√トゥルース -033 秘密の湯浴み
「え?ちょっとぉ! その下着は何!?」
脱衣室に驚きの声が響き渡り、ヒィっと脱いだ服で体を隠すティナとシャイニー。湯浴みをしに浴室へと連れて来られた二人が服を脱ぎ出した途端にカーラが声を上げたのだ。
「きゃ~! 大胆~!! 上は胸しか覆ってないし、下は太股を丸々出しているし」
「えっ!? もしかして帝国でもここまで大胆なのはないのですか!?」
ラナンが目をキラキラさせて黄色い声を上げるが、ティナはその反応に頬をヒクつかせた。
「そうね、流石にそのくらい大胆なのは普通の人には勿論、貴族の間でも出回ってない筈よ」
「まあ、そうよね~。強いて上げるなら、精々風俗嬢くらいじゃないかしらね~」
「ふっ! ふうぞくっ!? えっ!? ちょっと! まさかラナンってば、そういったところに出入りしているんじゃないでしょうねっ!?」
「やだ~、カーラさん。そんな事ある訳ないじゃない。ホントにカーラさんってそういう事には免疫がないんだから~。あたしは聞いて知っているだけよ~?」
わたわたするカーラを笑うラナンだが、それ以前に風俗が何だかを知らないシャイニーはポカーンとするだけ、ティナは風俗嬢呼ばわりをされた事にショックを受けるのだった。
「ねぇねぇ、あの下着って、もしかして……あの男を悩殺する為に?」
「えっ!? そうなの!? やっぱりあのくらい露出しないと男の人ってその気になってくれないって事!?」
「カーラさん、食い付き過ぎよ~?」
「だって! いつまで経ってもミック様、わたしたちに手を出してくれないじゃない! なのに、あの下着姿の二人を見て直ぐに屋敷に招き入れたって事は……ミック様は二人に欲情したって事じゃない?」
「……うわぁ、カーラさん必死~。でも、それは言えるかもね~」
体を洗い終えた皆が湯船に浸かっていると、口にしたラナンの言葉に異常な反応を示したカーラ。確かにミックティルクは、シャイニーとティナが姿を現した途端に手のひらクルーっと暴走しかけていたラッジールを戻らせて見ず知らずのトゥルースたちを屋敷に招待した。その事からも女性陣たちを見て誘ったのは間違いない。
普段、個人的には一般人とは滅多に関わろうとはしない王族。勿論、市井を知る為に町を見て回る事はあるが、ここまで無条件に一般人を招き入れたのは他に例が無かったのだ。例外中の例外に、その理由を二人の過激な格好であると断定するカーラとラナン。
「ねぇねぇ、あの下着ってどこで買ったの~?」
この面子一番のボリュームを誇る胸をぷく~っと浮かべるラナン(14)が、興味津々で二人に聞く。
「いえ、あれは買った物ではなくて、ニー様に作って貰ってフェマさんに手直しでピッタリするように合わせて貰ったんですけど……」
ラナン程の大きさではないが、形も良く張りのある胸を隠す事なく晒すティナ(15)が功労者である二人を讃える。
「えっ!? そうなの? ああいった形って、職人にしか作れない物じゃないの?」
二人よりはずっと控え目な胸を手で隠して顔の半分まで湯の中に沈めていたカーラ(15)が、ガバッと湯から出てシャイニーたちに目を向ける。
「……ウチ、みんなと比べて全然小さいんだけど、やっぱりおかしいのかな? やっぱり大きい方が男の人は良いんだよね……」
控え目と言うよりは、やっと膨らみ始めた自らの胸と三人の胸とを比べて気分が沈むシャイニー(15)の耳には会話は聞こえていないようだ。
「そう気にするでない、嬢。お主はまだこれから育っていくからの。飯を好き嫌いせずにたんと食え。嬢はまだ食が細いからの」
あった筈のふくよかな胸は見る影も無くお子様なツルペタになってしまったフェマ(実は176)が、落ち込むシャイニーの頭を撫でる。
「ねぇ、あわたしにも下着を作って貰えない? あたしもあの下着でミック様を悩殺して婚約を確定させないと!」
「えっ!? ちょっと~! 抜け駆けは許さないわよ~?」
