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第2章 出会い その7 有翼の少女ココ

 ルージャはぴくりとも動かず、寝返りも打たなかった。竜は寝返りを打ってしまうと体が大きいため、周囲の物を壊したり、木々を倒してしまうのだろう。恐らく、人になっても同じなのだろう。なるほどと、思いながらアッシュールは眠りについた。


 翌日、アッシュールは斧を持ち、森に入っていった。長めの棒を作るためだ。腕が四本の灰色熊、一匹だけなら良いのだが、複数の場合やっかいだ。熊の腕は長く、剣では届かなかった。あの時、誰かが矢で射ってくれなければ、やられていたかもしれなかった。槍だ。槍が欲しい。森で木を削りだし、槍を作るか。


 先端に斧を付けようか。薪割り用の斧がある。柄が非常に長い斧だ。熊との戦いで、ベラフェロの鋭い牙でも、熊の皮膚を貫通出来なかった。急所、目だとか、口だとか、喉元、出来れば心臓に突きを繰り入れたい。斧だと、突きを繰り出せないので戦いに向かないか。


 鍬を潰して刃物にするか、長柄のの斧を作るか。鍬を潰すと農作業が出来なくなるし、斧を長柄にしてしまうと薪割りに苦労する。


 アッシュールは斧で、拳半分ほどの太さの棒を三本切り出すと、棒を担いで小屋に帰る。棒を小屋内に置き、乾燥させる。棒の長さは一ジュメ、二ジュメ、三ジュメの長さだ。長ければ長いほど良いのだが、重くなるし、持ち運びも大変だ。試して確かめることにする。


 切り出した棒に、鍬を付けるか、斧を付けるか考えていたが、結論は出ない。いっそ、剣を付けてしまうか。


 竜の剣、グアオスグランをすっと抜く。ガシャンと音がして、グアオスグランが落ちた。いや。アッシュールは右手にグアオスグランを握っているのを確認する。不思議に思い、床を見ると、靴一つ分ほどの長さ、両刃の短剣が落ちていた。


 「グアオスグランが短剣を落とした?」

 グアオスグランを眺めると、指一本分剣身が細くなり、厚さも薄くなった気がする。

 アッシュールは短剣を拾う。短剣ではない。槍の穂先だ。幅は拳半分ほどだ。厚めで、重量感があった。


 「グアオスグラン、ありがとう。この短剣を付けて、槍に使うよ。この槍も竜の血の力はあるのだろうか」

 アッシュールは、竜の剣グアオスグランに込められた竜の血の力で何が出来るのか分からないし、ルージャが倒れていた時のような竜の雰囲気を感じられることは無い。当然、槍の剣先からも、何も感じられなかった。


 切り出した棒三本を取り出し、小屋の外で振ってみた。人三人分は長すぎた。人一人分だと剣とリーチが変わらない。二人分の長さに、剣先を取り付けることにした。


 鋸で溝を切り、剣先を刺して濡らした革紐で硬く縛る。皮紐は乾くと更に硬く固定してくれる。


 「よし。これで四本腕の熊も怖くないぞ」

 完成した槍を眺める。戦闘で剣先が抜けないか心配であるが、これ以上は細工が出来ない。


 アッシュールは翌日から、風呂を作ろうと思い立った。川で水浴びをしているが、これから寒くなると、水浴びは難しくなる。アッシュールは鍬を持ち、川辺に移動する。川辺に鍬で穴を掘り始める。川から水を引き、穴に水を引き入れ、焚き火で石を焼いて水に放り込めばお湯になるはずだ。


 アッシュールは三日掛けて、人が入れる大きさの穴を掘り、内側を石を敷き詰め浴槽を作った。人が三人ほどの長さの用水路で水を引き入れる。用水路に石を置くと、水をせき止める事ができる。


 完成した浴槽の横で、石を焼く。人の頭ほどの大きさの石を、三個焼く。頃合いを見計らって、浴槽に落とす。水は勢いよく、音と蒸気を出しながらお湯になっていく。アッシュールは指を入れてみたがまだぬるかった。二個目も投入すると、ちょうど良い湯加減になった。


 アッシュールはお湯に浸かる。上を見上げると青空が広がり、鷹が飛んでいった。


 「ルージャはなかなか目覚めないな。春にまでに目覚めてくれると良いのだけど。あと、衣類が欲しい。着替えが無い。ルージャにも綺麗な服を着せてあげたいし。ベラフェロがいるけど、長期間小屋を開ける訳にもいかないし、仕方ない所か。冬を越す食べ物を貯蔵出来ただけでも良しとしないとね」


 先日倒した熊の遺骸が見えた。カラスも食べておらず、肉は腐敗もしないようだった。


 「あとで熊を焼き払うか」

 考えている内に、アッシュールは寝てしまった。


 ちゃぷ、ちゃぷ。

 アッシュールは水音で目が覚めた。


 「お兄さん、暖かいね。なにしとる」

 真っ黒な子供が足をお湯に入れていた。背中には弓が見える。よく見ると、背中に灰色の翼が見えた。


 「お兄さん、この前はありがとな」

 アッシュールはいぶかしんで、身構えるが裸であり、武器も無い。


 「怪しまんといてな。熊に矢を射ったのはうちや。ほら、よく見といて。あの鴨をおとしちゃる」

 翼の生えた子供は弓を構えると、飛んできた鳥を射落とした。ちょうど、小屋の前に落ちる。


 「おまえか、熊の目を」

 腕前に驚いて、アッシュールは子供を見る。アッシュールは、剣や槍は一通り仕える。無論、弓も打つことは出来るが、飛んでいる鳥を射るのは難しい。しかし、弓にも驚きを隠せないが、背中に翼が生えている。この森には、不思議な者達が大勢住んでいるのだろうか。


 「うちははココ。森一番の弓打ちだよ」

 「ありがとう、ココ」

 アッシュール翼をよく見ようと、ココに向かう。毛皮のベストと、毛皮の腰巻きを履いている。


 「でも、お前臭いぞ。お前も入れ」

 アッシュールはココを衣類ごとお湯につける。


 「ちょっと、なにすっと!」

 ココもお湯に入ると、声とは裏腹に湯の中で衣類を脱ぎ始めた。アッシュールは手ぬぐいでルココの顔を拭う。


 「ん?」

 肌が白くなる。


 「ちょっと、なにすんねん!」

 ココは声だけは反対の意見を言うが、抵抗はしていない。

 アッシュールはココを頭から湯に沈め、黒い髪の毛を洗う。


 「ぷはっ」

 顔を上げたココは綺麗な銀髪と白い肌になった。銀髪は陽の光を受け、透き通るように輝く。


 「おお、お前も、銀髪なのか。黒いよりいいぞ」

 アッシュールはココの体も擦っていく。垢が湯船に浮かぶ。


 「暑いよ、お兄さん。うち、出るから。後ろ向いといて」

 「あら、お前女の子だったか。ごめん」

 アッシュールは後ろを向き、ココが服を着るのを待つ。


 「お兄さん、良いよ」

 「お前も後ろ向け」

 ココが後ろを向くと、アッシュールは湯船から上がり、体を拭いて服を着た。

 数少ない手ぬぐいはココの垢で真っ黒になってしまった。


メインキャラ登場回です。

ココの今後の活躍をご期待下さい。

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