√トゥルース -052 巻き込まれた少女の戸惑い
結局、シャイニーさんをそんな目に遭わせていた酷い孤児院の人たちは、後日ちゃんと捕まったらしいけど、その捕り物にもあの男の人が関わってたって。何その英雄譚。
「官権や教会に訴えてくれたのは王国のザール商会の者たちだそうじゃ。嬢は良い出会いをしたものじゃの」
「官権と教会の両方に? あ、そうか。捕まえるのは官憲だけど、官憲だけじゃ教会や信者たちから反発されたら大事だもんね。それこそ暴動が起きたら目も当てられない……」
「あ~、それで守られし首飾りが。やっと納得したかも~」
「え? 守られし首飾り? あの、どういう事ですか?」
聞き逃せない単語を発したラナンさんに詰め寄るあたしだけども、話を聞いて思わず溜め息が出た。
守られし首飾りと言えば、大陸全土に影響力のある教会が認めた者にしか渡さない栄誉ある物。その数は知られているだけで十個前後しかない筈で、滅多な事では目に出来ないと言う。現に姫様も驚いているもの。
しかし……それをシャイニーさんが?
もしそれが本当なら、凄い人とお知り合いになっちゃったかも。さっき、姫様と一緒に抱きしめちゃえば良かったかな?
いやいや、それを言ったら目の前の姫様だって凄い人なんだと思う……思うんだけど、この人は別の意味で凄い人なん……だろうか? ううん?
でも姫様や、あたしたちを誘ってくれた王子様から見たら、あたしなんて国民でもないただの一般人であって、直ぐに忘れられちゃう存在なんだろうな。自慢は出来るだろうけど。
「そうだ。シャイニーさんの理由は判ったけど、じゃあニナさんは?」
「わたくしですか? わたくしは……詳しくは申せませんが、わたくしもルース様に助けられた口ですが……」
ニナさんも何か表情を曇らせて項垂れ、言葉を止めた。話して良いものかどうか考えているのかな?
「あの。話したくないのであれば無理には……」
「そう、ですね。やはり詳しく話してしまうと大問題になってしまうので話せませんが。わたくしの身に大きな問題が起きまして、親に捨てられた後に人として生きていけなくなりそうなところをルース様に助けられまして、その時にわたくしの……その……裸を見られてしまいまして……」
「「「「ええっ! 裸を!?」」」」
顔を真っ赤に染めながら話すニナさん、逆上せた訳じゃないよね?
それにしても男の人に裸を見られたなんて、女としては恥ずかし過ぎる! そんなのあたしだったら堪えられない!
しかし、それにぶっ飛んだ意見を出すのはラナンさんだ。
「あ~。だから責任を取って貰う為に既成事実を作っちゃおうって? うわ~、やるぅ~」
「ふぁ!? き、既成事実をって……ラナン、あんた何を言って?」
「でもさ~、貴族の女ならそういうのは当然じゃない?そこのところはカーラさんの方が詳しいと思うんだけどな~」
それはそうだけど、って慌てるカーラさん。勿論、既成事実をって話にはあたしも吃驚だったけど、それは姫様もだった。でも、ニナさんが貴族って……何となくそんな気もするし、ね。
しかし、それに対して返事をせずに顔を赤くして俯いたままのニナさん。ええっ!? もしかして大当たり!?
「わたくし、親に捨てられた身なので、そうでもして居場所を作らないとって思って。それにわたくしの持っている呪いのせいでルース様から離れられないので」
「「「「え? 呪い?」」」」
「ええ。先程ルース様に助けられたって言いましたけど、それも元はわたくしの呪いが原因で……いえ、これ以上は申し訳ありませんがご勘弁ください」
出たよ、呪いの話が。人は皆、呪いを抱えて生きているって話だけど、殆んどの人はそれが呪いとは気付かずに生きていける。
しかし、中には酷い呪いがあって周囲の人にまで影響を及ぼす事があるって…… そしてそれは一生付いてくるものだから、本人にとっては死活問題であり、他人が興味本意で聞くのは禁忌とされる……要は気軽には聞いちゃ駄目って事。
じゃあニナさんはその呪いのせいで生きていけない危険な目に遭って、あの男の人に助けられたって話かな?それとも裸を見られたって事だからその呪いのせい口にしたくないで辱しめを受けるって事かな?
