第七話:人生の分岐点
ギルド長に、王都にある名門の学園に入らないかと言われた。
待遇は保証されてるし、ティアも一緒で良いと言ってくれた。
しかし、それだけでは入学を決意する理由には弱い。
実際、俺はまだどうするべきか悩んでいる。
俺は、やり直せた人生で絶対に幸せになると誓った。
その為に、学園に入学した場合としなかった場合、どちらの方が幸せに近付けるのかを考える。
『精霊魔術』は強力だ。どちらを選択したとしても、ある程度の人生は送れるのだろう。少なくとも、前の人生に比べれば良いものになるという確信はある。
両方のメリットとデメリットを、天秤にかけて考える。
ギルド長の誘いに乗らない場合、ずっと冒険者として過ごすのだろう。ティアが一緒なら、そんな人生でも楽しいのかもしれない。
だけど、学園に入って様々な人と関わり合いながら生きた方が、楽しい人生を送れるような気がした。
天秤にかけた結果、学園に入った方が良いと思った。
そこまで決めれば後は早かった。
ギルド長のところに向かい、学園に入学したいという旨を告げる。
「そうか、それが賢い選択じゃの」
大した驚きも見せないまま、ギルド長は言った。
まるで俺達がそっちの選択肢を取るということを最初から分かっていたかのようだ。
胸中が見透かされているようで気持ち悪い。
「では、今日から鍛錬を始めるかな……」
「鍛錬?」
「あぁ、実力もないのに学園に入学できるわけがなかろう。幸いなことに、一五歳の試験までまだ五年もある。早いうちにやっておいて損はないからの」
試験は、筆記と実力の二つの観点で行われるらしい。
俺の場合実力は問題ないが、筆記の方はしっかり勉強しないといけない。
生まれてこの方、毎日を生き抜くのに必死で、勉強をしている暇などなかった。五年間で必要な知識は身に付けなければ合格は有り得ない。
「そういえばティアは、戦えるのか?」
ティアが合格するには、ティアもティアで戦えなければならない。
彼女が何も言っていない以上問題はないのだろうが、一応聞いておくに越したことはない。
「魔術は無理。剣はそこそこ」
意外な答えが返ってきた。少しくらいは、魔術を使えるのだと思っていた。
俺の魔力を霊力に変えることは出来るが、ティア本人が魔力や霊力を使うことは出来ないらしい。
剣の腕は、剣のみで戦う中堅の冒険者くらい――要するに、俺と同じくらい。精霊は人を傷付けることに迷いがない為、実質それ以上の力を持つとのことだ。
「少し試しに戦ってみてくれんかの?」
ギルド長の言葉に、ティアは無言で頷く。
当然相手を務めるのは俺で、俺としても問題はなかったので頷く。
木刀で戦えば大きな怪我を負うこともないだろうし、即死しなければ『回復・霊』で治すことが出来る。
ギルドの裏側にある広い土地に案内され、そこで戦うように指示される。
地面はしっかり平らに均されており、毎日ゴブリンと対峙していた森の中に比べれば戦いやすい。
俺は正面に立つティアを油断なく見据え、戦いの開始を待つ。
ギルド長の合図を横目で捉える。
それと同時に俺は駆け出していた。
剣を振り上げ、手加減することなく最速で打ち付ける。
しかし、ティアは渾身の一撃をあっさりと受け止めると、俺の剣以上のスピードを持って打ち返してくる。
「ぐっ……!」
俺は間一髪で後ろに転がることに成功する。
一回転して視線をティアがいた方向に向けて次の攻撃に備える。
「……!?」
そっちに、ティアはいなかった。
後ろかと思い、振り返る。けれど、俺の視線がティアを捉えることはない。
上から気配を感じた。咄嗟に腕を頭の上にかざして守る。
「がっ……!」
腕に鋭い痛みが走る。
ティアの木刀が、かざした俺の腕を叩いたのだ。
木刀が、地面を滑って手の届かないところに行く。
意識がそっちに引っ張られている間に、間髪入れずにティアの脚が顔の正面に迫る。
木刀で叩かれた時よりも遥かに痛烈な攻撃が、俺を体ごと吹き飛ばす。
「ぐぅ……。『回復・霊』……」
光の粒子が舞い、俺を癒してくれる。
ボロボロに傷付いた腕や顔面の痛みは引いた。
「参った……」
大人しく負けを認める。
ティアへの勝ち筋が全く見えなかった。
一番最初の攻撃以降、攻撃されっぱなしで反撃の糸口すら掴めなかった。完敗だ。
「いやはや、驚いたわい。ここまでの実力とはな……。それに……リンドの最後の回復魔術にも驚いた」
あまりの痛みから、ギルド長がいる前で『回復・霊』を使ってしまった。
だけど問題はない。ギルド長は俺の実力に気付いていたからこそ依頼を持ってきたわけだし、数年間も関わり続けていればいつか露呈する。
ならば、ここで痛みを我慢する方が損だ。
「ふむ、ティアも鍛えれば実技は問題なかろう。では、試験に向けて頑張っていくぞ」
この日から、俺達の学園入学への対策が始まった。
冒険者ギルドの奥にある部屋に泊まり込み、鍛錬にも座学にも手を抜かない。
ギルド長は的確に俺達が成長出来るように鍛えてくれたし、座学では最初にお世話になった受付嬢――レイラというらしい――が分かりやすく授業をしてくれた。
鍛錬と勉学に励む日々。
五年間は何事もなく、飛ぶように過ぎていった。
ギルド長が自信を持って、「絶対に受かる」と言うほどにまで成長し、いよいよ旅立ちが近付いてくる。
王都までは馬車で一〇日ほど。
余裕を持って、試験の二〇日前に街を出ることになっている。
街を出る前日の夜。ティアと二人でギルド長の部屋に呼ばれた。
「まだ学園に入学してほしい詳しい理由を話していなかったな」
「そうですね。忘れてましたが、そういえば聞いてませんでした」
蝋燭に灯る火が、ギルド長の顔を妖しく照らす。
しばし沈黙が続き、否応なしに緊張感が高まっていく。
ギルド長が話し始めたのは、緊張感が最高潮に達した時だ。
「六年ほど前から、全国各地で不可解な出来事が相次いでいる。五年前、お主らが倒してきたゴブリンもそうじゃ。そして、あのゴブリンを始め、異変を調査すると必ずどこかに人為的な手が加わっていた形跡が見られる」
「何者かが、ゴブリンをあんな風にしたってことですか?」
「大体そんな感じじゃ」
だとすれば、確かに大事だ。
誰が何を企んでいるのかは分からないが、あのゴブリンは人類の驚異になり得る。
「それでお主らに入学してもらいたい理由じゃが、二つある。一つは学園にスパイが潜んでいないかの調査。もう一つはお主らに学園で学んで、対抗策を考えてもらうことじゃ」
その為に、ギルド長は俺達を育てた。ならば、期待に応えるのは当たり前のことだろう。
「学園は、この国の最高峰じゃ。敵に盗まれればより面倒なことになりかねんし、強い力を持つお主らが技術を身に付ければ無限の可能性にもなる」
「えぇ、必ず成し遂げてみます。今までありがとうございました」
俺は五年分の礼を告げ、ギルド長と手を重ねる。
王都へ旅立つ時間が、刻々と近付いてきていた。
五年分のストーリーは書く必要がないと思ってすっ飛ばしました。
というかここまでくるのに七話も使うのも意外……。
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