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第十一話:さながらそれは小さな国のよう

 王都で特に何事もない生活を送っているうちに、入学試験の日がやってきていた。

 五年間も鍛えてきたので、今更受からなかった時の心配はしていないが、やはり緊張はするし、心のどこかで不安は感じている。


 それに、今回はただ入学する以上に難しいことがある。

 『精霊魔術』の強さが露呈してしまうと、五年前、特殊なゴブリンを倒し、ギルド長のリードに見初められた時のように、面倒事に巻き込まれかねない。

 ……あの時の失敗のおかげでここにいることを考えると結果的には失敗が良い方向に働いたと言えるが、今でもあの時のことは失敗だったと思っている。


 そもそも、俺はリードの依頼でこの学園に入学しようとしているのだ。あまり目立ってしまうと、依頼の難易度が跳ね上がる。

 力押しすれば良いというものではないのだ。

 本気を出して良いことなど一つもない。ギリギリ合格するくらいが丁度良いのだ。


「ティアー、そろそろ行くぞー」


 気付くと時間になっていたので、ティアに声をかける。

 ティアが俺の声に反応して、準備してあった鞄を手に持つ。

 ティアにも多少の緊張はあるのだろう。心なしか、いつもよりも動作がぎこちなく感じる。


 いつもにも増して口数が少ないティアを連れ、朝から元気なエルフ店主に見送られながら『精霊の宿り木亭』を出る。

 まだ季節は冬と春の間だが、快晴の空で太陽が輝いて温かい。絶好の試験日和だ。


 学園は、王都の中でも宿や露店、ギルドなどが立ち並ぶ区画――つまり、俺達が今いるところとは正反対にあるので、王都に到着して以来使っていなかった馬車で向かうことにする。


 不便ではあるが、試験に合格すれば学園に備え付けられた寮で生活することになるので、今回だけの辛抱だ。そこまで気にするようなことではない。

 むしろ、冒険者ギルドや宿などの外から来る人向けの施設と、学園などの王都内の人間が主な利用者である施設の棲み分けがしっかりされていないと、そっちの方が不便である。

 しっかりと細かいところまで考えられて造られたのが、この街なのだろう。


「『疾風・霊(ウィンド)』!」


 馬に跨って、魔術を使う。

 御者を雇うのも手間なので自ら馬に乗って手綱を引くが、俺は初心者なので魔術を使わないとうまく運転ができない。

 風を操って抵抗を減らし、車体が傾きそうになった時には支える。そこまでしてようやく標準レベルだ。


 逆に、魔術の補助さえあればそれなりに上手く運転できるということで、馬車はぐんぐんと王都の中を進んでいく。

 道は広く、馬車が通っても何ら問題ないようになっている。

 軽く吹き付けて髪を揺らす風が涼やかで、心地良い。

 どこまで進んでも、視界に入ってくるのは統一感のある美しい街並みだ。見ていても飽きることはなく、学園に到着するまで暇にはならなそうだ。


「ティア、力は抑えるようにな」

「分かってる。本気出すと目立つ」


 これだけは言っておかなければならないと思い、車の中にいるティアと会話をする。

 ティアは魔術こそ使えないものの、武術の実力はずば抜けている。五年前でもかなりの腕前だったのに、鍛錬を重ねてさらに力を伸ばした。


 俺が目立たないためには、ティアも目立たないようにしなければならない。だからこその注意だったわけだが、本人も理解しているようなので問題はない。

 ティアはただ強いだけでなく、しっかり力の加減も出来るので、注意さえしておけば目立つことはなく、必要な力だけを出してくれることだろう。


 ここで会話は途切れ、穏やかに時間と景色だけが流れていく。

 そうして走り続けて三〇分ほどが経過しただろうか。街の雰囲気にも多少の違いが見られるようになってきた頃、ようやく目的の場所を目が捉えた。


 学園の容貌は、予想以上に巨大で、予想以上に広大で、予想以上に壮大だった。

 建物自体の大きさも俺の予想を遥かに超えているが、そのことに対する驚きはちっぽけなものだ。

 特筆して驚くべきは、圧倒的な敷地面積と、土地利用の仕方だろう。平坦な訓練場だけでなく、森林や湖をも備えており、遠くから見た学園の様は、まるで一つの小さな国のようだ。

 こんな立派なところに長らく住むことができると思うと、入学後の生活への期待が際限なく膨らんでいく。


「いや、その前に試験だ……!」


 ここで失敗してしまえば、たった今抱いた希望が絶望へと様変わりする。だから今は、目の前の試験に集中して、確実に合格を勝ち取らなければならない。

 両手で自分の頬を叩き、気合を入れ直す。

 試験の時間が差し迫ってきている。一際馬車のスピードを上げると、試験会場を一目散に目指す。


 気付くと、沢山の馬車が並走していた。全員が学園を、そして合格を目指して駆けている。

 心が熱くなるのを感じた。これだけの人数が、俺達の敵として試験を受けるのだ。そして、それは同時に友人になれる可能性のある人数でもある。

 程よい緊張感と高揚感が身を包む。

 そのまま一気に、学園へと駆け抜ける。


 広大な面積を持つ学園からすれば、受験者全員分の馬車を止めるくらいわけなく、大量の馬車が誘導に従って敷地内になだれ込んでいく。

 俺達もその流れに乗って馬車を走らせる。

 敷地に入ってからもしばらく走り、数分が経った頃、ようやく停めるように指示される。


「『結界・霊(バリア)』」


 ここにいるのは金持ちばかりなので俺の馬車を盗もうなどとは思わないだろうが、念には念を入れて結界を張っておく。

 そして、ようやく馬から降りて、大きく伸びをする。

 周りを見渡すと、そこには広大な大地が広がっていた。

 草が茂っていて、一面緑色だ。まだ冬の寒さが僅かに残っているが、草は力強く生きている。


 その草を踏みながら、試験会場になっている校舎を目指す。

 馬車を停めたところから少し歩けば見えてくる、大きな建物だ。

 この建物の大きさは、生徒数を考えれば明らかに大きすぎる。ただ学ぶだけならば、この建物のの十分の一の大きさでも大きすぎるくらいだ。

 しかし、ここの生徒は学ぶだけでなく、その学びを活かして新たな研究をしているのだ。様々な設備がここにあり、そのために建物が大きくなっている。

 この建物の大きさは、合格した時に掛けられる期待の大きさでもある。


 俺は再度、気を引き締める。

 試験の時は、もうすぐそこまで近付いてきていた。

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