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第一話:人生の終着点

よろしくお願いします!

 美しい世界を、一人見ていた。


 見渡す限り、長い草が生い茂る草原。夕暮れのように赤く染った空。草から、地面から、空中から、次々と幻想的な光の玉が生み出され、浮遊し、やがて消えていく。

 そこに存在する全てのものが、世界という芸術を芸術たらしめている。過不足のない、完成した美。


 俺はその芸術的なまでに美しい世界を、一人で台無しにしていた。いくら美しいものでも――逆に、美しいからこそ、俺の汚らしさが際立ってしまうのだ。


 穏やかに流れる金色の雲を眺めながら、穏やかに流れる時間に身を任せる。


「はぁ……」


 やがて、溜息が漏れた。涙も溢れる。

 美しい世界を見た感動からか、はたまた劣等感からか、今まで我慢してきたいろいろなものが雫となって溢れ出す。


 俺の四〇年の人生は、不遇の一言で表すことができる。

 生まれた家は貧しかった。

 重税に苦しめられ、食べる飯も満足に得られない。その上さらに、働き手が少ないと税を納められないので、兄弟が多い。


 それ故に只でさえ少ない食費と食料を大人数で分け合う結果となり、かえって生活は苦しくなる。

 そんな中で、末っ子だった俺の発言力はないに等しく、均等に分けたはずの食料はどんどん兄弟に取られ、食べられていく。


 苦しい生活に耐えられなくて、一〇歳で家を出た。

 むしろ、この苦しい生活の中で、一〇歳まで生きていられたことが奇跡だと思った。

 ここまでくれば、もう後は幸福な人生が待っているのだと、まだ見ぬ未来に希望を見出していた。


 この世界では、一〇歳になった時にスキルを一つ、神様から授かることができる。

 ここで良いスキルさえ授かれば、不幸な過去と貧しい家を捨てて、幼い頃から何度も夢見た幸福に手が届くと思った。その為に、ここまでの苦しい日々を乗り越えてきたのだと思っていた。


 でも、実際にそんな夢のようなことは起きなかった。

 授かったスキルは、『SSS級魔術』。そのスキル名の通り、SSS級と言われる、魔術の中でも最高峰の威力を持つ魔術を操ることができるようになるスキルだ。


 一番の当たりスキル。

 レア中のレアスキル。

 成功が約束されたスキル。


 ――俺がこのスキルを入手する一年前まで、そう言われていた。


 そう、一年前までだ。

 このスキルの価値は、たった一年で大暴落した。

 原因は、魔術を放つのに必要な魔力の減少。

 人間は常に体内で魔力を生み出していて、魔術は生み出した魔力を使って放つ。しかし、『SSS級魔術』だけは例外だ。

 威力が高すぎる為、体内で生み出された魔力だけでは足りず、空気中に存在する魔力を利用しなければ魔術を使えない。

 空気中に存在する魔力の濃度が下がり、『SSS級魔術』は一切使えなくなった。


 一番の外れスキル。

 レア中のレアスキル。

 失敗が約束されたスキル。

 今ではこの評価である。


 俺は泣いた。悔やんだ。

 希望の果てに待っていたのは、絶望だった。希望を持たなければ絶望もなかった。

 結果的に、得られた希望は、より大きな絶望を引き寄せるのみになってしまったのだ。


 家を出てきてしまったので、家に縋ることはできなかった。両親と数多くいる兄弟の怒っている顔が、脳裏に浮かんだ。もし帰ったとしたら、扱いは前よりもっと酷くなっていただろう。


