第九話:闇雲な眼
推敲は明日します。
俺は絡んできた酔っ払いを『火炎・霊』で焼いた。悲鳴がギルド内に響き渡る。
何事かと、その場にいる全員が動きを止めてこちらに注目する。少しやりすぎてしまったかもしれないが、向こうがティアに手を出そうとしたのが悪いのだ。然るべき罰は受けてもらわなければならない。
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけたのか、ギルドのカウンターの奥から、若い赤髪の男が出てきた。
整った顔立ちと綺麗な服装、鍛えられた肉体から、貴族でありながら、訓練を怠らなかった人間だと推測できる。
また、一般の冒険者では立ち入れない奥の部屋から出てきたことから、ギルドの中でもそれなり以上の権力を持っている人物だともされる。
そんな人間、一人しかいない。恐らく、彼がここのギルド長をやっているのだろう。
「そのお前、何があったのか事情を説明してもらおうか!」
強い口調ながらも、彼の態度からはこの問題をしっかり解決したいという意図が見て取れた。
彼には好感が持てる。だから、俺もしっかり聞かれたことには答えることにする。
「そこで煙を出しながら転がってる酔っ払いが、俺達に絡んできたんです。彼女に手を出されそうになったので、反撃してしまいました」
話を聞き、赤髪の男は少し考える素振りを見せる。
そして、傍観していた冒険者達の方に向き直り、事実確認を行う。一人の、それも当事者だけの意見を信用せずに、裏を取ろうとする姿勢にも、彼の誠実さが表れていた。
「どうやら本当のようだな……。そっちの彼は三日の謹慎処分にしよう」
未だに意識を取り戻す気配がない酔っ払いの方を見ながら、赤髪の男はそう言った。
周りからは、厳しすぎるのではないかという反対意見も出ている。実際その通りだ。冒険者はその日の稼ぎが生活に直結する。三日間も依頼を受けられないのは、かなりの痛手だ。
しかし、彼もそのことは元々十全に理解している。
分かった上で、傍観者の意見には耳を傾けず、彼は三日間の謹慎を決定した。
次に、赤髪の男は俺達の方にもう一度向き直る。
「で、君達は誰なんだ? ここの冒険者にしては見覚えがないし、若すぎるようだが」
赤髪の男が発した問に、周りの人間が頷いているのが見える。
俺があの冒険者を一撃で倒したのを見て、彼らも俺達の正体を知りたがっていたのだろう。
酔っ払っていたとはいえ、彼の実力もそこそこあったので、俺が一撃で倒したことには驚いたはずだ。
俺は面倒事を避ける為に、無言でペンダントを赤髪の男に見せる。
さっき酔っ払いに見せた時にも、彼以外には見えないようにしていたので、周りに知られていることもない。
ペンダントを見た赤髪の男は、目の色を変えた。
すぐに着いてくるよう合図を出し、奥に向かって歩いていく。
俺は指示通りに、その後ろを着いて歩く。
俺の正体を知りたがってわくわくした顔をしていた冒険者達の脇を、歩き去る。
通常の冒険者は立ち入り禁止であるカウンターの奥に去っていくのを見て、彼らは残念そうな顔をしていた。
「で、Sランクの冒険者が何の用だ?」
勧められた席に着くなり、赤髪の男に質問をされる。
多少警戒の色を孕んだ顔をしているが、そんなに警戒されても困る。
Sランクの冒険者というのは、個で国を滅ぼせるレベルの者までいる。このランクの冒険者というだけで、警戒の対象になるということなのだろう。
「……で、用でしたっけ? 今日はただの挨拶です。地元のギルド長、リードに、王都に着いたらギルドに顔を出せと言われていたので」
「なるほど……。フーム……」
赤髪の男が唸りながら考えている。
そんなに危険視されても困る。
「一応酔っ払いに絡まれても手加減をしてくれたからな。信頼することにしよう」
酔っ払いに絡まれることが、信頼を勝ち取るための近道であるのは意外だった。
しかし実際、俺は期待を勝ち取ることができた。今では絡まれて良かったという考えすら浮かんできている。
「で、今日は依頼を受けていくのか?」
「いえ、もう日が暮れるから帰ることにします」
窓から外を見ると、いつの間にか太陽は低くなっており、オレンジ色の光が街を染めていた。
「それより、名前を教えてください。知らないと何となく不便なので」
「あぁ、王都のギルド長を務めている、グレディ・パルリータだ」
聞き覚えがある名字だ。
五年間掛けて蓄えた知識に、確かパルリータという家名が登場したはずだ。
何をした家柄かは忘れてしまったが、やはり高名な貴族であることは間違いなさそうだ。
「俺はリンドです。よろしくお願いします」
「ティア。よろしく」
「よろしくだ」
二人順番に自己紹介をして、グレディの返答を聞き届けたところで、部屋を後にする。
これ以上ギルドに留まり続けている理由がない。
早く『精霊の宿り木亭』に戻って休みたい。一日中歩き回って、そろそろ疲れてきていた。
しかし、早く帰りたいと思っていた時ほど面倒事に巻き込まれるもので。
ギルドを出ると、裏から掛け声と風切り音が聞こえた。
風切り音がこの距離で聞こえるということは、そうとう大きな音なのだろう。
少し興味を持って、裏手に回ってしまう。
――そこには、一心不乱に剣を振り回す少女がいた。
元々綺麗だったであろう金髪は振り乱され、汗で肌に張り付いてしまっている。
平らに均されていたであろう地面はところどころ凸凹に歪んで、元の状態に戻すのが大変そうだ。
そして、そんな自分や地面の様子を意に介することもなく、ただただ闇雲に剣を降り続けている少女。
恐らく、彼女にも何か事情があるのだろう。俺が安易に踏み入って良い領域ではない。
けれど、彼女の諦めない、闇雲に剣を降り続けている姿が、何となく気になってしまった。
彼女の、どこか一箇所を見据える闇雲な眼は、綺麗な色をしていた。
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