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√トゥルース -045 透明人間現る?



 「えっ!?」


 目の前で起こった事が理解できないトゥルース。

 ミーアが空中で(・・・)バシッと方向転換をしたのだ。


「なっ! 何だ!? 今、何が起こった!?」


 目の錯覚かと思ったトゥルースだったが、他の者も目を丸めてミーアを見ているので錯覚ではないのだろう。じゃあ何だったんだ?と当のミーアの方に目を向けると、何もない虚空に向かってフゥーーーッ!と毛を逆立てているミーアの姿が。

 それに、さっきミーアが空中曲芸(アクロバット)を決めた際に、ギャッと悲鳴のようなものが聞こえた気がした。そこから導き出せる事と言えば……


「もしかして、何か……いる?」


 トゥルースがそう呟いた瞬間、その何かが動いたのかタッタッタッと足音のようなものが聞こえた。するとその足音の向かう方へミーアが追い掛けていく。こちらは足音が聞こえないよう忍び足で、だ。流石は猫である。


「ミアスキア!」

「はっ!」


 するとミックティルクが声を掛けたミアスキアが、走っていくミーアの後を追って行った。


「何かいたな。見えない何かが。それもトゥルースを狙っていたように思う」

「俺を? どうして……って、ニナをおぶっていて動けないからか」

「恐らくそうだろうな。お前、今、懐に石を入れているのだろう?無くなってないだろうな」

「あっ! そうだった! ええっと……あ、ちゃんとあった」


 降りましょうか?と言うティナを止めて懐に手を入れたトゥルースは、中身()の入った袋と財布を確かめてホッと胸を撫で下ろす。


「一体何だったんだろう、あれは…… それに俺を狙ったのか、石やお金を狙ったのか……」

「ふむ、分からんな。オレチオ、お前は何か知らないか?」

「存じませんね、姿の見えない何かだなんて……いや、そうですね……ここ最近、目撃証言が一切出てこない犯罪が多数、市井で報告されていると……」

「可能性はあるな。それは動物の悪戯の範囲を超えるものなのか?」


 トゥルースが首を捻りつつミックティルクに問い掛けると、意見を聞こうとオレチオに話を振るミックティルク。

 それが人の仕業なのか動物なのかの判別をしようとしているのだろうが、それはもう分かり切っているであろう。なにしろ先程のミーアの攻撃で悲鳴(・・)を上げたのだから。


「今までの報告では動物の可能性も捨てきれませんでしたが、先程の状況からして人の仕業であろう事が濃厚かと。あとはあの白猫とミアスキアが追い詰めてくれれば…… 大丈夫でしょうか、ミアスキアで」

「何とも言えんな。何しろ相手は姿が見えん。恐らく呪いのせいだとは思うが、それを悪用するなど許し難い事だ。何とかして捕らえたいところだがな…… あとはミーアとミアスキアの組み合わせが吉と出るか凶と出るか……」

「何なら自分が行けば宜しかったですかな?ミック様」

「いや。レイビドに行かれると、この後ファーを宥められる者がいなくなるからな。あれが臍を曲げると私でも手を焼くからな。そっちは頼むぞ?レイビド」

「ええ。それはもう既にご用意しておりますので、ご安心ください」


 いつの間にやら第二王女のご機嫌取りを心配し出したミックティルクに、護衛役たちは随分と納得顔だが、ティナの話でしか知らないトゥルースたちは首を捻る。そんなに我が儘な王女なのかと。


「そんなに身構えなくても良いと思うぞ。まあ会えば分かると思うが、お前たちには迷惑は掛けないだろう。

安心しろ」


 世間には穏やかな性格で知られているという第二王女(ファーラエ)だが、知られていないもある事を匂わすミックティルク。

 まあ、とばっちりに遇わないのなら問題ないかとトゥルースは気を弛め、足を進め出す。被害も無いし、手掛かりはここになく追って行ったミーアとミアスキア頼りだ。となればここに留まる必要はない。

 が、一同はまた足を止める事になった。




「あれ? あの人たちは確かザール商会にいた……」


 宿らしい建物の前で、見覚えのある男女の姿を見付けたトゥルースが、二人の前で足を止める。


「あの。もしかしてザール商会で買い取りをして貰おうとしてませんでした? あの騒ぎはもう解消しているんで、まだ済んでいないなら再度行ってみては?」


 イエローナイトグリーンの売人が騒いでいた時に、苦言をぼそりと残してその場を離れていった同年代っぽい女性と、その女性と共に階下へと消えて行った男性に声を掛けるトゥルースだったが、どうもその二人の様子がおかしい。

 声を掛けたトゥルースの方を向いた男性は困ったような顔をしており、女性の方は項垂れて顔を上げる事すら無かった。他の者もそれに気付き足を止めて二人の様子を見るが、どうも女性の顔色が悪そうだ。


