√トゥルース -049 秘密の脱衣所
「……ええっと。お伺いしても? 貴女たちはどちらの貴族の方なのです? それとも、もしかしてファーラエの知らない世界の方なのですか?」
一般家庭のリビングよりも大きな広さのある脱衣室で、みんなに引っ張られてきたリムがピシッと固まっている中、専属の侍女と思われる女性たちに手伝って貰いながら下着姿になったファーラエがティナとシャイニーの下着姿を見て首を傾げた。
「えっ? いや、その……あの……」
「はぅっ! いいえ、ウチたちはそんなんじゃ……」
「うん、うん、そうよね~。そういう反応になるよね~」
「わたしたちも、昨日見た時は驚いたからね。でも違うらしいですよ」
言い淀むティナとシャイニーに代わって、ラナンとカーラがファーラエの疑問を否定する。
「でも……二人の身に付けている下着はファーラエも見た事がないのですが。ねぇ、アマリリス、アベリア。貴女たちは見た事あるかしら?」
ファーラエが脱衣を手伝ってくれていた二人に聞く。名前で呼んでいるところを見ると結構親しげに見えるが、年齢の近そうな事も関係しているのであろう。
「いいえ、ひめさま。アマリリスは見た事ないですぅ。ビックリしましたですぅ」
「わだすもはんじめてだす。他の姫さまたちもこんだかもんは召していませんだ」
「……よねぇ。ね、ね。それ、どちらで買われたの?」
ぐいぐいと下着姿のティナに迫るファーラエもまた服を脱ぎかけで、一般的な貴族に流行している下着(キャミソールタイプにドロワース)姿であった。対してティナの下着は、上は所謂3/4カップブラの形で下はローレグフルバック形の現代的なパンティだ。
やはり一般的ではない下着は人目を引くので、昼の買い物時に服と一緒に下着も買えば良かったかなと思うティナだったが、トゥルースから程々にと釘をさされていた事や、シャイニーやフェマが体形に合わせて縫い合わせてくれたおかげでフィットしていて不満が全くなかったのだ。それにこうして人目に曝す事などは滅多な事ではないのだから、作るに当たって生地が少なくて済むこの形での制作には文句の言いようが無かったのだった。
尤も、普段目にする事のない下着にお金を掛けるような女だとスポンサーに思われては、金の掛かる女として放り出される可能性も無きにしも非ずという立場のティナがそれを口に出来ようもなかった訳だが。
「いえ、これはニー様やフェマさんに作って貰った物で、お店では売っていません」
「ええっ! そうなんですか? でも見たところ刺激的ではあるのですが、結構機能的にも見えるような……」
「ふふふ。やっぱりそう思いますよね~、ファーさま。実は明日、あたしたちにもこれを作って貰う約束をしてるんですよ。ね~、カーラさん♪」
「ちょっ! 何でこっちに振る? でも、そうなんですよ。それで今日は街に生地を買いに行ってたんです」
ファーラエと同じような下着を着ていたラナンとカーラが、横から自慢そうにそう打ち明ける。
「……因みにその下着の良いところを教えて貰っても?」
興味を持ったファーラエが、アベリアやアマリリスに下着を脱がされつつも質問する。それに対して失礼の無いように自分も下着を外しながら答えるティナ。この国の姫が真っ裸になっているのに、自分は下着のままでは恥を掻かせてしまう。
「そうですね……作る為の布の量を抑える目的だったとニー様は仰ってましたが、実際に使ってみると胸が持ち上げられて体が軽く感じるのと、姿勢が良くなる気がします。それにこれはわたくしも驚いたのですが、胸が強調されて更に大きく見えるのです」
曝け出した胸を手で持ち上げてこんな感じにと真剣な顔のティナが説明すると、えっ!そうなのですか!?と驚きの顔を見せるファーラエもまた真剣な顔をして自身の胸をクイクイと持ち上げてみせる。横に広がろうとするふたつの山を寄せれば、形の良い山と山の間に自然と深い谷が刻まれるが、それは胸が大きな人だけの特権だった。それが下着ひとつでまだそこまで大きくはない自分の胸で再現出来るとあって、食い付きは腹ペコな鯉以上だ。