目の前にプルンプルン、ブルンブルンと迫り来る柔らかそうな胸に、グルングルンと目を回したシャイニーがムニャっとその胸を掴む。ファ!? うにゃ!? っと突然の出来事に声を上げたカーラとラナン。しかし掴んだ胸を遠慮なく揉みしだくシャイニーの両手。
「や、柔らかい……弾力がある……ウチのとは全然違う……どうしたらこんなになるの? どうしたらプリプリふわふわになれるの?」
「あん♪ や、やめて! シャイニーさん!」
「ひゃん! ちょっ! そこはダメ! 感じちゃうっ!」
ブツブツと呟きながらも掌の動きがどんどん活発にうねうねと動くシャイニーの異常行動に、胸を掴まれたカーラとラナンは体をくねらせながらも顔を赤くしていつもとは違う甘い吐息を発する。揉まれて気持ち良くなったのか、二人の頭に逃げるという選択肢はどこかへ消え失せており、次第に足がガクガクと震えだし身動きが出来なくなっていた。
その様子を呆気に取られて見ていたティナとフェマだったが、ハッとしてシャイニーを止めに入った。もう一歩遅ければ、二人とも足の力が抜けて湯の中に倒れ込み溺れていたかも知れない。甘い言葉はミックティルクから投げ掛けられてある程度は慣れていた二人だったが、胸を揉みしだかれた経験はなく思いの外に感じてしまったのだった。これがミックティルクだったら恐らく半分の時間で骨抜きにされていたかも知れない。
「ニー様!? どうされたんですか!? ニー様!?」
「嬢! 気を確り持て! 嬢!」
後ろから羽交い締めにするティナ、頬をペチンと小さな掌で叩くフェマ。しかし、背中に感じた柔らかな感触に、シャイニーは素早くティナの手を捻って逆にティナの背中に回り、後ろからティナの胸に手を這わす。
「えっ!? ちょっと! ニー様!? シャイニー様!? あっ! あん♪」
何処にそんな力があったのだろうか、普段のシャイニーからは想像出来ない素早い動きに圧倒され、両胸を揉みしだかれるティナ。押し潰され、引っ張られ、寄せて上げられて、また押し潰され……先程の二人とは違い、片方ではなく両胸をその細い指先に呆気なく蹂躙されてしまい、為す術もなく甘い声を漏らす自分に驚きつつも頭が真っ白になっていく。
以前バレット村で、トゥルースの叔父で師匠のターラーに護身術を教えて貰っていたシャイニー。暫くはやっていなかったが、ここ最近、余った時間にトゥルースからも時々指導を受けて稽古していたのが自然とティナに向けて出来ていた。
「……大き過ぎず、小さくもなく……掌から程よく溢れる大きさでありながら張りもあって……理想はこの大きさと形と弾力……良いなぁ……ウチもこのくらいに……」
「お、大き過ぎ……!?」
「ち、小さい……!?」
小さな声で漏れたシャイニーの言葉は、耳元で囁かれたにも関わらず意識が飛びかけていたティナの耳には届かなかったが、漸く息を整えかけていたカーラとラナンの耳には辛うじて届いていた。
が、早々にティナが音を上げて足の力が抜けてしまい、シャイニー共々その場で崩れた。ドボーンと水飛沫、いや湯飛沫が上がるのを目にしたカーラとラナンが慌てて二人を湯の中から引っ張り上げた。
「こりゃいかん、二人を早よう湯から上げねば! おい、そこの! 覗いておらず助けぬか!」
慌てたフェマが浴室の外で控えていた筈の女中たちを呼びつける。着替えの補助に控えていた者たちだ。異端なるシャイニーたちの下着に気を奪われていたが、中の異変に漸く気付いた女中たちが、何かあったのかと覗いたところだった。
「ん? どうした、揃ってのぼせたのか? 顔が真っ赤ではないか。それに……」
話が終わり屋敷の中へと入ってきたミックティルクとトゥルースが、廊下で寝衣の上に一枚羽織って浴室からフラフラと出てきた女性陣を目にして首を傾げる。視線の先には女中たちに支えられたシャイニーの姿が。
「ちょっ!どうしたんだ? ニー! 大丈夫か? 湯中りでもしたのか?」
「ええ、それもあるのでしょうが……ニー様、ちょっと様子が変なのです」
