表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/120

√真実 -016 じじょーちょーしゅ



「これは驚きました。ここは被害者と関係者の総合デパートみたいだ」

「ああ、だから坊主の家じゃなく、ここへ案内したんだ」


 道場を訪れた検事たちが、加害者の写真を見てワイワイと騒ぐ生徒たちを目にして目を白黒させると、昭一がドヤ顔で返した。


「いやぁ、ここなら仕事が捗りそうだ。お嬢さん方、話を聞かせて欲しいんだけど」


 訪ねてきた目的である真実を余所に、被害に遭った女性陣、逮捕に協力した女性陣と別れて話を聞いていく。

 時には師範が犯人役となってお姉さんたちが捕まえた時の再現をしていた。ぐえっ!と変な声を上げる師範だが、稽古でも痴漢役をいつもやっているので気にする事はない。顔が赤くなり畳をバンバン叩いた後、青くなって静かになっても気にする事はないのだ。ないったらないのだ。

 別件(犯人が異なる)については昭一が別のグループに分けて話を聞いた。被害届を出す意志のある者は別途女性警官を複数人派遣して必要書類を作っていく事を約束した。

 が、今日は新たな案件についてではなく、男三人組が捕まった夜祭りでの出来事についてだ。ただ真実には連動して以前の瑞穂を庇って怪我をした時の話も聞く必要があるという。


「えっ!? じゃあその時も本件の時も一緒にいたのがこちらのお嬢さん!?」

「更に言うなら、その前の六月二十三日にこの二人が被疑者三人に襲われかけていたのを坊主が救い出している」

「……確か相談扱いになっているという案件でしたよね? 確かにここに来て正解でしたね、これで急に沸いた殺意の理由が分った気がします。お嬢さん……黒生(くろはえ)光輝(きらり)さん、でよろしかったですね。貴女にもお話を聞かせて貰いたいのですが、この後、時間はよろしいですか?」

「……ぇ? あの、その……はい、分かりました」


 突然視線が集中して怯えるように真実の後ろに隠れながらも頷く光輝。まだ知らない大人の男には免疫がないようだ。当然真実とセットで話を聞く事になるだろうから、躊躇しつつもその要請には応える事にしたようだ。


「あれ? あたしは? あたしも最初の時に光輝と一緒にいて襲われそうになったんだけど」

「ああ、最初の坊主が追い払った件だな。それは情報だけで良い。被害はなかった訳だし」


 ええっ!? っと話を聞かれる気満々だった綾乃が不満の声を上げたが、被害を受けたかったのだろうか。



「キンちゃん、お買い物に行ってくるわね。って、お義兄さん!?」


 奥から顔を覗かせた瑞穂が、制服姿の昭一を見てどうしてここに? と首を傾げる。普段、昭一が道場にやって来る時は必ず連絡を一本入れて来るのだが、今日は連絡なしだった。


「ああ、瑞穂さん。今日は仕事でね、そっちに寄る予定はないよ」

「あら、そうなの? お仕事なら仕方ないわね。でもお茶くらいは飲んでいける?」

「いや、これから坊主たちと神社に行って実況見分なんだ。また今度優真や翔真を連れて来るよ」

「こんにちは、倉楠瑞穂さん。お邪魔してます」


 昭一の言葉にちょっと残念そうにする瑞穂に声を掛ける検事たち。その姿に気付いた瑞穂は、あらまぁと返事を返した。


「先日はご足労いただき、ありがとうございました。ちょっと被疑者の供述が二転三転してましてね……これから彼らと実地検分をしに行く予定なんですよ」


 いつの間にか現場を回る事になった真実たち。そんなに時間は掛からないという話だが、それでも予定外の事なのでちょっとうんざり顔だ。

 そんな真実たちの表情を見ながらクスクスと微笑む瑞穂のお腹は薄着という事もあって少し大きくなってきたのが分かる。順調にお腹の赤ちゃんは育っているようだ。大怪我をしてまで庇った甲斐があったと真実は顔を緩ませるのだった。




「それにしても、マサ君たちに捕まったのがアタシのおしりを触った奴らだったなんて……世間って狭いのね」


 それを言ったら真実や光輝は三度も出会ってしまっているし、今いる生徒の半数はその男たちに被害に遭いかけている。神様(作者)が意図してそうしたとしか思えない。いや、面倒だったとかそういうのはナイデスヨ?


