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√トゥルース -042 大岡裁き?




「えっ?あ、ああ。そ、そうだ。ちゃんとしたのはこっちの袋の中にある。今出そう」


 イエローナイトグリーンの売人、ヴォリウムが小袋の中から石を取り出す。今度はまともな石のようだ。


「ふむ。カーラ、ラナン。お前たちはこの石が欲しいか?欲しいなら私が買ってやるが」

「わたしは良いわ。そんなのをいくつも持つ程興味も無いし」

「あたしも良いかな~。黄色や緑色なんて可愛くないし、ドレスにも合わせ難いしね~」

「ニナやシャイニーはどうだ? 遠慮しなくても良いんだぞ?」

「えっ! いえ、わたくしにはそのような物は……」


 両手を振るティナに、言葉はなくとも首を振るシャイニー。共に要らないと、分かり易いゼスチャーをする二人。


「そうか。折角贈り物が出来ると思ったのだがな。二人も好みではなかったか、それじゃあ仕方ないな。エスペリス、私は今回は購入を見送る事にしよう。邪魔したな」


 そう言ってあっさりと部屋を出ていくミックティルク。慌てて個室の中に入っていたトゥルースもそれに続いた。

 呼ばれた官吏は、エスペリスに大丈夫だと言われた事もあって、廊下にいるので問題があれば声を上げるようにと言って個室を出ると、扉を閉めた。



「ええっと……どういう事です?あれ、詐欺とか強要に当たるんじゃ?」


 隣の応接室に入ったトゥルースが眉間に皺を寄せながらミックティルクに聞く。折角、官吏を呼んだのに、と。しかしミックティルクは分からないか?と首を傾げる。


「奴を捕らえるのは簡単だが、釈放された後にまた同じ事を続けるだろう。それにこの店にとって、そうなれば店の中で騒がれただけで何も残らない。恨みを買うだけで損にしかならないだろう。たから今回は見逃してやる、その代わり今後ちゃんとした商売をしろと。そうすれば奴は前科が付く事もないし、今後も大手を振って売人を続けられる。それにこの店にとってはレッドナイトブルーだけでなくイエローナイトグリーンまでも並ぶ希少な店だという大きな価値が付く事になる。一気に一流店の仲間入りだ。悪くはない話だろ?」

「しかし、王族に対して大嘘を吐いてましたよね? それこそ問題では?」

「まあ、それは大きな問題だろうな。しかしそれは私が第三王子として(・・・・・・・)ここにいたらの話だ。違うか?」

「え? それはどういう……ああっ! そうか! ミック様は今、お忍び(・・・)だから!」

「そういう事だ。ここに第三王子は最初からいない。いるのは遊び人ミックであるのだからな」


 ニヤリとするミックティルク。中々悪い顔付きに見えなくもないが、その言葉にお茶目さを感じずにはいられない。今頃、ヴォリウムはエスぺリスから同じような話をしてミックティルクに助けられた事を諭されているだろう。見逃して貰ったからには同じ轍は踏まないようにと。そして次は容赦しないと。


「ミック様~、折角の料理が冷めちゃいますよ?早く食べましょうよ~」

「全く、ラナンは色気より食い気なんだから。でも美味しそうね。お昼も過ぎてるみたいだし、ちょっとお腹が減っちゃってるし……ミック様、頂いちゃっても良いですよね?」

「ああ、エスぺリスも直に来るだろう。食べながら待つとするか。そう大して量は買わないだろうしな」

「え? 何でですか?机に出したのは引っ込めたのと同じくらいの大きさの石だったと思うんだけど」

「そりゃ私が買わないと宣言したからな。恐らく売り易い小さめの石を買い込むんじゃないかな」


 堂々とした態度で口にするミックティルクの予測は、そのまま当たるであろうと誰もが思う程に説得力のあるものだった、ハズれるのだが。



「ところでミアスキア。帝都の宝石店にレッドナイトブルーの売人が何やら仕出かしたとの情報は入っているか?」

「あ~、それなんですがね。あまり有用な情報は入ってないんですわ。昨夜着いた小早船の連中も支店長とあまり変わらないあやふやな情報しか持ってなかったし……まだ鳥も全てを掴んでいない状態なので、帰ったらおれ自ら調べようかと……遅すぎっすかね?」


