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√トゥルース -025 首飾り -2



「へぇ~、これがへんしょくせきって奴ですかぁ?」

「何だか……石が濁ってないか? 真っ赤なら綺麗だろうに。これ、本当にミック様が欲しがるような石なのか?」


 ラナンとカーラがもう一方の首飾りを手に取って観察する。トゥルースの作ったレッドナイトブルーは規格を外れた粗悪品を使って子供の頃から作っていた、云わば玩具だ。それを伝えた上でないと、レッドナイトブルーは皆こんなのだと思われ兼ねない。それでも夜になれば色が変わるので見本にはなるからと仕上げてシャイニーに持たせていた。


「ふむ、規格外品か。勿体ない話ではあるが、だからこそ出回っている石の評価が保たれるというものか。イエローナイトグリーンはそれで問題があって評価が割れていたな」


 三大変色石であるイエローナイトグリーンは、日中は黄色く見え夜は緑色に染まる石だ。出回る数がトゥルースの扱うレッドナイトブルーよりも数が少ない事もあって希少価値があるのだが、それに混じって粗悪品も出回り、評価が高いにも関わらず同時に悪評も聞く。希少だからと濁った色の物も市場に流しているのだろうが、良し悪しの判断が付かない客相手に高く売りつける業者が後を絶たず、一般ウケは非常に悪い。逆に高品質な物は貴族に流れ、一定の評価を獲得していた。


「私はイエローナイトグリーンよりはレッドナイトブルーの方が好みだがな。しかし、ピンクナイトレインボーはまた別格ではあるが、果たして私にそれを手に入れる機会があるかどうか……」


 ピンクナイトレインボー。同じく三大変色石で最高級と言われており、出回っている数は非常に少ない。昼はピンク、夜には虹色に輝いて見える事からそのような名が付けられている。希少価値はイエローナイトグリーンよりも更に高く、それでいて品質は折り紙付きの物しか出回らない為、絶対的な信頼を集め、羨望の的となっていた。

 帝国の王族内でもレッドナイトブルーを持つ者は少なくないが、ピンクナイトレインボーを持つ者は数少ないという。天下の帝国でこれだから、ピンクナイトレインボーがどれだけ貴重なのかが分かる。歴史もそれほど古くはない事も影響しているだろう。そこを行くとレッドナイトブルーは少量生産ながら大陸中に出回るほど古くから出回っていて値段も安定傾向だと言える。



「ふむ、夕食までまだ少し時間があるな。日が暮れる前に昼の色で石を選ばさせて貰おうか」


 ミックティルクに促され、トゥルースは荷物を取りに行こうとしたが、女中が部屋に運ばれた荷物を持って来てくれた。流石に客人に取りに行かす事はしない。


「そうだな……上質な石で、大き過ぎない物を五つ。内一つは他の四つより一回り大きな物を。それが希望か」

「大き過ぎない物……ですか。ではこの辺りはどうですか? この大きさであればそれなりの物を大きさを揃えられそうです」


 トゥルースは屑石の入った袋ではなく中間クラスの入った袋から良い物を選んで並べていく。それらはまだ原石なので形は(いびつ)だが、色はシャイニーの首飾りとは比べ物にならない程に発色が良い物ばかりだ。磨けば更に良くなる事は想像に難くない。


「わぁ~、綺麗な色!」

「ホントね。ミック様、これを五つもどうするんですか?」

「あっ! 分かった~。ミック様、この石を五つ使ってご自分の王冠を作るのね!」

「違うわよ! きっとミック様は王笏(おうしゃく)をお作りになられるのよ! 素晴らしい物が出来そうだわ!」

「王笏って、帝王様が手にされてるあの杖? わ~、それも良いかも~」


 ラナンとカーラが自分たちの予想を披露するが、ミックティルクはそれも良いなと笑うと、否定した。


「私のではなく、お前たち女の為にだ。正室と側室、五人の女をと私にだけ(・・)父上に命じられているから、その分という事だな。どうだ、欲しくないか?」


 ミックティルクの言葉に、途端に色めき立つラナンとカーラ。ひとつだけ大きい石をと注文したのは、正室用にという事だ。


「私としては全て同じとしたいところだが、馬鹿な貴族どもが差異を付けないと煩いからな。だが、お前たちの言うように王笏にこの石を使って作るのも案外と良いかもな。考えておこう」


 

 それから二組の石を選んだ頃、夜の晩餐の用意が出来上がった旨が知らされた。

 案内されるまま付いていくと、最初に案内された玄関ホールに。が、来た時とは何かが違う。何かと思ったら見えていた湖岸の様子がガラリと変わっていた。

 開け放たれたガラス扉の先の砂浜にドンと置かれた大きなテーブル。白いテーブルクロスの掛けられたその上には、やはり真っ白な皿が並べられていた。どうやら屋外で夕飯を食べるらしい。風があるだけでも砂が舞って不可能になる屋外晩餐。流石は帝国の王族だ。

