュール。昔から不思議なのだけど、墨婆さまの占いは何であんなに当たるんだ? お前も出来るんだろ、同じ銀髪だし」


 「墨婆は年を取って、白髪になったら占いが出来る様になったらしいです。それまでは興味も無かったって」

 「そんなものか。ま、ルアンナは残念だったけど、元気出してくれ。じゃぁな」

 バドは右手で挨拶をすると、墓場から去っっていった。


 アッシュールは大きく息を吸い、吐いた。

 「ルアンナさん。僕、頑張って村を守るよ。だから、安心して見ていて」


 アッシュールはタルボに跨ると、手綱を引き、村の方へ引き返した。

 アッシュールは先の戦いを思い出していた。最後は尻尾に打たれたが、戦い方は悪く無かった。敗因は、剣だと致命傷を与えられないことだった。恐ろしいのは口から吐く火では無く、一瞬の動きだ。アッシュールは尻尾でやられたが、口で噛む動作も恐らく素早いであろう。アッシュールは先の戦いの相手は竜では無く、大きなトカゲだと思っている。一瞬の動きは人の動きの速さでは追いつかない。出来れば遠くから斬りつけたい。薪割り斧だと柄が長くて良いだろうか。斧だと重すぎだろうか。


 「鍛冶屋のエンメンじいさんに相談してみよう」

 アッシュールはタルボを駆り、鍛冶場の前に来た。鍛冶場は石造りの大きな建物で、中には大きなふいごと砂場がある。


 「おや、アッシュールじゃないか。墨婆さまはご健在かい」

 小柄だが胸板が厚く、髭の濃い老人が出てきた。鍛冶屋のエンメンだ。


 「エンメンじいさん、お久しぶりです。奥様とエンリルは残念でした。僕の力が足らず、オオトカゲの犠牲となってしまいました」

 エンリルは鍛冶屋のエンメンの息子だ。先のオオトカゲの火で死亡している。


 「いや、アッシュール、お前は良くやってくれたよ。妻とエンリルに代わり、お礼を言わせて貰う。大変だったな」

 鍛冶屋のエンリルは大きな手でアッシュールの肩を掴んだ。 


 「早速で申し訳無いのですが、相談があって来たんです」

 「アッシュールも隊長なんだってな。戦の準備じゃろ、何が入り用だ」

 鍛冶屋のエンメンは濃い髭を右手で触りながら話している。時折、胸が苦しいらしく、咳をしている。


 「この前の竜神騒ぎのとき、剣で斬りつけたんですが、あのオオトカゲの間合いに入らないようにするには剣では難しいんです。なんかこう、長い得物は無いですかね。尻尾にやられたんですが、早くて反応出来ないんです。遠くから、斬りつけたいです」


 アッシュールは剣で斬りつけ、尻尾に打たれる真似をする。

 「ふむ。なるほど。アッシュールは墨婆さまから戦いの舞を習っておるか」

 鍛冶屋のエンメンは更に髭をしごきながら咳をする。心配するアッシュールを手で制する。


 「はい。出来ますよ。何で剣ではなくて、棒を使うんですかね。墨婆もわからないと行っていましたが」

 「戦いの舞はな、槍の練習なのじゃ。本来は棒ではなく、槍で行うんじゃよ。槍が良いじゃろう。槍は何本いるんじゃ」


 「タンムと、ララクさん、ウバルさんの分も合わせてお願いします」

 「わかったぞ。明日で良いかな。わしらの分まで、戦ってくれ。頼んだぞ」


 「それでは、明日伺います」

 アッシュールが礼をして外に出て、カルボの手綱を握った。カルボがアッシュールに顔をこすりつけてくる。アッシュールはカルボの顔を撫でる。


 「アッシュール! いたいた、おい、こっちだ」

 アッシュールが振り向くと、ウバルが立っていた。ウバルは中年だが、屈強な体つきでいかにも強そうだった。ウバルは革の鎧を身につけ、剣を腰に提げていた。


 「ウバルさん。今回は隊長に任命されました。よろしくお願いいたします」

 ウバルは大きく笑い、剣を抜いた。


 「腰弱のエリドゥより、アッシュールの方が頼もしいぞ! 頼むぞ! そいそう、そこにタンムもララクもいるぞ。隊のお目見えだ。おい、みんな、こっちへ来い!」


 ウバルが呼ぶと、革の鎧を纏った二名が近づいてくる。一人は細い、まだあどけない顔のタンムだ。まだ十五歳だ。ララクはウバルより若く、締まった体をしている。


 「アッシュールさん! よろしくお願いします!」

 若いウバルは興奮した顔持ちでアッシュールに声を掛けて来る。


 「みなさん、この度隊長に任命されました。よろしくお願いいたします。で、我々の隊の武器は槍を使います。明日、出来上がるので昼頃にここに集合していただけますか」

 アッシュールの問いに、最年長のウバルが答える。


 「槍か。使った事が無いぞ。まぁええ。アッシュールが使うというなら、従うよ」

 「明日、練習しましょう。みなさんよろしくお願いします」


 アッシュールはまだ胸が痛むため、皆に頭を下げると、カルボに跨り帰宅した。

 アッシュールはベッドに横たわると、そのまま寝てしまった。


 翌日、アッシュールは目を覚ました。朝ではなく、既に昼近かった。


 「アッシュール、起きたかえ。テーブルにパンがあるから、食いな」

 墨婆がアッシュールに声を掛ける。アッシュールは返事をすると、腰に剣を携え、パンを食べながら外に出た。外に出るとタルボが嘶いたが、軽く頭をなで、歩いて鍛冶屋に向かった。

連載二話目です。

温かい目で見守っていただけると幸いです。

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