 申し訳なさそうに言うミアスキア。鳥とは伝書バトのようなものを使った諜報部隊からの連絡であろうが、情報が錯綜していて裏が取れない状態。加えて報告する時間も取れなかった為、ミックティルクの耳に届いていなかったという事だった。


「全く。お前もまだまだだな。お前は信用性の高い情報を持ってくる能力は高い。一方で只の噂話は冗談を言っている時にしか出さない。裏が取れてからでは遅い時もあるのだ。報告連絡相談は絶えず行って欲しいものだな」

「済みません、主殿。気を付けます」


 ショボ~ンとするミアスキアだが、そんな彼の背中をバシッと叩くミックティルク。私はお前を評価しているんだぞと一言加える。


「それで? お前が得ている情報はどんなものなんだ?」

「ああ、それですが……どうやら大量の石が持ち込まれたのは事実のようです。それとその石が忽然と消えたのも恐らく」


 急遽その大量の石を買い込む為に善からぬ所から大金を借り入れたらしいが、何故か二日と経たずに利息も含めて返却されたようだ。短期だった為に大した儲けも出なかったからか、嫌がらせでその闇貸金の業者から噂が一気に流れたようで……

 一番に考えられる、店が石を買い取った後に闇金から金を借りた事に加え、殺気立った同業者が大挙して押し寄せた事で怖気付いていた店主の元に、それらを全部買い上げるだけの財力を持った人物が現れて、借金を全額返しても尚利益を残せる金額で買い取られていった……という仮定はどうも成立しないので、どう考えて良いものやら、とミアスキアが頭を掻く。


「どちらにしろどこからか返金する為の資金が調達できた事、押し寄せた同業者への業者売りには一切応じていない事を考えても、石は第三者に買い取られたと考えて良いと思われるんですが……」


 そう口にするミアスキアの眉間には皺が寄って言葉がそこで途切れる。それを聞いていたミックティルクが首を傾げた。


「ん? 何だ、そこまで推測を立てておきながら報告をしなかったのに、まだ言い淀む事があるのか?」

「いや、主殿。その買い取ったであろう者が全く掴めなくて…… その前後の行動どころか、いつ接触したのかすら分かりません。それにどうやってその店主を説得したのやらサッパリ。そのまま業者売りすれば、ある程度の儲けが出るだろうに。 それに店に出入りした客で怪しそうな者の情報がさっぱりで。実際、闇貸金に借金を全て返しているところを見ると、何者かに石を脅し取られた訳ではないと思うんだけど……」


 ミアスキアが頭を掻きながら畏まった言葉使いを徐々に崩しながら言い難そうに報告するが、得体の知れない者って……と話を聞いていた皆が首を捻る。でも、この内容であれば途中経過の報告は上げても良いような気もするが、そもそも宝石の原石の持ち込みがあった等という情報が政治的に必要か否かで言えば、否であろう。

 そんな大量の石の持ち込みであれば通常の売人が何か事情があったか意図があったかにもよるが、その石の価値を下げるだけで他の産業や一般の物価への影響は極僅かか無いと言っても良いくらいであろう。影響があるのは、随分と昔に仕入れて未だ在庫を持っている業者と、今回踊らされる業者や石を求める者くらいの話なので普段なら無視をしても良い案件なのだが、今回はトゥルースがミックティルクに関わってしまったので報告の必要無しと判断したミアスキアにとってはタイミングが悪かったと言えよう。


「何だ、そんな事か。そういう事なら先ずは周辺の銀行を当たれ。事前に大金を用意している筈だ。私の名を使えば該当する者の名くらいは知る事が出来るだろう。後で一筆書くとしよう」

「すんません、主殿。こんな事になるなんて思ってなかったから……」

「まあ仕方ないところだな。私もトゥルースたちに会わなければ、石になぞ興味も持たなかっただろうしな」


 きっと自分に興味を持ったのではなくティナとシャイニーにだろう、と察するトゥルース。実際そうなのだが。勿論フェマでもない事は付け加えなくても分かる事だろう。






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