変?とティナの言葉に首を傾げたトゥルースがシャイニーに近寄って顔を覗き込む。顔は紅潮しており目はとろんとしてうつろ、体は誰かに支えられないと立っていられない状態だ。湯中りなら風の当たるところに寝かしておいた方が良いだろう。そしてフェマを除く三人も顔を紅潮させており、少々湯中り気味ではないかと思われた。
「こんなになるまで……そんなに熱い湯だったんか? それ程長くはなかったと思うけど……」
「いえ……そういう訳では……何と言えば良いのか……」
説明を口籠るティナ。説明など出来ようものか、同性であるシャイニーに胸を揉まれ気持ち良くなってしまったなどと。カーラやラナンも同じく説明に困り顔を逸らせてしまう。湯の温度はある程度長湯出来るようにぬるめである筈なのだが、とミックティルクは女中たちに視線を向けるが、プルプルと首を振る女中たち。実は熱々の湯だった!という事もないし、況してやその痴態を見ていた訳ではないので、どうしてそうなったのか分からないのだ。
それにしても、一緒に入ったフェマだけが平気な顔をしている。湯当たりするなら幼い体のフェマの方が先だろうに……と何度も首を傾げるトゥルースだったが、ふとシャイニーの視線が合った。
「……あ~ルゥ君だぁ~。ルゥく~ん。ウチ、ティナさんになりた~い」
「あ? ティナ……じゃなくてニナに? ってか、どうしたんだ? シャイニー」
「あのね~、ティナさんね~、おっぱいが大きくて柔らかくてぷにぷにしてて、それなのにおっきくてふにゃっとなってもっちもちでね? とってもとぉ~っても気持ち良いの。ウチもあんなおっぱいになりたいの。だってルゥ君、ティナさんのおっぱい見て触って顔真っ赤にしてたのに、ウチには顔を赤くしてくれないしぃ」
「えっ!? ちょっ! ニー、待った待った!」
何やら同じ言葉や似た言葉を二度も三度も言うあたり大事な事なのだろうが、のぼせた割には座った目と言葉とに整合性を感じない。それに普段のシャイニーからは考えられない言葉がいくつも羅列された事に、違和感どころか異常さを疑わずにはいられない。女中たちの支えを振りほどいて抱き付いてきたシャイニーを抱えながら、困惑した顔でにへらとニヤついて頬をすり寄るシャイニーへと問い掛けるトゥルース。
「ええっと、ニー? 何か変な物でも食べた?」
「え~? ウチ、ルゥ君とおんなじものしか食べてないよぉ~?」
「……だよなぁ。あの、夕食にお酒って出してないですよね?」
この症状に見覚えのあるトゥルースは、アルコールの類は出されていなかった筈だと思い返しながらもミックティルクたちに確認を取る。
「うむ。飲み物には酒は出していない筈だ。そうだな」
「は。殿下の前で酒に慣れていなさそうな者に酒類を提供するような真似をする者はここにはおりません。が……最後にお出しした甘味に、香り付けに熟成桜桃酒が少々……他にも肉や魚料理にも別の酒類を使用しておりましたが、火を入れてますので酒分は飛んでいると思われます」
また浴場を覗きに行こうとしないようにとミアスキアの首根っこを掴んでいたミックティルクが確認を取れば、オレチオが空かさず的確な答えを返す。
因みに熟成桜桃酒とはサクランボベースのブランデーの事である。デザートに香り付けとして極少量が使われるのは良くある事で、一般市民でもそういった甘味を口にする事はあるが、残念ながらシャイニーを含むトゥルースたちはそれを口にした事は今まで無かった。たった一度、王国の王都でザール商会会長のアガペーネに勧められて飲んだ少量のお酒でトゥルースとシャイニーが酔ってしまった事はあったのだが……
「ああ、たぶんそれですね。どうもシャイニーはお酒にはめっぽう弱いみたいで……それに食べた後で直ぐに湯浴みに行ったのも、酔いが回ってしまった要因だったのかも」
酒を飲ましてはいけないとは思っていたが、まさか気付かない程少量混ぜられていた酒分であっても酔ってしまう程弱かったとは……と胸元でへらへらとニヤけ続けるシャイニーを、用意された別館の客室へと連れて行くトゥルースだった。