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√トゥルース -051 巻き込まれた少女の驚き

昨夜に一話投稿しています。

お見逃しないよう、よろしくお願いします。



「でも、それならどうして一日じゃなくて四日も?その間も何かしらあったんじゃないんですか?」


 続けてニナさんが(ファーラエ)様に問い掛ける。けど……ニナさんって凄いな。あたしなんて姫様に声を掛けるなんて事、まず出来ないだろうな。見ているとシャイニーさんもあたしと同じで、ずっと黙って聞いていた。


「そうなの、聞いて聞いて!お掃除して花瓶を割っちゃった後、お仕事をあげるって言われて喜んだんだけど、それが印判(ハンコ)押しだったの。これなら物は壊さないからだなんて、失礼しちゃうよねっ!」


 確かにハンコ押しなら物を壊す恐れはないよね。でもそれも立派なお仕事なんだよね?

 ところが姫様、ただハンコを押すだけじゃいけないからって、その書類を読みながら付いていた文官さんに疑問に思ったところを質問していったんだって。そしたらその文官さん、姫様に向かって怒り出しちゃったらしい。自分は姫様の教育をする為に来ているんじゃなく仕事をしに来ているんだって。うわぁ、その人、勇気あるよね。姫様に向かってそんな口の利き方をするなんて……


 結局その場は居合わせていた侍女のアバンダさんが間に入って治めたらしいんだけど、その後何やらバタバタしてその文官さんは結局交代させられちゃったって。ま、当たり前よね。姫様にそんな口を利いたんだから。

 でもその後も文官さんが代わってハンコ押しを続けさせられて、終に四日目になって漸く姫様の泣き言が帝王様の耳に届いてお役御免となったんだって。その時の様子はその場に控えていたアベリアさんが教えてくれたんだけど……


「ほれはもう、陛下がひんろーこんぴゃー(疲労困憊)しとった姫さまを抱んきじめ(だきしめ)て、もうせぇへんから許してけんろって…… あんだら(あんな)陛下、初めて見たんよ……って、あ゛あ゛っ! こんの事は内緒にしてけんろ!? こなな事を話したなんてわかっちまったら、わだす首になっちまうだぁ!」


 うわぁ。姫様、帝王様から随分と愛されているんだなぁ。というか、アベリアさん迂闊過ぎ。帝王様のそんな姿が世間に知られたらと思うと、絶対口にしてはいけない事をあたしたち聞いちゃったんだと苦笑が漏れた。


 それにしてもこんな他国の、それも大陸一の王族の知られざる一面なんて知らなくても良かったよ。知ったところで誰にも話せないし!そもそも話したところで信じて貰えない……って、そういえば帝王様は娘に甘いって話をどこかで聞いた事があるような……

 これは話したところで、みんなが知っている事だったり?じゃあ、ついうっかり話しちゃっても問題ないって事かな?でもでも、その程度が尋常じゃない事はあまり知られていないと思う。やっぱり口にしちゃってはいけないような……

 って、あたしなんかが姫様から直接聞いた話だなんて、誰も信じちゃくれないよね。もし誰かに話しちゃったら、あたしが痛い子だって思われちゃうね。兄さんなら信じてくれるだろうけど、そこからまた別の人に話しちゃったら、やっぱりあたしが痛い子になっちゃう。

 うん、やっぱりこの事は黙ってよう!墓場まで持っていく事にしよう!


 その後こっそりと話を聞き易そうなシャイニーさんに今更ながら試政って何かを聞いてみたんだけど、何となくしか分からなくて結局ニナさんにも聞く事に。

 この人もお風呂でお化粧が落ちて凄く綺麗な顔をしているのをチラッと見る事が出来たけど、直ぐに手拭いで髪ごと顔を隠してしまった。やっぱりこの人には何か秘密があるんだろうな。もしかしたら何処かの国のお姫様だったり!

 ……な訳ないか。無いよね。もしそうなら、こんな所であんなパッとしない男の人と一緒にはいないだろうし。それにしても不思議な組み合わせ。

 綺麗な顔を隠す上品なニナさんに、顔の火傷のような痕さえ無ければとても可愛らしいシャイニーさん、それにお婆ちゃんの真似をしているような五歳くらいに見えるフェマちゃん。この三人が、王子様からの叙爵の打診を断っている男の子(トゥルース)と四人で旅をしているって……

 それ、大丈夫なの?だってフェマちゃん以外はみんなあたしと同じ十五歳だって。十五歳って言えば、成人して結婚も出来る歳なんだよ?早い人なら子供も…… まだ子供っぽい体格のシャイニーさんは未だしも、ニナさんはもう充分大人な身体。同年代の男の子には刺激が強過ぎだと女のあたしでも思うもの。


「え? いつもみんな一緒の天幕で寝てるけど……」

「へっ!? 男の人と一緒に!? どういう事なの!?」


 あたしが男の人と一緒の旅だと天幕とか別けないといけないから大変じゃない?と聞いてみると、シャイニーさんからそんな吃驚発言が返ってきた。ニナさんを見ると視線を逸らされたからきっと本当なんだ。

 でも待って! だって兄さんと一緒に旅をしているあたしでも色々と大変なんだよ? 兄妹だから同じ天幕の中で寝てるけど、すっごい気を遣い合っているんだよ? 況してや赤の他人である男の人と一緒だなんて!