聞いてみたいけど恥ずかしい事なら口にしたくないだろうし、命に関わる事なら興味本意で聞くには失礼極まりない。それでも聞くのであれば、最後まで親身になって一緒に対策を考えてあげる覚悟が必要。
あたしにはそこまでの覚悟はない。だからこれ以上は追求は出来ない。本当は力になってあげたいんだけどね。
でも呪いかぁ…… 今まで何人か見てきたけど、せいぜいゲップが止まらないとか目が開いているかどうか分からないとかそういった些細なもの。そこまで騒ぐ程の呪いを持った人なんて出会った事が無かったから……あ。
「もしかして、あたしの石を盗み取っていった見えない何かって、呪いの人だったり?」
あ。しまった。
何の脈絡もなく唐突にあたしが口を開いたものだから、みんなポカ~ンとしている。そうだよね、当然だよね。今までニナさんの呪いの話だったのに、突然あたしの被害の話になっちゃったんだから。
「ええっと……はい、恐らくそうかと」
あ、あれ~? ニナさんが答えてくれたけど、苦笑いしている? って事は気付いていた?
「まぁ、あんなのはそれ以外に考え難いだろうな」
「ミック様もそう言っていたしね~」
「ラナンはミック様に言われるまで気付いていなかっただろ」
「むぅ~、ちゃんと気付いてたんだからっ!そういうカーラさんだって、ああそうかって言ってたじゃない~」
なにをー!って言い争いを始めたカーラさんとラナンさん。あれれれ? 二人も気付いてた?
「うむ、そうじゃの。わしらはミーアのおかげでそれに気付いたから分かるが、気付かねばアレが何かすら分からず終いじゃっただろうからの」
「そう、だよね。ウチも見えない何かって言われてもピンとこなかったもん」
うわ~! シャイニーさんやチビッ子のフェマちゃんまでも知ってたなんてー! 知らなかったのはあたしだけ?
そんな慌てるあたしをじっと見て眉を顰め口を尖らせる姫様。うわっ。そんな姫様は似合わないのに、それでも可愛いってどんだけ可愛いっていうのよ~!
「むぅ……一体何の話? ファーラエの知らない事よね?」
「あ~、今日の買い物の帰りにね。ちょっと騒動があったの。物盗りらしいんだけど、姿が見えなかったのよね~」
「ええっ! 姿が!?」
「それで、わたしたちには被害が無かったんだけど、この子は商材を盗まれちゃってたらしいの。それで随分と落ち込んでいたから、ミック様が宿に泊まるくらいならってここに誘ったのよね」
「まあ! そんな事が。それはお気の毒に。それで食事前に優れない様子だったのね?」
姫様からの暖かいお心を頂き、もう大丈夫なのでと返したけど、そういえば本当にもう大丈夫っぽい。色々と話している内に盗られた石の事をすっかり忘れてて、もやっとしていた気分が晴れていた。新たにここをどうやって出ようって問題で頭がいっぱいだけど。
でもそうよね、石が盗まれたからってシャイニーさんやニナさんのように命の危険に晒される訳じゃないもんね。暫くはキツいだろうけど、まだまだ挽回出来るもの。何時までもくよくよしているよりも前を向かなくちゃ!
「でも、それなら呪いと考える方が自然かもね」
たったこれだけの話を聞いただけて呪いだと断定する姫様は、あたしなんかとは頭の出来が違うのかな。
「でもでも、それってもしかしたら、すっぽんぽんで外を出歩いてるって事よね。大胆な人だわ」
眉を吊り上げて指を一本立てて真剣にそう言う姫様、何だか論点がずれているような?出来が違……あれ?
「でもどうして石なんて盗っていったのかな? そんなの盗んでも姿が見えないんじゃ、どうしようもないんじゃないかな?」
「あ。そう、ですよね。転売するにしても姿が見えなければ相手にもされないし」
そもそもあたしの扱う石は、変色石の中でも一番価値のあると言われているピンクナイトレインボー。そんなのを大量に持ち歩ける人なんて普通はいない筈。普段は石を持っている事がバレないように凄く気を遣っている。当然、持ち込む店は下見して信用できるか念入りに見ているくらいだし。後を付けられて強奪される……なんて事にならないように。
今日はその下見が終わって、さあ売ろうかって時に、イエローナイトグリーンの売人が騒ぎを起こしかけていたので商談を見合わせたんだよね……って、あっ! そうか。あの男の人って、その時に支店長さんと一緒に出てきた人だ。
やっと思い出したよ。あそこで見られてたからあたしに声を掛けてきたのか。やっと謎がひとつ解けた。
でも……じゃあ、あの人は支店長さんと何の商談を? 気にはなるけど、こんな綺麗な女の人を二人も連れている上、小さい子まで連れて……奴隷扱いしてる風ではないみたいだけど、良い人なのか悪い人なのかまだ判断が付かないな。