√トゥルース -040 同業者
今回は短めです
「――――!」
「――――ですから、この石ではそこまではお出し出来ません」
「何を言っている! この石の価値が分からないのか! 今逃したら今度はいつになるか分からないんだぞ?」
「そのような事を言われましても、当店としましてはこの石にはそのようなお値段をお付けする事は出来ません」
「またそれか。 そもそも何でこんな窮屈な部屋なんだ! 隣にもっと立派な部屋があるじゃないか! オレを馬鹿にしているのか?」
「いえ、そのような…… そちらには既に他のお客様をご案内しておりまして……」
「だったら! その客とやらと代わって貰えば良いだろ! 何だ、この店はっ! 変色石の売人を馬鹿にしているのか!? 何ならお前のところの系列には卸さないように通達を出してやろうか?」
「そ、それは困ります、お客様!」
廊下にまで聞こえてくる罵言に毅然とした態度で対応している様子のエスペリス。一同がうわぁと顔を歪ませる中、平気な顔でその扉を開くミックティルク。
「邪魔しても良いか、エスぺリス。変わった石が持ち込まれていると聞いてな」
「えっ? ちょっ! よろしいのですか!?」
「ああ、私は構わんが、お前たちが拒むのであれば諦めるつもりだ」
必死にオレチオが止めるのもお構いなしに個室へと入っていくミックティルク。ラッジールはあちゃ~と手で顔を覆うが、レイビドはおやまぁと動じない。対してエスぺリスは身バレしても良いのかと咎めるが、当の本人はどこ吹く風であった。
「……何だ、てめぇは」
「ああ、気にするな。ここの客で変色石が持ち込まれたと聞いて見学に来ただけだ。見ている分には構わんだろ?」
「……ハンッ! 勝手にしろ! ほら、支店長。こうして客が待っているんだ、ここで手を打てば直ぐにでも売れるんだぞ?迷う事はないだろ」
さっさと買い取れよと横暴な態度でエスぺリスに詰め寄るその男。歳は若く見えるが、恐らく二十歳前くらいだろう。鋭い目つきが印象を良くないものに見せているが、それ以上に印象が悪いのはその口調とニヤけた口元だろう。
「これだけの大きさがあればかなり良い金額になるだろう。悪い話じゃない筈だ」
「ですから。このような品質の石では、そちらの提示する金額では買い取れないと言っているんです」
「品質だぁ? 帝都でもないこんな田舎町でこの石の品質を問える者がどれだけいるってんだ? んなもん見栄えを良くしちまえば、大きいだけでいくらでも金を出す客がいるだろ」
「いくら地方だからって、お客様を馬鹿にするような商売は出来ません!」
「……ちょっとその石を見せて貰っても良いか?」
何度も繰り返したと思われる押し問答を目にしたミックティルクが間に入って了解を取ると、テーブルの上の石を手に取る。
「ほう? イエローナイトグリーンか。まさかこんなに早くこの石を目にする事が出来ようとはな」
鷹揚に石を外の光に翳して見入るミックティルクだったが、間もなく顔を顰めた。
「たが……確かに大きさは申し分ないのだが、この色合いというか…… おい、トゥルース。お前の意見が聞きたい。中に入ってこい」
ミックティルクからの突然のご指名にトゥルースも顔を顰める。何かと良い噂の聞かないイエローナイトグリーンの売人とは関わりを持ちたくなかったトゥルースは廊下で様子を見ていた皆の後ろに隠れるようにしていたのだが、ミックティルクに呼ばれては前に出るしかない。溜め息を見られないように吐くと、渋々部屋の中へと入っていく。
「これなんだが、光に翳すと異様にギラギラと……」
「拝見します…… っと、これは……」
受け取った石を光に翳すと、ミックティルクの言うように石がギラギラと反射する。今度は石を下ろして覗き込むトゥルース。
その様子を皆が見守るが、今度は売人の男だけが顔を顰めた。
「確かに変色石のようですけど……ギラギラとしているのはヒビ割れですね。それもかなり多い」
「やはりそうか。私の目にもそう見えたが……この石はこれが普通なのか?」
石をテーブルに戻すトゥルースの意見を聞いたミックティルクが、今度は売人の男に問い掛ける。するとその男は眉間に皺を寄せた後、大きく溜め息を吐いてふんぞり返った。
「ああ、その通りだ。この石はヒビがより入っている方が高級なんだ。やはりこんな田舎ではそんな事も知らない者ばかりなんだな」
「……ほう?それは始めて聞いた話だな。エスペリスは聞いた事があるか?」
「いいえ」
「では、トゥルース。お前は?」
「そんな話は聞いた事がありませんね」
「……だろうな」
すると、これだから田舎者は……と鼻息を荒くして愚痴る売人。どうやらそんな作り話を押し通すつもりのようだが、相手が悪い。
「その話が本当であれば、母上の持っている指輪は安物という事になるな」
「……あん?何だ、てめぇんとこにはうちの石があるのか」
「ああ、滅多に付ける事はなかったし、最近は全く出そうとすらしていなさそうだがな」
訝しむ売人の男。かなり想定外の出来事のようで、さっきまでの勢いが全く無くなってしまっていた。
「……てめぇ、何者だ?」
目を細めて問い質す男だが、未だに態度は改めようとはしない。流石にこれ以上は不味いとエスぺリスが止めようとするが、それも間に合わずミックティルクがニヤリとして口を開く。
「私か? 私はこの国の第三王子だ」