「……ところで香奈さん、アルバイトの時間ってまだ良いの?」

「え? ああっ! もう行かなくちゃ遅刻しちゃうっ!」


 バタバタと着替えて飛び出していく香奈を見送る真実たち。間に合えば良いのだけど。そうは言ってもバイト先のカフェまでは結構近いから、たぶん大丈夫だろう。


 その後、話を聞き終えた検事(検察官と検察事務官)二人と昭一は当事者の真実と光輝と共に現場である夜祭会場であった神社へと向かう。勿論、当然のように綾乃も付いて。


「付いてきてもつまらないと思うぞ? 綾乃」

「良いのよ。どうせ暇なんだし、どんな事をするのか興味あるしね」


 確かにこんな事はそうそう滅多に立ち会える事ではない。それにこの後も午後から一緒に勉強をする事になっているのだから。




 一行は、道場から見て駅の反対側にある神社へと辿り着く。徒歩でも苦痛にはならない距離だ。

 真実と光輝はその当時の事を事細かに説明していく。夜祭なのに境内には人が殆どいなかった事、お参りをした後、隠れていた男たちが出てきた場所、光輝をどのように逃がしたのか。その後どうやって男たちを境内に留めていたのか等……昭一や検事たちが犯人役となって事細かに再現していく。当然当人であり本当の事なので、話に破綻がない。


「それにしても、よく金属製の警棒を持った相手にそんな動きが出来たね」

「いや、マジでヤバかったですよ? おまーりさんが来てくれてなければどうなっていたか……光輝がおまーりさんたちを呼んできてくれたおかげです」

「……ううん、ウチは何も……真実くんを助ける事が出来なかったし」

「いや、走り難い格好だったのに走ってくれたから助かったんだって。今回は光輝様さまだよ」

「……ううん、真実くんがウチを逃がしてくれたから」

「いや、足が竦まないようになった光輝のおかげだよ」


 更に光輝が、いいや真実くんが……と続けようとするのを綾乃が止める。ここで止めなければ、いつまで続くのか分かったものではない。


「はい、止め止め止め~! いつまでそれを続けるつもりよ。検事さんたちが困ってるじゃない。全く、いつからあんたたちはこんなバカップルになったのよ」

「は? いや、俺なんて大した事はしてないし……現に捕まえたのはおまーりさんや師範、道場のお姉さんたちだし……」

「いや、普通の人は三人も足止めなんて出来ないし、武器を持った人を素手で相手するなんてどんな達人よって話なんだけど」


 呆れ返った顔で真実にそう言う綾乃。そんな事が出来るのは余程喧嘩慣れした者か、対処法を随分と稽古した者くらいではないかと主張する。

 バカップル!? と目を白黒させる光輝に、全くいつの間にこんなに喋るようになったんだろうと白い目を向けつつ、真実に検事たちとの話を続けさせる綾乃。良い判断だ。



 状況の確認が終わった一同は、次に瑞穂が襲われ真実が庇って怪我をした現場に向かおうと神社を出て商店街を進みだしたところで、知らないオジサンに声を掛けられた。


「やあ、君は夜祭りのヒーローじゃないか。どこの家の子だって探していたんだよ」

「えっ? あの……俺はこの近くじゃなくて、第二小学校の方なんですけど……」

「おや、そうだったんだ。あの時は助けに入ってやれなくて悪かったね」


 どうやら、あの夜祭り会場で様子を見ていた人らしい。途端に検事たちの目の色が変わり、そのオジサンに話を聞かせて欲しいと声を掛ける。


「ああ、私は神社の入口で屋台を開いていた者だよ。その先で精肉店をやっている」

「ああ、そう言えばいたな。確か串焼きの屋台だったか……」


 思い出した昭一がそのオジサンに声を掛ける。すると真実もそれを思い出した。お姉さん方が騒動の直後に買い食いしていた屋台のオジサンで、警棒を持つ男に立ち向かっていた真実を助けようと手に串焼きを握って構えていた人だ。

 オジサンの証言は一部誇張があったが、概ね真実たちの話通りの証言が得られた。どうやら境内でこそこそとカツアゲを働いていた男たちに気付いたオジサンが気に掛けていた為、早い段階から見ていたらしい。それでいながら助けに入れなかった事に、ずっと悔いていたそうだ。カツアゲされた数組のカップルたちは恥ずかしがって声掛けにも応じず、逃げるように神社を後にしていったという。

 申し訳なさそうにするオジサンとは反対に、話を聞いた検事たちはホクホク顔だった。

 

「ああ、あそこの道場の生徒さんだったのか。成る程、納得だね。って、そっちのお巡りさんはそこの息子さんじゃないか。こりゃまた立派になって」


 今頃になって気付いたオジサン。遅いけど真実から言わせたら、よく気付いたな! と言うくらい制服で印象が変わっていた昭一。小さい頃は兄弟揃って神社に虫を捕りに来ていたクソガキだったらしい。よく悪戯もしていたと余計な証言まで得られる事になった一同は、早々にその場を離れて目的地へと向かうのだった。


「てか、夜祭りのヒーローって!? 何でそんな呼ばれ方に!?」


 オジサンに聞くのが怖くて頭を抱える真実に、ポンポンと肩を叩く綾乃。それは必然であった。


「……ば、バカップル……ウチと真実くんが……バカップル!?」


 一方で、ぶつぶつと呟く光輝がみんなからはぐれそうになるのには、大した時間は必要なかった。綾乃の言葉に尾を引きすぎだ、光輝。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