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第2章 出会い その9 小屋の危機

 鮭を食べ終わると、倒した灰色熊に薪を運んだ。灰色熊に薪を乗せた。乾いた枯れ草に火打ち石で火を付け、細い薪に火を移していく。火は太い薪に燃え移り、勢いよく火を上げる。薪はふた抱えほど持って来たが、熊の大きさから明らかに足りない。薪の火が当たっている部位の肉が焼け始めると、鼻を突く異臭が周囲に立ちこめる。


 「ぎゃっ」

 ココはびっくりして飛んで逃げた。アッシュールも鼻を押さえて小屋まで戻る。灰色熊は非常に臭かった。臭いと言うより、鼻が痛くなる。とても食べれたものでは無かった。


 アッシュールは遠くから、灰色熊の方を向き、目を閉じた。


 「灰色熊、汝が異形の者と生まれようとも、魂は天高く舞登り、健やかならんことを。雨により汚れを洗い流し、雷で磨き上げられんことを。風により清きものに生まれ変わり、我に糧を与えたまえ」


 「あたえたまえ」

 ココも最後だけ真似して発音した。


 「いまの何?」

 ココが不思議そうにアッシュールを見上げる。


 「僕の村の祈りの言葉なんだ。本当は、狩った以上、きちんと食べて上げたかったのだけど、無理だな。だから、祈りだけでも上げとこうと思ってね。本当は火で燃やしてあげたかったのだけど、無理かな、あの匂いじゃ」


 「臭いねぇ」

 「ココ。あそこの四腕の灰色熊、おかしいことが無かったかい」


 「うん、腐らないっちゃ」

 「うん。普通、生き物が死ぬと、腐って、土の栄養となるんだ。栄養が、植物を育て、鹿や兎を育てるんだ。狼や熊がが鹿や兎を食べるんだ。熊や狼が死ぬと、今度は土に戻って草の栄養となるんだよ。でも、あの灰色熊は腐らないよね。あいつらは生き物なのだろうか。僕たちとは違う何かなのだろうか」


 「お兄さん、難しいこと言うっちゃ」

 二人は小屋に戻り、干しブルベリーを食べた。ココは夕方まで昼寝をすると、爆音と共に帰って行った。


 ココが去ってから数日は鮭を捕って燻し、風呂に入る生活を続けている。ブリーベリーや栗は少なくなり、採れなくなった。ブルーベリーは翼の人たちの好物のようである。交渉用に使用できそうなので、アッシュールは極力食べず、残して置いた方が良いかもしれない。


 夜。ベラフェロが唸り声を上げた。

 アッシュールは身構え、聞き耳を立てる。川の方から、獣の唸り声が聞こえてくる。二頭だ。


 「熊か」

 アッシュールは槍を持つと、音を立てないよう慎重に小屋を出る。ベラフェロは更に気配を消し、小屋を出る。


 アッシュールは熊が風上なのを確認し、岩陰に隠れる。ほぼ満月の明かりに目が慣れるのを待つ。


 徐々に見えるようになる。大柄な動物が、アッシュール達が倒した熊の死骸に近づく。アッシュールはさらに目を凝らす。


 「あいつら、共食いをしてやがる」

 一頭が大きく吠えた。もう一頭も大きく吠える。


 どうする。アッシュールは灰色熊を凝視する。二頭では分が悪い。熊が小屋に近づくのであれば、戦わなくてはならない。


 アッシュールの心配をよそに、熊は森の中に消えて行った。アッシュールは大きくため息をつき、その場に崩れ落ちる。


 アッシュールは夜明けまで、川の監視をせざるを得なくなった。こちらには、動かすことの出来ないルージャがいる。小屋に来られたら、逃げることは出来ない。戦いあるのみだ。しかし、灰色熊が二頭では勝ち目はかなり難しくなる。


