√トゥルース -057 桃色空間 -1
「わ! これ好きな色なのよね♪」
満面の笑みで桜色の生地を手にファーラエが声を上げると、ラナンがそうでしょと得意げな顔で頷く。それを見たカーラが右手で頭を抱え、大きな溜め息を吐いた。
女性陣は今、シャイニーたちに与えられた離れの大部屋で下着作りをする為に使う生地を見繕っていた。寝台の上に並べられた生地はカーラが選んだ綿の白い布を筆頭に、ラナンが手当たり次第選んだ色とりどりの綿や絹の布。淡い黄色やラベンダー色等のパステルカラーに加え、濃紺や黒、鮮やかな赤まで豊富なラインナップになっていた。
「ふふふ~、ファーさまならこの色は外せないかなって思って~」
「きゃ~、ありがとう! あ、ラナンちゃんにはこの深紅が似合いそう!」
キャッキャと歓声を上げる二人の隣で更に大きな溜息を吐くカーラ。あれほどミックティルクの負担にならないようにと念を押したのに結局はこれだけの量の布を買い込んでしまったのをファーラエが喜んだ事で、ラナンの暴走とも言える生地の大量購入について怒れなくなった。
「え~? だって一昨日の夜、ファーさまが来るって言ってたじゃない。きっとファーさまもあの下着に興味を持たれると思ってたくさん買ったに決まってるじゃない♪ ミックさまだってそれが分かってて許してくれたと思うし~」
「……本当に~? それって後付けじゃなくて?」
ジト目をするカーラから目を逸らし口笛を吹くラナンだった。
「それじゃあ、ファーさまはこの五種類の色合いで。あたしはこっちの5種類かな? カーラさんは?」
「全く。ラナンは遠慮がないんだから。わたしは白をたくさんかな?」
「……白だけ~? ミックさまに飽きられるんじゃない? 他の色も良いのよ~?」
「ううっ! じゃあ……赤色も」
「うわ~。カーラさん、赤だなんて大胆~!」
淡い色の生地を選ぶファーラエに、濃い色を主体に選ぶラナン。徐々に使う布地が決まっていく中、白で我慢しきれなかったカーラがラナンにそそのかされて別の色も選択していく。
そんな中、ファーラエが自分の選ばなかった色とりどりの布地を見ながら首を傾げて呟く。
「でも、下着の色って何か意味があるのかな。普段は服の下に隠れてるものなのに」
「あ~それ、あたしも思った! 単に好きな色の生地を選んで来たけど、下着色に意味ってあるのかな?」
現代日本では下着の色には意味があるとされているが、書く人によって意見はバラバラ。ただ、白は清楚や純粋さを、黒は大人を、そして赤は健康や積極性を現すとされる事が多いが、ハッキリ言ってほぼその人のイメージに過ぎないと思う。好きな色を着れば良いのではないだろうか。(恋人の好みに合わすのはアリなのだろうが)
ファーラエとラナンの疑問にみんな首を傾げるが、一人それに答える。
「あの。その人に似合うのが一番だろうけど、白は清楚に見えて、大人っぽく見られたい時は黒を、赤は健康になれるって聞いた事が……それに大胆になりたい時や相手の人をドキッとさせたい時も赤が良いって……」
最後は聞き取りが難しいくらいに声が細くなったが、まさかのシャイニーからの情報に、それを聞いた一同に戦慄が走り、一転騒然とした。
「白は押さえておくのは当然として……黒や赤にそんな意味が?」
「ファーラエ、どちらも追加で欲しいわ。特に赤は」
「お、落ち着いて! ファー様。わ、わたしも両方欲しいけど、良いわよね? あ、リムさんも欲しいわよね? 生地が足りるかしら」
「え? あ、あたしは……ど、どうしよう。作って貰うのも気が引けるんだけど」
「白は沢山生地を用意しているけど、黒や赤はそんなに買って来てないわ~。どうしよう~」
皆が皆、シャイニーの言葉に踊り出す。可愛らしいパステルカラーばかりを選んでいたファーラエでさえもそうなのだから、女の子は不思議な生き物であった。
「もしかしてシャイニーさんやニナ(ティナ)さんも既に赤や黒を?」
「え? いえ、わたくしたちは安い白の綿しか……それにそのような話は今初めて聞きました」