「それは……天幕を増やすのは勿体ないし、荷物が増えるからで……」


 確かにそれは理由としては尤もなもの。あたしたちだって荷物を減らす為に天幕はひとつにしているから分かる。んだけど……


「ねぇねぇ~。じゃあさ、昨日の夜も別々の部屋を用意しておいたのに一緒に寝ていたって話も本当~?」

「ええっ!? 別々の部屋が用意されていて一緒にって何で!?」


 どうして? 意味が分かんない!


「まさか! あの男に命令されて!?」

「ち、違います! ルース様はわたくしたちに気を遣って天幕の外で寝ようとする方なんです。だから決してそのような事はしません!」

「じゃあどうして?」

「そ、それは……」


 勢い余って思わず問い詰めちゃったものだから、答えに窮するニナさん。しまったあ!あたしが口出しする事じゃ無かったのかも!

 でも、もし命令されて酷い事をされているのだとしたら、丁度王族の屋敷内だって事で明らかにすれば、あの男を捕らえて貰ってこの子たちを助けてあげられる。


「あ、あの。それはたぶんウチのせいだと…… ウチ、孤児院出身で、追い出された時にルー君に拾って貰えたんだけど、ルー君がウチの為に天幕をもうひとつ買おうとしたのを勿体無いからって止めたの」

「え? な、なんで?」


 困るニナさんを挺してシャイニーさんが答えるのだけど、どうも様子が変。項垂れて表情が暗い。ってか、今、孤児院の出身って言った? わわっ! これ聞いちゃ駄目なやつじゃない?

 だけどもう遅い。シャイニーさんが言葉を続ける。


「だってウチ、その時はもうそのまま死んじゃうんだって思ってたから。そんなウチの為に大事なお金を使って欲しくなかったの」

「「「「「ええっ!!」」」」」


 その言葉に、姫様たちだけでなくニナさんまで声を上げたんだけど……死んじゃうって……

 その後、シャイニーさんの身の上話を聞いたんだけど、それは衝撃的だった。


 物心付く頃から奴隷のように孤児院の下働きのような事ばかりさせられ、食べる物も残り物だけ。残り物と言っても育ち盛りな孤児院の子供たちが潤沢とは言えない孤児院の用意する食糧で足りる筈もなく……

 シャイニーさんが小柄で子供のような容姿なのは、そのあまりにも過酷な環境で育った為だったんだ。そしてあの男の子に出会ってから、無理をせず時間を掛けて普通に食べられるようになったのに結構な月日が掛かったらしく、シャイニーさんはあの男の子を命の恩人として捉えているみたい。

 そして初めの頃はガリガリな身体で野外泊では体温の保持が出来なかった事もあって、あの男の子に引っ付いて寝るようになったそうで……親の温もりを知らなかったのも手伝って今も夜は引っ付いて寝ないと不安になるらしい。ううっ! なんて悲劇なの? そんなの聞いちゃったら、別々に離れて寝るのを強制なんて出来ないよ。


「命が繋がったのはルー君のおかげ。最近、やっと身体が女の子らしくなってきたのもルー君のおかげ。だからウチ、一生を掛けて恩返ししなくちゃいけないの」


 もう何も言えなかった。っていうか、言える筈ないじゃん!


「ニー様がルース様に深い恩義を感じているのは知ってましたが……命が危ぶまれていたのは知りませんでした。そんな事が……」

「そのような状態で追い出すだなんて、酷いわ」

「ホントに~。でもそんな人たちだからこそ、シャイニーさんをそこまで追い込んだって事よね。そんなの許せない~!」


 ニナさんが言葉を失い、カーラさん、ラナンさんが腹を立てて怒る。

 しかし、そんな話を聞いたあたしの目からは、もう涙が零れ落ちそう。このまま抱きしめたい。ううん、もう抱きしめちゃおう!


「うわぁぁぁぁん! シャイニーさぁん! 辛かったよねぇ! よく頑張ったねぇ! ファーラエはシャイニーさんの味方だよぉぉぉぉぉ!」


 ……姫様に先を取られた。この広げた手はどうすれば良いんだろう。






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