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√トゥルース -072 胡散臭い幼女



「こんなにも沢山買うの?」


 店が用意した一角にフェマが次から次へと購入する物を持ってくるのを見て、リムが嘆息した。


「いや、まだまだじゃ。他にも冬用の天幕も必要じゃし、薬もある程度揃えておかねばの。嬢たちは保存食は選べたかの?」


 そう言ってシャイニーたちの方を向くが、それに対する答えはノーであった。先程の騒ぎでそれどころでは無かったのだ。

 仕方無いと溜め息を吐いたフェマが保存食コーナーに向かおうとするのをトゥルースが止めた。


「ちょっと待った、フェマ。出発は二~三日伸びるから、食糧はそんなに慌てて買わなくても良いぞ?」

「何? そうなのか。でも二~三日程度なら保存食は問題無かろう」


 そう言って構わず保存食コーナーに向かうフェマ。それを横目で見送ったリムが怪訝な顔をした。


「ねえ。色々聞きたい事はあるんだけど、あの子って一体…… 裁縫は上手いわ、よく厨房へ出入りしても怒られないわ、更にああして言う事を聞かないどころか仕切るわ…… あのくらいの子供ってもっと無邪気よね?」

「ああ、フェマは特別だよ。あんな姿だけど俺たちよりも色々知ってたりするから」

「……何それ、ちょっと怖くない?」

「いや、そんなに怖がる必要は無いよ。時々とんでもない行動をするけど、基本的には優しい良い奴だから」


 勿論フェマが呪いによって百数十年も生きているだなんて事は簡単には口に出来ないが、その為人(ひととなり)は気の良いお婆さんそのものだ。時として相手を想う余りとんでもない行動をする事はあっても、悪い事を考える事は先ず無い。

 その最たるは王国の軍に止められていた竜の姿だったティナの元に無断で入って行った事だろうか。加えて言えば、ティナが竜の姿で現れた時に逃げようとはせず、寧ろ近付こうとしていたくらいだ。

 他にも困っている人間には必ずと言って良い程手を貸そうとして、トラブルに巻き込まれる。前に一緒に住んでいたお婆さんと暮らしていたのも、そんな優しさからであろう。


「……何か釈然とはしないけど、話せない事もありそうね。まあ良いわ。それと、こんなに買い込んで一体何処へ行くつもり? それも石の加工が無ければ直ぐにでも出発しそうな勢いよね」

「そりゃあな。あそこにいつまでもいたら、また無理難題を突き付けられそうだし。そうでなくても石研ぎをしなくちゃいけないし、出来上がったら帝都に届けなくちゃならないし、定期的に寄らなくちゃならなくなったし……」


 遠い目をして言うトゥルースに、そういえばそんな話になっていたわね、と哀れみの目を向けるリム。

 逃げようと思えば逃げられるだろうが、石の売人を続けていくのであれば帝国又はその関連国を通らずに旅を続けるのはかなり無理があるだろう。だからと大陸の東地区をメインにする気があれば良いが、政治的に不安定な国が多い。そんな所では高級な変色石の需要は然程多くはないだろう。それに石の需要がある数少ない安定した国には先輩であるベテラン売人が集中しているだろうから、新人のトゥルースが今更入り込む隙間はあるのか微妙なところだ。

 だがそもそも、あのミックティルクが簡単には逃がしてはくれないだろう。地の果てまで追っ手を差し向けて来兼ねないなと想像したトゥルースとリムは身を震わせた。


「それにしても……ちょっと多過ぎじゃないの? 一体何処に行くつもりなのよ」


 その購入する商品の山を見てリムが眉を顰める。


「ああ、ちょっと用事があって帝国の北の領に、な」


 そう答えつつも想像以上に多くなっていく品物の山に、流石のトゥルースも同じく顔を顰めた。


「北のって、街道を通れば宿なんてそれなりにあると思うけど。それに町に立ち寄れば店だってあるでしょうに」

「いや、街道は通らない予定なんだ。直接北に行ける道があるからそこを通って行くつもりなんだよ。って、やっぱりちょっと多過ぎのような……」

「え? 直接北に?」


 警備員に見守られながらシャイニーとティナがフェマと一緒に保存食を選んでいるのを見ながらも、積み上げられた山の高さに懸念するトゥルース。これだけの量を、果たしてあのラバたちが問題なく積んで山道を歩いて行けるのだろうか、と。

 そこへ保存食を抱えたフェマが戻ってきた。向こうではシャイニーとティナが未だ選んでいるところを見ると、まだまだ増えそうだ。


「ふむ、これは積む方法も考えねばのぅ。坊、鞍は手直しして貰っとるんじゃろ?」

「ああ、手直しのついでにもっと荷物を積んでも良いように頼んでいるけど……でも多過ぎやしなか?」


 積み上がっている商品の山を見てまだまだ持ってこようとするフェマに指摘するトゥルース。しかし当のフェマは首を横に振る。


「いいや、これでも厳選しておるから減らす事は出来んぞ。街道から一本入った先の村で多少は補充も出来るやも知れんが、その先は一切補充が出来ないと思っておいた方が良い。この季節であれば山の幸が多少は期待出来ようがな。じゃが念には念を入れておいておいた方が後々後悔せずに済むというものじゃ」

「それって例の獣道かも知れないっていう区間の事か? 確か早くても五日は掛かるんだっけ。でもそれにしては……」

「慣れた者でも五日は掛かるのじゃから、わしらは十日は見ておいた方が良いじゃろうな。何事も念入りに、じゃ」

「もしや北に直接行くってのは旧道を使うつもりか? もしそうなら止めておけ」


 話し合っていた二人を見ていたアディックが、難しい顔をしてトゥルースに忠告する。しかし既にその道を通る事を決めていたトゥルース。


「酷道と呼ばれているらしいんですけど、たぶんその道だと思います。でも通れない訳じゃないらしいし、大回りするよりは早く目的地に着けそうだし」


 実際にその道に入り込む前にも旧道があって、そこで手応えを確かめられると聞いているから、駄目だと思えば街道の遠回りルートに回れば良い。その事をアディックに伝えるが良い顔はしない。


「我が二度目の行商に出た時に同行してくれた者がその道を使おうとしたのだがな、慣れない馬では半時も進まずに諦めて戻った。あのような道では馬を痛めてしまう。それに本当に道なのか獣の通った道なのか分からなくなるような分かり難い状態だったからな」


 まさかの経験者だった。

 それでこんなに反対するのかと納得するトゥルース。しかし条件は違うのだ。


「俺たちの乗っているのはラバっていう悪路にも強いらしい種類なんです。あいつらで王国から侯国への峠道も通って来ましたし、先程も言ったように駄目だと判断したら直ぐに引き返します」


 何よりトゥルース以外は女ばかりだ。無理だと思えば直ぐに引き返すつもりであった。


「そう身構える程の事でもないと思うのじゃがのぅ。お主は乗る馬に恵まれなんだって話じゃろうて。それにわしも何度か通った事のある道じゃから心配あらせん」

「はぁ?」「えっ!?」「ええっ!?」


 フェマの最後の一言に驚く三人。その様子は三者三様で、アディックは意味が分からないと顔を顰め、リムはそれはないだろうと首を振り、トゥルースはそんな話聞いてないと目を剥いた。

 それはそうだろう、一番縁が遠い筈の幼女が何度も通ったと言うのだから。

 そんな四人を余所に、二人の少女は警備員に見守られつつも周囲に怯えながら保存食を選び続けるのだった。





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