「大丈夫ですか? 体調でも悪いんですか?」

「いや、そうではないんだが…… ちょっと商材を失なってしまって……」

「え? 失なったって、落としたんですか? ここに来るまでにそれらしい物は見掛けなかったけど……」

「ああ。我らも何度も戻って探したんだが、どこにも落ちて無かった。先程官権にも届いてないか聞きに行ったんだが、それっぽい物は届いていないと……」


 そう言うと、女性だけでなく受け答えていた男性も項垂れた。商人にとって商材を失うのは今後の生活に大きな影響がある。そしてその様子から、失ったのはそれなりの価値の物なのであろう事は想像に難くなかった。


「あの。失くしたのはどんな形なんですか? 失くした事に気付かなかったって事は、そんなに大きい物ではないんですよね?」

「ああ、それは財布かそれより一回り程大きな袋で、中には()が入っている」

「えっ! 石って……まさか変色石……なんて事はないですよね?」

「どこかで見た……訳でもなさそうだな……」


 否定どころか食い付いてきたところを見ると、どうやらそうらしい。まさかの三大変色石の売人が、あの時一堂に会していたのか!?と驚くトゥルース。だがあの時、彼女は騒ぐイエローナイトグリーンの売人に対して、だからあの石の売人は……と苦言を口にしていた。であればどこかであの売人もしくはその仲間と会していて、同じように気分を害していた事が考えられるが、それならばあの言葉も納得だ。

 あのイエローナイトグリーンの売人はトゥルースを市場価格の混乱を招いたと罵ったが(勿論冤罪)、イエローナイトグリーンの売人は全体的に荒々しい売買をして回っている。先のザール商会での一件のような不良品を強引に売り付けるのはざらにある話だった。要は変色石の売人の評判を落としていたのだ。トゥルースが罵られる謂われなどないのだ。


 閑話休題


 驚くトゥルースに代わりミックティルクが前に出て、その男性に声を掛けた。


「ちょっと良いか? その無くしたのが発覚した前の事を聞きたいのだが、何もないところで何かにぶつかったような事はなかったか?」

「え? そういえば、何店か宝石店を見て回った後、ここに戻ってきた時に、リムがふらついていたな。リム、その時の事を覚えているか?」


 リムと呼ばれた女性には、トゥルースから降りたティナとシャイニーが寄り添って支えていた。それ程までに顔色を悪くし、今にも崩れ落ちそうにしていたのだ。


「そう、ね。そういえば何かに当たったような…… でも周りを見ても何も無かったから、不思議に思ったんだけど…… それが何か?」

「やはりそうか。先程、ちょっとあってな。どうやら目に見えない何かがいるようだ」

「目に見えない、何か? え? どういう事?」

「何者かに盗まれた可能性があるという事だ。今、私の部下と、こいつの猫が追っているところだ」

「え? 嘘、盗まれ、た? 猫?」


 何を言っているのか理解出来ないと顔を顰める二人に、トゥルースが先程の出来事を説明する。


「でもそうなると、どこかで落とした可能性は低く、戻ってくる可能性も低いって事では?」

「まあ、そうかも知れんな。相手は姿が見えないから、どんな者か、それこそ男か女かすら分からん。今追っている者が撒かれれば手掛かりすら失われるからな。まあ期待せずに体を休めるが良い。宿はここか?まさか金も盗まれたのではないだろうな。何なら私の屋敷に来ても良いが……」

「あ、ああ。心遣い有り難いが、財布の方は二人ともこの通り無事だから、取り敢えずここに泊まる予定だ。金銭的には人に世話になる程までは困ってはない……が、リムが少し心配だな」


 更に顔色を悪くする女性(リム)を見て、どうしたものかと顔を顰める男性。


「大丈夫よ、兄さん。気を付けていたつもりなのにこんなに簡単に盗まれるなんて、あたしが悪いんだから……」

「いや、今回はお主が悪いのではなく、相手が悪かったのだ。気にするなとは言えないが、気に病む事はない」


 自嘲気味な笑みを作るリムの顔は、とても痛々しいものだった。


「あ、あの。ウチが言えた立場じゃないんだけど、ミック様のお言葉に甘えては? こんな人通りのある道沿いにある宿じゃ、落ち着いて休めなさそうだし……」

「そうですよ。今の貴女を見るに、とても大丈夫そうには見えません。静かなところで休んだ方が良さそうですよ。良いですよね、ミック様」


 リムを支えていたシャイニーとティナが、その顔色を見て説得しつつ、ミックティルクにお伺いを立てる。

 勿論、最初に誘った手前、ミックティルクがそれを断る事は無い。寧ろ、絶賛口説き中の二人にお願いをされて喜んでいる節すらあった。好意を寄せている女性から上目使いにお願いをされれば、嫌な気分になる男などそういるものではないだろう。


「うむ、歓迎するぞ。私は遊び人のミックだ。ゆっくりと癒して行くが良い」

「我はアディック、アディック・アニク。こっちは妹のリムだ。申し訳ないが、世話になる。よろしく頼む」


 こうして、新たなお客を二人招き入れる事になったミックティルクだったが、どうやら遊び人の称号が気に入ってしまったようで、新たな二人以外がジト目をするのだった。






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