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第2章 出会い その10 熊の森

 「引き渡す?」

 アッシュールは素朴な疑問をコリに向ける。コリは再びため息をつく。


 「我々の隠れ村は、五十人ほどの小さな村なのですが、翼のある者は私と、妻のクコ、この子ココ、私の父と叔父の五名となりました。隠れ村の戦士は、翼がある者だけです。昔から決まっております。しかし、熊たちに勝てず、翼のある者達は年々数を減らしてしましました。今回、決着を付けたいと思っています。勝手で申し訳ございませんが、ご尽力を賜れないでしょうか」


 五十名の村はなかなかの規模である。村には決まりがあり、翼を持つ者だけが戦うようだ。その代わり、村長には翼の人を立てるのだろう。


 「分かりました。一緒に戦いましょう」

 アッシュールとコリは握手を交わす。


 「勝算はおありか、熊殺し殿」

 「村の入口を丸太の柵で覆いたいと思います。後ろから弓で射撃します。出来れば、オリーブ油を上から浴びせ、燃やしたいと考えています。灰色熊と接近して戦う事は死ぬのと一緒です。灰色熊の腕の範囲外からやっつけたい。近づくのは無謀です。こっちへ来て下さい」


 アッシュールは小屋の中にコリを案内する。コリは一瞬顔をしかめた。やはり匂いがするのだろう。


 「こちらが噂の姫様ですね。成る程、お美しい。ココと同じ銀髪ですね」

 アッシュールは特に説明せず、槍を見せる。


 「熊が柵に張り付いたら、熊の手より遠くから、この槍で喉元や心臓を突きます。上手くいけば、こちらは誰も怪我せず、倒せるかと思います。しかし、丈夫な柵を作らなければなりません。できれば、柵の前に穴を掘りたいです。堀といって、熊の顔だけが地上に出すことが出来たら、言うこと無いです。熊の手を気にせずに、喉元にぶすり、です」


 コリは槍を眺め、両手で突いてみる。


 「なるほど、突けば良いのですね。しかし、長い。なるほど。そして、木の柵と、堀というものですね。承知しました」


 「灰色熊は鮭を食べるでしょう。こちらに干し鮭があります。これを撒き餌にして、おびき出そうと思います。三十本あれば、おびき出せるでしょうか」


 「こんなに・・・分かりました。熊たちは雪が降る前に現れる事が多いです。早速、準備に取りかかります」

 コリは納得すると、小屋の外に出た。


 「クコ、戦だ、最後の戦だ。奴らを仕留めるぞ。支度だ、支度をするぞ。戻る!」

 コリとクコは挨拶もしないうちに帰っていった。音はココほどではない。速度もココの方が速いようだ。


 「お兄さん、熊と戦うの?」


 「うん、やっつけよう。もう、誰も死なせないよ。誰も寂しい思いをしないように、みんなで頑張ろう」

 翌日、ココと二人で森の中に入った。ココには弓を持って貰っている。アッシュールは右手のナイフで藪を払いながら、左手に槍を、腰に竜の剣グアオスグランを下げている。


 小屋の前の川沿いを歩くと、熊の骨が残ってる。熊たちは死骸を食べたあと、ここから森に入っていった。熊たちは何処に住んで、どのような生活を送っているのか。上手く熊たちを誘導したいため、調べに入ったのだ。


 森の入口に立つと、一本の獣道があった。獣道にしては太い。アッシュールが足下を指さすと、ココは小さく叫び声を上げる。


 「足跡・・・」

 ココは熊の生息域に侵入した事を肌で感じ始め、顔が引きしまる。

 更に歩みを進めていくと、木の幹に爪痕が、足下には大きな糞が残されていた。糞は非常に臭った。

 更に進むと、獣が現れた。槍を構えるアッシュール。鹿はびっくりした顔をして、逃げていった。


 「鹿さんだぁ。驚いたっちゃ」

 肩をなで下ろす両名。森の中で襲われたら勝ち目は無い。緊張感が高まってくる。


 そのとき。獣道の向こうから、獣の叫び声が聞こえてきた。声は小さいが、腹の底に響く声だった。アッシュールは思わず木陰に隠れる。もう一度、声が聞こえてくる。声の震動で木から葉が落ちていく。


 「出よう。熊の匂いが強い」

 ココはアッシュールの提案に頷くと、小走りで森を出た。


 「この奥に、熊がいる。ここから、熊をおびき出すよ」


今回で第二章は終わりです。

次回から新章がスタートします。

よろしくお願いいたします。

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