「まあ、そうなの? でしたらこの際お二人も一緒に作られては?」
ティナの返答に、良い事を思い付いたと顔を綻ばせて提案した。勿論、二人はやんわりと断ろうとしたのだが、ファーラエの満面の笑みでの提案を断りきれる訳もなく。
更にファーラエお付きの侍女三人や護衛の三人まで試しに作る事となり、一気に大忙しとなった。裁縫はシャイニー、フェマと侍女たちしか出来ないが、基本の形はシャイニーしか分からなかったので主体になるのはシャイニーだ。
先ずは型紙のあったティナの物をベースに、一番ティナの胸の大きさに近いファーラエの物に取り掛かる。ティナに比べ少し小振りなので少々の手直しで対応できるし、順番的にも順当と言えるだろう。今回は上下ともなので服を脱ぎ裸になって採寸するのだが、昨夜にお互い肌を見せ合っているので恥ずかしがる事なく下着まで躊躇なく脱ぐファーラエ。何かに目覚めていなければ良いのだが……
下着まで脱ぐのは、今ファーラエたちの付けている貴族向けの下着はかなりブカブカに作られており、上から測ると誤差が大きい為である。ファーラエの採寸が終わると、その方法を見ていた侍女三人が協力しあってカーラやラナンの採寸をする事になった。手の空いたシャイニーはティナ用の型紙を元に、測ったサイズを落とし込んでファーラエ用の型紙を作り、生地を切っていく。
採寸をする侍女たちも最初は戸惑っていたが、二人目のラナンになると徐々に手慣れてきてテキパキと採寸できるように。その頃にはファーラエの下着一号用の裁断が終わって仮縫いに入ろうとしていた。
それを皆で見て覚える。数が数なので裁縫の出来る皆でやっていかなくては何時まで経っても出来ない。仮縫いが終わってファーラエに試着して貰う。一度脱いだ服を再び着る事はせず、上から軽く一枚羽織っているだけで済んでいるのは、今が晩夏であり暑過ぎず寒くない時期であったからだ。
「下はそのまま履くだけなので良いですよね。上は……少し前屈みになってお胸をこの包みの部分に乗せるようにして……はい、そうです。それで後ろを紐で留めれば良いです。あ、ちょっと締め過ぎですね。食い込んじゃってますから少し緩めて丁度ぴったりするように。そうです、良い感じかな? あ、ちょっと浮いているようなのでここは後で詰めますね」
ブラの付け方を指南するシャイニーに従って侍女たち。ファーラエの着替えは全てこの三人が行っていたので真剣に聞いているが、ここまでは特には問題ないようだ。すると付け終わったファーラエが歓声を上げた。
「わ、わ。なんだかすごい! 今までにない感覚だわ、これ。意識しなくても姿勢がピンとするし、何だか胸が大きくなったような気が!」
「わっ! ホントに。それに正面から見たら少し体が細く見えるようになったような気が…… ねぇ、これってきつくないんですか?」
「少しだけ脇の下が押さえつけられた様な感じだけど、きつい感じは殆どしないわ。胸が包まれているのは感じるわね」
喜ぶファーラエだが、それを見ていた他の者たちが徐々に顔を顰める。
「あの~。あたしたちは自分一人で着る事も多いんだけど、それってもう一人いないと着れないの?」
「あ、一人だけでも着る方法がありますよ。先に手前で紐を留めてずらし、肩紐を通せば良いんです」
「え? じゃあ前屈みで包みに乗せるのは不要なの?」
「あ、それは後から教えますけど、横に出てしまったお胸をこうして寄せる様にするんです」
身振り手振りで教えるシャイニーだが、その先生役には寄せる程の胸の膨らみはない。何故そんな事を知っているんだ?と。
そもそもシャイニーの付けていた下着はゆったりしたもので、胸を支えるのではなく胸が擦れないように保護しているだけの物だった筈なのに、だ。その事については皆が昨夜の脱衣所で見て知っている。それにシャイニーは孤児院出身であり貴族が着けるような下着を手に入れる事は考えられない。
一体どこで知り得たのだろうと、謎が謎を呼ぶ事になったのだった。う~ん、裸の姫様エロい。(作者感想)