第八話:王都観光
長年過ごした街を出て丁度一〇日。
ティアと二人、王都に無事辿り着くことが出来た。
道自体はしっかり整備されていて危険は少ないが、魔物の出没や事故などによって死亡者が出ることもある。
そんな中、何事もないまま王都の門をくぐることが出来たのは運が良かったのだろう。
「まずは宿を取らなきゃな。試験に合格すれば学園の寮を使えるらしいけど、まだ試験までは時間がある」
「終わったら王都の観光。折角来たから楽しむ」
「そうだな……。入学してから暇があるとも限らないし、今日観光しとくか」
こうして、一日目の予定が早速決まった。
昨夜泊まっていたところを朝早く出てきたので、まだ時間は昼下がりだ。
宿を取って観光するくらいの時間はある。
とは言ったものの、宿の場所を俺達は知らない。
そこで、王都全体を囲む城壁と、その入口である門を守っている衛兵に尋ねることにした。
門をくぐってからさほど時間は経っていなかったので、門まで戻るのはそこまで手間ではない。宿の位置を聞きに引き返す。
門に着くと、すぐに衛兵を見つけることが出来た。衛兵はさすがに手慣れているのか、分かりやすく説明をしてくれた。
教えてくれたことに感謝の意を伝え、勧められた宿、『精霊の宿り木亭』に向かう。
『精霊の宿り木亭』は、少し値段設定は高いがサービスが良く、それなりに人気な宿らしい。
五年間、ちょこちょこギルドの依頼を受けて稼いでいたので、それなりのお金は持っている。
名前も、偶然だと思うが、『精霊』という言葉が入っていて親近感のようなものが湧く。
迷わずこの宿に泊まることを決めた。
王都の綺麗に整えられた地面を踏み、慣れない道を歩く。
初めて歩く道なのに、分かりやすく整備されていたお陰で迷うことなく『精霊の宿り木亭』を見つけることが出来た。
木で建てられ、濃い茶色に染められた宿は、素朴な安心感を醸し出していた。
「あらっ、いらっしゃい!」
『精霊の宿り木亭』の扉を開くと、元気の良い女性の声が聞こえた。それと同時に、フロントの奥から走ってくる。
姿を現した女性は、かなりの美人だった。
目を引くのは、派手ながらも落ち着きを持つ金髪とこぼれそうなほどに大きい胸、そして何よりも、長く尖った耳だ。噂に聞く、エルフという種族だろう。
「お泊まり? 何泊する?」
「じ、一五泊で頼めますか?」
「良いよ良いよ! いつもは結構混んでるんだけど……こんなに空いてるなんて、運がいいね!」
「は、はぁ、ありがとうございます……?」
「良いってことよ!」
相手の勢いに気圧されるままに、宿を予約してしまう。
元々決めていた通りに取れたので問題があるわけではないが、釈然としない。
ティアの雰囲気に、何となく呆れが混ざった気がした。
最後に鍵を手渡され、部屋の位置を教えられる。
俺達の部屋は、そこそこ広い建物の中でも、比較的入口に近いところにあった。
あまり歩き回らずに済みそうだ。
一旦荷物を置いて鍵を閉めると、すぐに街中へと繰り出す。
金や学園の受験票などの貴重品は持ったし、部屋の入口はフロントから直接見えるところにある。
窃盗などの心配は、特にしなくても良いだろう。
……こうして予定の通りに街に出てみたは良いが、特にやりたいこともなかった。
屋台で売っているものは中々に美味しかったが、味付けが濃いのでそんなに沢山は食べたくない。
ティアもティアで、特にやりたいことはないらしい。
多少の憧れはあった王都だが、思っていたよりも何もなかった。
「……ここまで来てわざわざ行くのも何だが……冒険者ギルドに行ってみるか……」
「それくらいしか思い付かない」
冒険者ギルドは様々な都市や村にあり、全ては提携している。
人が多く集まる王都の冒険者ギルドは突出して規模が大きく、強力な冒険者も多い。世界に数人しかいない、最強クラスのSランク冒険者を擁する数少ないギルドでもある。
昔から、最大規模のギルドは少し見てみたいとも思っていた。しかし、わざわざ王都にまで来て、住んでいた街にもあった冒険者ギルドに行くのも味気ない。
とはいえ、他に行きたいところがあるわけでもないし、ギルド長――リードに、こっちに来たらギルドに顔を出せとも言われていた。
余計なことを考えるのはやめて、大人しく冒険者ギルドに向かうことにする。
歩き回ってそこそこ疲れているので、面倒事だけは起きないようにと祈りながら、冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドの場所は王都に入った門のすぐ横だ。今いる露店が立ち並ぶ通りからも、『精霊の宿り木亭』からもそう遠くはない。
技術が発達しているからか大きい建物が多い王都だが、その中でも特に目立っている建物が一つ。
目的地はすぐに見つかった。予想していたより遥かに大きい図体に、軽く驚く。
如何にも強者が集いそうな建物の造りで、俺やティアのような見た目には似合わない。
若干の緊張を孕みながら、建物の中に足を踏み入れる。
耳を打つ喧騒。
人が多いからか、建物内は騒がしい。
夜には早い時間帯にも関わらず、既に酒を飲んで赤くなっている人も何人かいる。
そんな中で、俺達はあまりにも場違いに思える。
「おいお前らァ……。お前らにはまだ早いんじゃねぇかァ?」
周りからも同じように映っていたらしく、早速巨体の酔っ払いに絡まれる。
「そっちの嬢ちゃんは俺が面倒見てやるからよォ……。お前は先に帰ってなァ……」
幼い体型のティアを見ながら、彼は情欲をあらわにしていた。
危ない趣味を持っているのかもしれない。普段だったら、絶対に近付きたくないタイプの人間だ。
しかし、ティアに手を出すのは看過できない。
俺はこれ以上拗れるのを避ける為に、先手を打つことにした。
「これを見てくれ……」
掲げるのは、冒険者になった時に貰った名前とランクが刻まれているペンダント。
何度かの交換を経ている為、貰った時とは書いてあることが微妙に違う。
「は、はァ? お前がかァ? そんな訳ねーだろ? 冗談も大概にしろ! ハッ!」
鼻で笑われた。
確かに、俺のような見た目一五歳が、世界に数人しかいないSランクの冒険者だとは信じられないだろう。
しかし、信じなかったとしても、彼の頭には俺がSランク冒険者であるという可能性が刷り込まれた。
少しは慎重な対応をしてくれるだろう。
……と思っていたが、残念ながら俺の推測は外れたようだ。
汚い唾を撒き散らしながら喚く酔っ払い。
彼は遂に、俺に手を出てきた。目の前の美少女、自身の欲に打ち勝てなかったのか。あるいは酒が彼の理性を奪っていたのか。
相手が手を出してきたのなら仕方がない。
俺は十分に手加減をした『火炎・霊』で反撃をした。
少し説明が多かったですかね?
予想外に文字数食ったせいで書きたいところまで書ききりませんでした^^;
次回新キャラ登場予定なので、お楽しみに!