これから風呂に入るとはいえ裸の若い女、それも帝国王女と王国(元)王女という美しさに定評のある二人が成長中の自らの柔らかそうな胸をムニムニぽよぽよと寄せては離し、寄せては離しを繰り返すのだ、そこには桃源郷が出来上がっていた。女同士だから見せる姿だろうが、端から見ている同性ですら顔を仄かに紅くしていたのは気のせいではないだろう。
「確かに大きく見えますし、こうすると身体が細く見えるようになりそうな気が…… それはファーラエも是非欲しいですね。あの。明日はファーラエにも作って貰えませんか?」
「いや、それはわたくしにではなく、ニー様とフェマさんに……」
ティナがちょっと待ってと両手を前に出して自分じゃないアピールをする。するとみんなの視線がちょうど下着を脱ごうとしていたシャイニーの方へと集まった。
ほぼ同い年だとは思えない程に小さくて痩せ細った身体だったが、ほんの二、三ヶ月前までは骨と皮に少しだけ家事に必要な筋肉が付いていただけの痛々しい姿だったとは思いもしないだろう。
そんなシャイニーが履いていたパンツは一般的なドロワーズタイプではなくティナとほぼ同じ形の身体にぴったりフィットしたすっきりした物で、上はソフトタッチなハーフトップブラで漸く膨らみ始めているのが分かるくらいの慎ましくも微笑ましい小山を可愛らしく包んでいた。
ふと、この中で最も胸の大きいラナンと最も幼く見える体格のシャイニーを見比べて、胸が横に広がる事で太って見えるラナンより細いシャイニーの方が可愛く見える事に気付くみんな。成る程と、ファーラエがその下着を身に着ける事で細く見える事に着目している事に納得する。見比べられたラナンは良い気はしないだろうが、下着ひとつで太ったように見える体形が改善できるかもという期待感の方が大きく、それを打ち消していた。
「ふぁ!? う、ウチ、ですか? いや、その……ご満足いただける物が作れるかは分かりませんが、ウチで良ければ……」
「む。わしなら手が空いている限り付き合うても良いがの」
「まあ良かった! じゃあ決まりね! あ、でも生地を用意しないといけないのよね?」
ぱあっと花が咲いたように明るい表情を見せたファーラエが、途端にガックリと肩を落とすが、それを見たカーラがそれならと声を掛ける。
「生地ならラナンの我が儘で何種類も買ってきてるから、ファー様もその中から選べば良いと思いますよ」
「ほらほら~。色々と買ってきて良かったでしょ?あたしのお陰ね~」
「ラナンったら、直ぐそうやって調子にのるんだから! あなたのお陰じゃなくて、お金を出してくれたミック様のお陰でしょ!」
あは、そうでしたと舌を出すラナンに、全くもう!と溜め息を吐くカーラ。
「あら。それなら生地はたっぷりあるって事ね? それじゃあ……リムさん、でしたよね。貴女も作ってもらいましょうよ!」
「えっ? あ、あたし、ですか!? いえ、あたしはいいです。あたしには勿体ない!」
本物の王族に加え、将来的に王子に娶られるであろう魅力的な女性ばかりの中に一人だけ一般人の自分が放り込まれ、緊張していてやっと下着姿になったリム。
その下着は市民には一般的だった布を巻いただけの物で、お洒落感は皆無で恥ずかしい。その上、蒸れて快適性も無く、身に付けるのも脱ぐのも一苦労する物だった。
だからといって貴族が使うような下着を求めようにも、レースやフリル等の装飾の為に高価な物であり、それを省いても多くの生地を使うのと仕立て代が嵩んで一般人には高嶺の花であった。作る側も手間が掛かり儲けの少ない一般向け下着は商売にするには魅力がなく、参入する業者は今まで現れなかった。
一般の人たちも、普段は見えないところのお洒落の為だけに、走れば揺れる胸を抑えるだけの能力の無い弛く高価な消耗品に、お金を出せる筈もない。
しかし、シャイニーたちの作った下着はその問題点の幾つかを克服出来る可能性を持っていた。
走った時の胸の揺れをある程度抑えられ、広範囲だった蒸れは極一部に。生地の量も抑えられて価格の下がる可能性がある上にスタイルの向上が見込める。これなら恋する若い娘たちが火付け役となって流行るかも知れないのだ。
「あら、でもその下着では色々と不便でしょ? 折角の機会なんだから、一緒に作って頂きましょうよ!」
「えええ~!!」