 灰色熊を普通の熊と見なせるか否か。森に熊がいるのは当然だ。森に住まうと熊との接点が生じる。熊は、山で餌が豊富に捕れると人前には顔を現さない。灰色熊の場合は、どう考えるべきか。翼の人たちの村も襲われ、かなりの被害が出ているらしいので、捨て置ける問題ではなさそうだ。


 アッシュールは陽が昇ってから、灰色熊の死骸を見に行った。死骸は腹部を中心に食われていた。頭と手足は食われていない。アッシュールは薪を死骸に乗せ、火を付ける。肉が焼ける音と共に黒い煙が立ちこめ、鼻を刺す刺激臭が充満する。


 アッシュールは走って小屋に戻り、燃えている死骸に向けて薪を投げ入れる。何度も繰り返す。火が山火事の如く燃えさかると、小屋に戻り、湯船の横で火を熾し、石を焼く。石を湯船に入れ、湯の具合を確認したら湯に浸かった。衣類も一緒に洗い、匂いを落とす。濡れているが、ズボンだけはき、上着は日干しする。小屋の中に入ると、まだ臭っているのか、ベラフェロはアッシュールに近づいてこなかった。


 翌日の昼頃、小屋に向かって爆音と共にココがやって来た。


 「お兄さん、こんにちは・・・ぎゃ」

 ココも鼻が良いのだろうか。小屋の中に異臭が立ちこめているのだろう。


 「お兄さん、臭い! また熊を焼いたっちゃね。骨が黒こげだったっちゃ。はい、これ持って来たとよ」

 「こんにちは。無事に出来ましたよ。靴と、帽子と、上着、それと手袋です」


 「ありがとう。四腕の灰色熊を燃やしたら、凄い臭いんです。勘弁して下さい」

 ココから灰色熊毛皮の帽子、手袋、靴、上着を受け取る。ルージャとの二人分だ。ココと一緒に、縫製をお願いしたクコも来ていた。クコはアッシュールよりも年上の女性である。黒髪と茶色い翼を持っている。後ろにもう一人、黒髪と黒い翼の男性が立っていた。


 「お初になります。村の長、コキの子、コリと申します。お話があるとお聞きし、参上いたしました。それにしても、我らが宿敵の熊を討つとは、お礼の申し上げようがございません。何なりとお申し付け下さい」


 「お兄さん、青い実が食べたい。持ってくるっちゃ」

 「あ、駄目っちゃ、ココちゃん。いかんとよ」

 ココをクゴが制止しようとする。


 「あ、良いですよ。ココ、箱ごと持って来て」

 アッシュールは村長の息子もブルーベリーを食べるのかと、どきどきしながら話し始める。


 「あなた方、翼の人たち、と呼ぶわけにはいきませんよね。どのように呼べばよろしいですか」

 「我々は、我々としか言いませんね。その名前、いただきました。これより翼の人と言っていただいて結構です。熊倒しの勇者からいただけるとは、光栄です」


 ココが箱を抱えて戻って来た。小さな手で、各人にブルーベリーを配る。村長の息子、コキも両手で受け取り、嬉しそうに食べ始めた。

 「二、三日前、灰色熊が二頭、森から出てきて僕たちが倒した熊の死体を食べていました。その時はそのまま森に帰っていったのですが、頻繁に出てくるようだったらここでの生活が難しくなります。あの灰色熊、毎年被害が出ているのでは無いですか」


 村長の息子、コリは下を向き、ため息をついた。


 「おっしゃるとおり、我々は毎年、熊に襲われています。このココの両親も、昨年、熊に殺されてしまいました。私、コリが村長にに変わり、お願い申し上げます。あと二頭、殺して村を引き渡したいと考えています」


小屋での生活が危機に陥りました。

アッシュールの運命はいかに!?

連載を開始してみましたが、かなりの不人気で凹んでいます(笑)

それでも、毎日読んで下さる方がいます。非常に感謝です。ありがとうございます!

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