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√トゥルース -050 巻き込まれた少女の葛藤



「まさかこんな事になるなんて……」


 半分強引に連れて来られたあたし(リム)は、次から次へと想定外の事が起こって既に頭がパンク状態。昼に商材の石が盗まれて落ち込んでいた事も薄れつつある。

 そもそもここに連れて来られたのは、石を売ろうとして立ち寄ったこの地区では最大の店で自分を見掛けたという同年代っぽい男の人が声を掛けてきたのが発端。

 ちょうどその時、あたしは商材の石が入った袋を失くして絶望の淵を彷徨っていた。何度も石を売ろうとしていた店と宿の間を探し回ったのだけど、結局見付からなくて宿の前で項垂れていたところを声掛けされたんだ。そしたら自分が落としたのではなく、見えない何かに盗まれたんだって…… 何? 見えない何かって。それにそれって、落としたのより質が悪くて絶対戻ってこない事を意味するんじゃ……

 益々落ち込んだあたしを、もっと静かなところで休んだ方が良いからと誘ってくれたのは一緒にいた二人の女性。


 一人は程よく大きな胸を持った綺麗な人。濃いめのお化粧で何か誤魔化しているような感じだけど、思慮深そうでどこか惹き付けられる雰囲気を持っている。そのお化粧が無い方が素敵そうなんだけどなぁ、と思うものの、何か事情がありそうだと直感して口にはしていない。

 もう一人はあたしより3~4歳は下なのかなと思うような小柄な人。顔の半分を髪で隠して同じく濃い化粧で誤魔化しているけど、その隠された顔の半分が直視できないくらい火傷の様な痕があった。それが無ければとても可愛らしい子なのになとちょっと残念に思ったけど、それを補って余りある優しい心を持った子だと感じた。石を失って血の気を失っていたあたしを真っ先に気遣って支えてくれたのが彼女だった。小さいのに気が利く子だなぁと思ったら、何とあたしと同い年だと知って驚いた。幼い頃から不遇な扱いを受け続けていたって……悪い事を聞いちゃったな。


 そして、あれよあれよという間に連れ込まれたのは兵士が警備する立派なお屋敷。どうしてこうなった?

 いや、分かってる。シャイニーさんやニナさんが誘ってくれる前に、石が盗まれた事を指摘した上であたしを最初にお屋敷に誘ってくれたのは遊び人ミックと名乗った男の人。一度はそれを断ったんだけど、結局二人の説得に負けたんだ。


 ところがどっこい、何処かの貴族の息子かと思っていたその男の人が、大陸一の大国である帝国の王子様だった上、お屋敷に連れ込まれたかと思えば更に(王女)様の登場。更に更に、食事だけでなく姫様と共に入浴を終えたらそのまま宿泊する予定……その上、貴族すら着ていないような下着を一緒に作ろうと迫られている。

 気を病んでいるどころの話ではなかった。どうしてこうなった!?と何度繰り返したのかすら数えるのを止め頭を抱える。

 取り敢えず下心を持った変な貴族のオヤジに手籠めにされるような心配が無さそうなのは幸いだと思う事にしようと諦めの溜め息を吐く。その心配もあったのと勉強の為、兄さんの旅に同行させてもらってるんだよね。

 もう色々とありすぎて、貧相だと自覚している自分の裸を見られるのも気にならなくなっていたあたしは、いつの間にかアベリアさんとアマリリスさんによって下着を脱がされていた事も気付かず、促されるまま浴室へと足を踏み入れていた。


「うわ……すご」


 その大きな湯槽に目を丸め、洗い場の装飾に目を見張る。姫様は身体を洗うのもアベリアさんやアマリリスさんに任せているようで、二人に成されるがままにされていた。


「リムさんも洗って貰いますか? 気持ち良いですよ?」

「……え? あっ! いえ。自分で洗えますから!」


 洗い場では同じように女性陣が並んで身体を洗っていたが、シャイニーさんを除いてみんな自分より立派なもの()を持っている事に気付いた。

 半年以上続けている旅によって、自分の身体は少し筋肉質になってきているのを自覚している。故郷を出る前と比べれば、もう少し丸みを帯びて女らしかった身体は、手足に筋肉が付いて肩もがっしりとしてきて女らしさを失っていた。更に胸は成長期の筈なのに殆ど成長していなさそうだ。たぶん付くべき脂肪が付かず、筋肉に変わっているのでは?と。ぐすん。


