第四話:初めての魔術
ようやくテンプレらしくなってきた(?)
若返って、『SSS級魔術』が『精霊魔術』に進化した。
人生がかなり有利になったことは間違いない。
しかし、俺達が出来るのは結局のところ冒険者くらいだ。
まず、冒険者以外をやるには服装が汚すぎる。それに、見た目が幼すぎる。さらに、スキルの知名度が低い。
たかだか一〇歳の、聞いたこともないようなスキルを持つ汚い子供を雇いたいと思う人もいないだろう。
改めて考えてみると、一〇歳の時の俺はとことん考えが甘かったのだと気付く。
「ティアも冒険者で良いか?」
「大丈夫」
冒険者は丁度良い。
見た目はただの子供である俺とティアも登録できるし、新しい『精霊魔術』を試し撃ちすることもできる。
前の俺が使えなかった魔術を使えるなら、かなり効率良く魔物を狩れる。
生きる為に必要な、最低限の金を稼ぐのは容易いことだろう。
というわけで、俺達は冒険者ギルドにやってきた。
冒険者ギルドというのは、冒険者の管理をするところで、冒険者登録、冒険者への依頼、報酬の支払い、冒険者の格付けなど、様々なことをやっている。
冒険者は死亡者が多いので、管理を纏めてしなければ後々面倒なことになるのだ。
冒険者ギルドの、それなりに大きい木造りの扉を開く。
ギギギギギ……とそれらしい音で軋みながら、徐々にギルドの中の様子があらわになっていく。
足を中に踏み入れると、何人かの強面の男がこちらを一瞥し、すぐに呆れたように視線を元に戻す。
子供でも冒険者ギルドに登録できるし、実際にしている子供は沢山いるが、やはり似合うとは言い難い。
ここを訪れる子供達は、大抵大した力も持たず、出来ることが冒険者しかないからという理由で冒険者登録をする。
男達は、俺達をその中の一人だと思ったのだろう。実際俺達も他に出来ることがなくてここを訪れたのだ。
「冒険者登録をお願いします。二人です」
入口の正面、受付嬢がいるカウンターで、そう告げる。
俺達の姿を見た受付嬢が悲しそうな顔をする。彼女は優しいのだろう。だから俺達のことを心配した。
しかし彼女は、ここに来るのが他に出来ることがない人達だということを理解している。すぐに手続きを始めてくれた。
手続きはすぐに終わる。
書くことといえば名前くらいだし、時間のかかるような作業ではない。
最後に手渡されるのは名前とランクが刻まれたペンダント。
冒険者ギルドが冒険者の管理をしやすくする為の工夫の一つで、冒険者は依頼中、ペンダントを首に掛けることを義務付けられている。
『リンド・F』と刻まれたペンダントを首から掛け、冒険者ギルドを出る。
初めて受けた依頼はゴブリンの討伐だ。タイムリープする前に俺がよく受けていた依頼で、ゴブリンなら弱点も知り尽くしているので流れるように倒すことができる。
最初はゴブリンで、肩慣らしと『精霊魔術』の試し撃ちをするのだ。
とは言ったものの、ゴブリンも立派な魔物だ。
ゴブリンに命を奪われる冒険者も少なくはないし、慣れているとはいえ前とは俺の体の大きさが違う。
油断をすると殺されかねない。
「大丈夫。『精霊魔術』は強力」
俺の心配を読み取ったのだろうか、ティアが声を掛けてくる。
本当に良いパートナーだ。俺はパートナーの為にも、しっかり依頼をこなさなければならない。
気合を入れ直す。不安は動きを鈍らせる。いつも通りにやれば、ゴブリンごとき敵ではない。
「着いた」
考え事をしているうちに、ゴブリンがわんさか棲む森に着いていた。
俺が住んでいる街から近い森だ。普通に歩いても精々一〇分ほどで到着する。
ゴブリンは多いものの、他の魔物が極端に少ない為初心者冒険者には嬉しい狩場だ。
魔物が棲む森の近くに街をつくれるのも、初心者冒険者が訪れてはゴブリンを討伐していくからである。
冒険者と街、双方に利益がある素晴らしい立地に、初めて知った時は少しばかり感動したものだ。
周りを警戒しながら鬱蒼と茂る森の中を歩いていくと、早速ゴブリンに遭遇した。
醜い顔に、凶暴な牙、釣り上がった眼。間違いない。俺が狩り続けてきたゴブリンそのものだ。
俺は早速、『精霊魔術』の威力を試す為に使うことにする。魔術は初めてなので、集中して真剣に力を込めていく。
ティアとの間にある回路から、霊力が流れ込んでくるのを感じる。何でも出来そうな万能感が、頭の中を支配する。
「はあああああぁぁぁあああああああああああ!」
まずは、昔見たことのある炎系の魔術を真似する。
手を前に向けて、霊力を手のひらに集めるイメージだ。
すると、自然に脳に言葉が浮かんだ。数文字の、短い言葉だ。
使い方としては合っていたのだろう。俺はそれをそのまま口に出す。
「『火炎・霊』」
刹那、視界が赤と金に染まり、明滅する。
轟音が耳朶を打ち、頭に響いて意識が揺れる。
余波で飛ばされそうになり、必死に踏ん張る。
「ぐうっ……!?」
予想外の威力だった。
ここまで威力が強い魔術を見たことがないし、俺は今、試しに一番威力が弱い魔術を放ったつもりだった。
しかし、視界が晴れた時には周りの木は焼けているし、地面は焦げてしまっている。
「リンド……」
俺の名前を呟いたティアが、少し離れたところにいた。
なるほど、契約精霊であるティアまでもが引くほどの威力だったらしい。
威力の調節も、今後は覚えていかなければならない。
森の木がなくなってしまうし、周りに人がいたら使えない。この威力だと不便すぎる。
「……森、このままでいいの?」
ティアに聞かれるが、俺は解決する術を持ち合わせていない。
どうしたものかと頭を捻る。頭を過ぎるのは、かつて一度だけ見た回復魔術の使い手だった。
「はぁ……。やってみるか……」
俺はさっきと同じく、回復魔術を使っていたのを思い浮かべながら、手のひらに霊力を集めていく。
今度は、さっきとは別の言葉が浮かんだ。口から言葉を紡ぎ出す。
「『回復・霊』」
霊力が、温かく柔らかい光へと変化する。
光の粉がふわりと舞い、森を覆い尽くしていく。
地面や燃えた木に触れると、光の粉は一瞬強く発光して溶けていく。溶けたところからは芽が顔を出し、新たな生が誕生する。
数分が経った頃、森はすっかり元通りの姿になっていた。
「…………」
「…………」
あまりの出来事に、俺もティアも黙って立ち尽くすことしかできなかった。




