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√真実 -017 じっちけんぶん



「本当に大丈夫? あんた来年は高校生なのよ?」


 中三にもなって、人混みでもないのに迷子防止に手を繋いで引っ張られる光輝に向かって苦言を呈する綾乃。みんなから離れだした光輝にいち早く気付いたのは真実だったが、手を繋ごうとしてみんなの目が集中した事に気付き、急に恥ずかしくなって手を引っ込めたのだった。


「……ごめんなさい、もう大丈夫だから」


 それに行先は直ぐ近くの真実が怪我をした現場だ。その場には光輝も一緒だったから、もし迷子になっても一人で辿り着ける。それでも手を引かれるのはどこか危うさが見て取れるからであろう。いや、ハッキリ言ってオコチャマに見えるのだ。綾乃の庇護欲を刺激する。だからと言ってカレシの真実がロリコンだとも言えない。間違いなく光輝は真実たちと同級生なのだから。


「ったくもう! こんな人の少ないところで迷子なんて勘弁してよね。来月には修学旅行に行くのよ? 京都や奈良なんて、こことは比べ物にならないくらい人混みが凄いんだからね!」

「綾乃、そのくらいにしてやってくれないか? 光輝が見るに忍びない……」


 綾乃に責め立てられる光輝は小さな体を更に小さくしてしまい、まんま小動物だ。流石に綾乃も忍びなくなったようで、現場の直ぐ近くという事もあって漸く繋いだ手を解いたのだった。



「ええっと、この辺りを二人で歩いていた時に瑞穂さんの悲鳴が聞こえて、俺だけ走ったんです」


 通りの歩道で細い路地を指差して説明する真実。そのまま歩きながら行く手を塞ごうとした下っ端を潜り抜けた場所をおおよその場所を思い出しながら、瑞穂がうずくまっていた場所まで歩いて行く。が、途中で光輝の足が止まった。


「あれ? 光輝、どうしたの? また何か考え事?」


 先行する真実たちの後ろを付いていた光輝の横を歩いていた綾乃が気付いて声を掛けたが、光輝の様子に眉を顰めた。立ち竦んだ光輝は俯いて顔を曇らしていた。しかもよく見ればガタガタと震えている。


「ちょっと! 光輝、大丈夫!?」

「……ウチ、真実くんが怪我をさせられていたのに、何も出来なくて……」


 歯を食い縛った光輝の目から涙が滴り落ちる。真実だけでなく瑞穂までも危険な目に遭っていたのに、自分が人を呼ぶ事すら出来なかった事が未だに悔しいみたいだ。

 その様子に気付いた真実が、検事たちへの説明を中断して光輝に駆け寄る。


「また思い出したのか? ほら、俺ならこうしてピンピンしているだろ? もう気にするなよ、光輝」

「……でもウチ、見ているだけしか出来なかった……」

「でもってさ、神社では(すく)まずにちゃんと走ってみんなを呼んできてくれたじゃないか。光輝だってちゃんと成長してるから」

「……でもっ……」

「はいはい止め止め、そこまで。また押し問答になってきてる。光輝はもうちょっと自信を持ちなさいよ。その自信の無さのせいで稽古が身に付かないんじゃないの? 飛弾は光輝を甘やかし過ぎよ! あんたが甘やかすから光輝が中々伸びないんだからね? ったく、何であたしがバカップルの面倒を見なくちゃならないのよ」


 綾乃が二人の稚拙で際限無さそうな言い争いを止め、溜息を吐く。いつの間に付き合いだしたのかも分からない幼いカップルのやり取りは、ある意味で似た者同士なんだと思わせた。

 初めて路上で助けて貰った時には、ちょっと良いかもと思ってしまった自分の目を疑わざるを得ないくらいに、今の真実は光輝を甘やかしているように感じたのだ。自分の求めるのはコレジャナイ、と。いや、甘やかされるのはちょっとだけ憧れる。しかし人目を憚らずイチャつくのは本望ではないのだ。ツンデレかよ。