 それに比べ、泡あわになっている姫様はとても線が細く丸みを帯びていて、胸も誇れる程は大きくはないが、これからの成長を期待させる理想的な形をしている。にも拘らず体重は栄養の足りていなさそうな身体つきのシャイニーさんに次いで軽そうだった。羨ましいな。

 それにしても、ラナンさんの胸はなんて暴力的な大きさなんだ、と息をのむ。話によると自分や姫様よりひとつ年下だと言うラナンさん。それに次ぐ大きさを誇るニナ(ティナ)さんの胸はハリのある理想的な形を成している。そして自分と同じか少し大きそうな胸のカーラさんも同じ歳だと言うが、同じような筋肉質に親近感を覚えつつ女らしい丸みも持っているのを見ると、自分の魅力の無さが情けなくなってくる。


 少し落ち込みながら身体を洗っていて、ふと気付いた。あれ? 落ち込むところが違うんじゃないか?と。そう、今日は大事な商材の石を目に見えない得体の知れないモノに奪われたんだ。その事に落ち込む事があっても、元々諦めていた自分の体形に落ち込むなんて。

 いつの間にか心の中のもやもやが別の物に入れ替わってきていた事に、クスッと笑みが漏れる。そうだ。今回の旅では石を失って大赤字だけど、この国に入る前後に多少なりとも石を売っていてお金は作っているんだから、これから挽回すれば良い。何も全財産を奪われた訳じゃないんだからね。


 ゆっくりお湯に浸かって疲れを取り、今夜は確りと寝よう。

 そう考えたあたしは身体を洗い終えると、手拭いを手にみんなの浸かる湯槽へと歩いていった。

 そこでは姫様がカーラさん、ラナンさんの二人とお湯に浸かって親しげに談笑していた。


「長くは続かないだろうって思ってたけど、まさか五日しか保たなかったなんてね」

「いいえ、五日ではなくて四日。初めから無理ってお父様には言っていたのにね……」

「あ~。もしかしたらって期待していたんだと思うな~。だってファーさま、黙ってても周りが放っとかないんだもん。勝手に功績が出来上がっていくって思われていたんじゃないかな~」


 苦笑するカーラさんとラナンさんに対して、何だか疲れたように項垂れ溜め息を吐く姫様だが、溜め息自体が慣れていないのか様になっていないというか似合っていなかった。普段は溜め息なんて吐かない人なんだろうな。


「あの。お聞きしても? 本当にファーラエ様が試政を? それに四日で終えたって……一体何が?」

「ええ、本当よ、ニナさん。でも、いざ指示を出そうとしたら、付いていた人たちが何もしなくても良いから座ってなさいって。やれって言っておいて何もするなっておかしくない?」


 ニナさんがおずおずと姫様に問い掛けたんだけど、ニナさんって勇気あるよね。あたしには無理。

 そしてその問い掛けにプンプンとしながら聞いてよ聞いてよと文句を口にする姫様。でも、何だかその怒っている姿ですら可愛く見えるのは、やっぱり姫様が姫様だからなんだろう。いや、自分で何を言ってるのか分からないけど、兎に角姫様は何をしても可愛い。確かに何もしなくても周りが勝手に助けてくれそう。


 それから話を聞いていてプッと笑ってしまった。だって、座っていろって言われてぼぅっと座っている訳にもいかないからって、何か役に立つ事をしようとお部屋の掃除をしようとしたら、花瓶なんかを次々に割っちゃったって言うんだから。

 慌てふためく度に被害を増やしていく姫様を想像したら、思わず噴き出しそうになっちゃった。そしてそれが原因で普通は一年前後は就く筈のお仕事を、たった四日で辞めさせられたって言うんだからね。

 しかし、よくよく考えてみたらちょっと青褪めちゃった。王族がみえる周囲にある調度品なんて、きっと国宝品とかじゃ……一体おいくら分の花瓶を割っちゃったんだろう。ひぇ~。じっとしていられなくて破壊魔となった姫様を早々に辞めさせたのは正解かも。あははは。はぁ。


 戦争を繰り返して属国を増やした歴代の帝国の王族とは言っても、みんながみんな苛烈ではなくてこんな抜けた人もいたんだね、と何だかホッコリしたあたしは一度湯から出て、少し湯だってきた身体を冷やす為に湯槽の縁に腰掛けた。ふぅ、お風呂に浸かるってイイね。






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