 選択をどこかで間違えたのだとしたら、それは家に戻らなかったことではなく、家を出てしまったことだ。

 スキルを授かった後で家を出れば良かったのだが、逸る気持ちを抑えられなくて、結局早く家を出てしまった。


 家もない。職もない。金もない。卓越した特技があるわけでもなければ、使えるスキルを持っているわけでもない。

 俺に出来ることは何もなかった。雇ってもらおうと思っても、需要のないスキルを見せた時点で全て拒否された。


 そこから数年は乞食をやった。

 とはいえ、そこらに沢山いる乞食に慈悲をかけるような人間は滅多にいない。

 汚物を見る目で見られ、時には暴力を振るわれた。勿論治療するすべも金も持っていなかったので、痛みを堪えることしかできなかった。

 ゴミを食し、汚水を啜り、たまに恵んで貰える新鮮な食べ物を宝物のように大切に食べながら、何とか食いつないできた。


 だけど、そんな生活にも限界がきた。

 体も心も持たない。耐えられない。

 俺は一念発起、冒険者になることにした。乞食を一〇年続けた、二〇歳の頃だ。


 冒険者は、全てを失った者が命を賭してなる職業で、元手ゼロ、誰でもなることができる。

 成功した極一部の人間は裕福な暮らしを手にすることができる反面、失敗した大半の人間は貧しい暮らしをしながら、毎日戦場に赴くことになる。


 そんな中で俺は二〇年間と少し、中堅の冒険者を続けた。

 食べ物がなくて痩せていた上に、一番の外れスキルしか持っていなかった俺はどのパーティにも入ることができなかった。

 幼い頃から培ってきた苦しみに耐える力だけで何とか力をつけ、ずっと一人きりで初心者向けの魔物であるゴブリンなどを細々と狩って生きてきた。

 そんな生活でも、ある程度の収入がある分、かつての生活よりはマシだった。


 そんな生活にも変化が起こったのは、四〇を少し過ぎた頃。

 初めてパーティへの勧誘があった。それも、勇者がリーダーを務め、強力なメンバーのみを揃えた、所謂勇者パーティだ。

 初めて、自分の努力が認められたと思った。心の底から嬉しかった。疑いなど持たず、迷わずパーティに加入した。


 だけど、加入して最初のクエストで予想外のことが起きた。

 場所はダンジョンと呼ばれる、魔物が溢れる洞窟。

 狩場としては最適なので、疑いも持たずに人目の少ないダンジョンに行ってしまった。


 ある程度深い場所にきたところで、リーダーが魔物が近付けないように結界を張った。ダンジョンの中で休憩ができるなんて、夢のようだと思った。

 だけど、実際は違った。俺以外の、三人のパーティメンバーの恐ろしい視線が、俺を射抜いた。


 その後、何度も何度も殴られ、蹴られ、魔法で焼かれた。

 俺をパーティに加入させたのは、単なるストレス発散の為らしい。

 暴力など慣れたものだったが、初めてできたと思った仲間に裏切られ、心が痛んだ。

 しばらくして暴力が止まった。安堵は一瞬。


「じゃあな……。『転移』!」


 そして俺は、美しい世界に、汚い格好のまま、一人で立っていた。


「くそっ! くそぅっ!」


 何十年も出していなかった大声と、何十年も流していなかった涙が、ここにきて溢れ出る。

 もう絶望は十分だった。こんなわけのわからないところに転移させられて、生き残れるはずがない。


「いやだ……。いやだぁ……。あああ……」


 生まれた時から、幸福な瞬間なんてなかった。それでも、きっと生きてれば良いこともあると思いながら、必死に生き抜いてきた。

 それなのに、こんなところで、幸福を知らないまま死ぬ。それがどうしても許せなかった。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 周りも見ずに、涙をひたすらに流す。声を上げる。

 何時間もかけて、ただただひたすら、四〇年分の苦しみを吐き出す。


「はぁ……はぁ……!」


 やがて、泣き疲れて、意識が遠のいていく。

 流した涙が土に吸い込まれて形を失っていくように、俺の意識も段々と形を保てなくなっていく。

 そんな中でも、苦しみだけは脳に刻まれて、鮮明に生き続けていた……。


《――精霊との契約に成功しました》

《――『SSS級魔術』が『精霊魔術』に進化しました》

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