「どうだ? 厳罰を求刑する方向で動いているんだろ?」

「そうですね、当人は反省するどころか一部は認めつつも未だに犯行を認めようとしてない上、正当防衛を主張するという有様ですからね。拘留延長しましたが、期日までに認めるかどうか…… そもそも本件では金属製警棒を武器として殺意をもって振るってますが、怪我はさせてません。弁護士ならそこを主張してくるでしょうがそれは結果論であり、実際この場では金銭を要求し怪我を負わせている。本件では強盗殺人未遂が難しいかもしれませんが、こちらの件では強盗傷人罪……彼と認識した上で他の二人に加害を促しているので、間違いなく問えます。これには未遂が付きません。そこに至ったまでに、恐喝されていたあちらの少女たちを助け出す為に被疑者たちを投げ飛ばしたという事ですけど、それを根に持っての犯行と考えられますね。 執行猶予の可能性が残されますが、妊婦に暴行しようとしていた事実は見逃せません。他にも軽微ではあるが窃盗や恐喝を繰り返していた節が見られます。相談件数や被害届の数がどれだけ集まるか次第ですが、余罪多数で反省の色が見られない以上は裁判官への印象は最悪なものとなるでしょう。場合によっては強制わいせつ罪に営利目的等略取罪等も問う事になるでしょう。 気になるのは主犯格の男が二十歳になったばかりだという事と、私選弁護人を呼ぼうとせず単に無罪を主張しているところですね。今のままなら国選弁護人が呼ばれるでしょうが、どうなる事やら……国選弁護人が気の毒ですね」


 今度は真実と綾乃の言い争いに発展しかけている様を見ながら、検事が昭一の問いに答えていく。本来捜査情報は漏らしてはいけないのだろうが、若干愚痴が入っているところを見ると取り調べにうんざりしているようだ。ただのカツアゲだからと嘗めていれば痛い目を見る。強盗に見なされれば[無期又は六年以上の懲役]、減刑も有り得るが、こうも悪質であり余罪があれば実刑が科せられる可能性が高いのだ。


「ああ、他の二人はまだ誕生日前で未成年だったな。少年法に守られるか……歯痒いな。それにしても未だ弁護士を立ててないのか。まさか坊主にあれだけ怪我をさておきながら、逃げられると思っているのか?」


 夏休みに入る前に止めておけば少年法に守られていたのにな、と主犯の誕生日を思い出し溜め息を吐く昭一。三人は隣街で無職、高校中退の中卒。地元でも同じような事を繰り返していたそうで、補導歴多数、遅ればせながら警察の捜査が始まったところだった。


「でもこの一件、その三件を一緒に見なければいけなさそうですね。この後、最初の場所にも足を運びましょう」

「ああ、それなら直ぐそこの道だ。ついでに行こう」



 真実の首根っこを引っ掴んで綾乃から引き剥がした昭一は、その場での聞き取りを終わらせると一度通りに出て第一の現場へと向かう。すると歩道でイーゼルの黒板を書き直していた女性に声を掛けられた。


「あんた、そこで救急車に乗せられてった子じゃないかい? もう怪我は良いのかい? 新聞で大怪我を負ったって見たんだけど」

「え? ああ、はい。激しい運動はまだ駄目ですけど、軽い運動程度なら……」

「そりゃ良かった! 心配してたんだよ? あんな場面を見せられちゃあね」


 うんうんと頷く女性はこのビルの一階にあるきしめん屋の従業員らしい。どうやら事件当時、騒ぎにいち早く気付いて男性店員に助けを求めたらしい。


「そうだ、あの時もこの位の時間だったわね。ランチの看板を出そうとしてたら女の人の叫び声が聞こえて…… そういえば前にも似たような事が…… 確か二ヶ月くらい前だったかしら、女の子が人を呼ぶ声がした後、声のしたそっちの小道の方を見たら、柄の悪い男が掴み掛かるのを男の子が躱してすっ飛ばしていたわ」


 その女性の話を聞いた一同は顔を見合わせた。


「すみません、その話を詳しく聞かせて欲しいんですけど!」


 詰め寄る検事だったが、鼻息が荒すぎだ。女性が引いている。

 当人である真実と警官姿の昭一が一緒であるのを見た女性は事件の調べをしていると直ぐに察して店内の人に事情を話すと、中の人も心配していたと顔を出す。ここの人たちは真実が怪我を負った時だけでなく、最初の綾乃や光輝が連れて行かれそうになった時の騒動にも気が付いていたようで、貴重な目撃証言が得られる事となった。

 さあ、綾乃。やっと出番が回って来たぞ、存分に当事者として話してやってくれ。このページはここで終わりだがな。






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