 トゥルースたちも朝昼晩と飯を砂浜で摂っていたが、砂浜にシートを張って直に座るか流木を持ってきて椅子代わりにしていた。雲泥の差を見せ付けられた形だが、こればかりは仕方ないだろう。


 席に着くと、今にも沈もうとする太陽が視線に。丁度良いと先程選んだ石をテーブルの上に並べる。


「ん? 何だ? その石コロは。今から食事なんだぞ?」


 指揮を任せられていたラッジールが顔を顰めて苦言を呈する。しかし、ラッジールの主であるミックティルクが黙って見ていろと一喝すると、不貞腐れるようにして黙った。


「さて、よく見ていろよ? 変わる瞬間というのは中々見られないからな」


 その気になればそうでもないんだけど、普通の人ならそうなのかもなと、ミックティルクの言葉に心の中で思うトゥルースは、石より日の沈む光景に目を向けた。それに釣られるようにシャイニーやティナもその光景を見る。

 体調を崩したティナの為に休暇に訪れた湖岸だったが、初日の昨日は移動と買い物に費やしたので、実質骨休め出来たのは今日の一日、厳密には朝は洗濯に費やし、午後はここへと招かれて気を使ったので結局半日も休まってなかった。ガックリとしながらも、この光景を見て満更でもないか……と遠くの山の合間に消えていく夕陽を見ていると、わぁっ! と歓声が上がった。

 テーブルの上に視線を戻すと、そこには青く色を変えたレッドナイトブルー。数が出回っているとはいえ、その色合いから人気は衰えない石だ。そして今選び出した石は、中でも選りすぐった物である。粒の大きい物は上物の入った袋から出した虎の子でもある。

 トゥルースはそれらを見て、間違いない選択だったと頷く。深く吸い込まれるような濃い青色。これなら帝国の王族が相手でも満足して貰えるだろう。本当はレッドナイトブルーの中でも最高級であるマルーン(臙脂色)ナイトネイビー(濃い紺色)が相応しいのかも知れないが、ここ何年も掘り出されてはいないので欲しくても手に入れる事は出来ない。それ以前にベテランの手に渡ってしまい、新米のトゥルースには回って来ないだろう。


「殿下……何なんですか? この石は! 色が……」

「あらぁ、知らないの~? ラッジール。これはね~、てんしょくへきって言って~……何だっけ?」

「ベッドナイトムーンよ、ベッドナイトムーン。珍しい石らしいわ」

「……お前らなぁ。これは変色石のレッドナイトブルーだ。全く、喜んだ割には覚えていないとは……まあ、だからこそのお前らか」


 ラッジールだけでなく、配膳をしていた女中たちも色の変わった石を見て目を剥いていた。それにしてもラナンとカーラの間違いがヒドイ。定職に就けない人の病気っぽい名前や、やたら良い雰囲気な名前にされて(オコ)なミックティルクだったが、至って真面目なラナンとカーラの様子にすっかり毒気を抜かれていた。



「みゃあ」

「わ~、ミャーコ。匂いに釣られて来たの~?」

「む。この食いしん坊猫め! どこに行ってたんだ? ご飯を強請(ねだ)りに来るだけなんて……」

「はっはっは。まあ良いではないか。おい、量は多くなくて良いからもう一人分追加だ」


 スタッとテーブルの上に乗ってひと鳴きした猫を見て顔を緩ませるミックティルクたち。対してトゥルースたちは目を剥いた。


「ミーア! ここに来ていたの!?」

「まぁ! お昼に来ないと思ったらこんなところに!」

「何じゃ、探して損をしたのぅ」

「駄目じゃないか、ミーア。余所様の食卓にお邪魔をするなんて!」


 テーブルの上でお座りをして凛としていたのは白猫のミーアだった。今朝、洗濯をしていた時までは一緒にいたのだが、いつの間にかいなくなっていた事に気付いたのは昼時であったが、時々姿を見せなくなる事があるので気にしていなかったトゥルースたち。


「何だ、お前たちの猫だったのか。毛艶といい佇まいといい人と同じ食事を要求するところといい、何処かの飼い猫だとは思っていたが……」

「済みません、うちのミーアがご迷惑を……」

「良い、良い。おかげでいつもと違った昼餉が楽しめたからな」


 テーブルの上で、フフンとドヤ顔をトゥルースに向けるミーア。猫の姿を存分に利用しているが、実は呪いによって猫の姿になってしまった女の子だという事はトゥルースしか知らない。

 いっその事、バラしてやろうかと思うトゥルースだが、そんな事をしても何を言っているんだ? と言われるのがオチだし、無理矢理寝具を被せて人化させようものなら裸の女の子を男たちの前に突き出すようなものなので、女性陣からの非難は免れまい。

 何の妙案も思い付かず、ぐぬぬとミーアを睨むトゥルースだった。






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