√トゥルース -019 ポロリ……だと!?(幼女のな)
「あ゛~、偶にはこうしてゆっくりするのも良いもんだな~」
残暑厳しい日が続く中、四人は休暇の為に翌日も日中はのんびりと水際で遊んだり日光浴を楽しんでいた。四人とも風邪をひく事もなく、ティナの体調も宿で一晩寝ただけで熱は引いて顔色も良くなっていた。が、休息は必要だ、身体的にも精神的にも。
「……何をそんな爺臭い事を言っておるのじゃ? 坊は」
パンツ一丁姿のフェマが腰に手を当てて溜息を吐く。恥じらうお年頃をも遥かな過去に過ごしてきたフェマだが、呪いにより五歳児くらいにまで若返ってしまった今、その姿に引っ張られて精神年齢も下がったのか、恥じらう事も胸を隠す事もせずあられもない姿で個人湖岸内をうろついていた。それを見るトゥルースも慣れなのか全く気にならなくなっていて、ともすれば濡れたパンツを脱いで絞りながら歩いてくるフェマの素っ裸ですら気にならなくなっていた。まあ、流石にじろじろと見る事はせず視線を逸らすトゥルースの前だからこその行動であったが……男の純情を弄ばないでやってくれ、フェマよ。
荷物の中を一通り洗うに当たり、今回は荷物を入れている背嚢も洗ったが、まだ旅を始めて三ヶ月そこそこなのに水が真っ黒に汚れた事で定期的な洗濯は必要だと思い知らされた。中には食材も入れるので清潔にしておかないと、と。
程よい木陰を作る木に紐を括って洗濯物をカラカラに干す。そこには男物の下着も女性物の下着もいっしょくたにぶら下がっていて、人様には見せられない状態だった。それもあってか、フェマ以外の三人もすっかり羞恥心をどこかに置き去りにして下着姿で水遊びする事に慣れてしまっていた。
水辺では先程まで一緒に木陰で涼んでいたティナが暑くなってきたからとシャイニーを誘って水浴びをしてキャッキャと楽しんでいた。
相変わらず見事なプロポーションのティナ。それも当然だろう、ティナを竜の姿から助け出してからまだ十五日も経っていないのだから。ちゃんと食べている事もあって、そんな短期間に体形が変わる事は稀なのだが、それでもあの頃とは違う部分があった。
それは胸だ。
そもそもティナの柔らかいながらも張りのある胸は形も整っていたのだが、シャイニー特製胸当てでその大きな双丘は寄せて上げられ、より大きな山と深い谷間を作り出していたのだ。唯でさえ男の目を惹くティナが、更に狂暴な姿に変わっていた。ただ、今までは着ていた侯国の服によってそれが巧く隠されていたのだが、今回この町で衣服を買った事で、それが露見する事に。
対してシャイニーだが、最近は身体の肉付きも良くなって出会った頃は肋等の骨が露になっていたのが、今は普通の人より少し細いかなと思わせるくらいにまでなっていたどころか、毎夜くっつかれて感じていたように胸も少し膨らんできていた。そしてそれはシャイニー特製胸当てによって確りと形が整えられて、女性らしい膨らみを形成するに至っていたのだ。だが同い年であるティナと比べれば育ちの違いが目立ってしまい、背も低い事もあって随分と歳下に見える程だった。
そんな二人を視界に入れて寝転がっていたトゥルースが、体を伸ばしながらフェマに視線を移す。
フェマは成人したシャイニーやティナとは違い、体はどう見ても五歳児くらいの幼女である。それは誰に回答を求めても同じだろう姿だった。だが実はこの幼女が170歳を越えるとんでもない人だとは誰も思うまい。その事を知るのは、フェマの故郷に今も残っているフェマの子孫である老人たちと、その話を一緒に聞いてしまったトゥルースとシャイニーだけである。他にも気付いた者がいるにはいるが、実際の歳を知っているのはそれだけであった。
流石にロリコンの気はないトゥルースは、真っ平らで米粒の付いた程度の胸を露わにした上半身裸のフェマを見たところで、何とも思わない。が、言いたい事はあった。ラバたちに湖に突き落とされた時、下着姿になったティナに便乗して濡れて纏わり付く衣類が邪魔だ! 休暇に来たのだから楽な格好で過ごすのが自然だ! と素っ裸になって水遊びしだしたのだ。
全く、自由な奴だなと溜め息を吐きつつ、もうひとつ相談しておかなければならない事があるが、話すなら今だろうと声を掛ける。
「なぁ、フェマさんや」
「なんじゃ、坊。気持ち悪いのぅ」
「あのさ……試してみるか?」
「ん? 試すって、何をじゃ?」
「その……呪い解きを」
寝転んでいた体を起こしたトゥルースは横に立っていたフェマに問い掛けてみた。するとフェマは表情も変えず答えた。
「……馬鹿を言うでない。やるのはここじゃない」
「どうして?」
「分からぬか、坊。やるのであれば、あの二人がお主から離れてからじゃ。でなければ、わしがお主らから離れる時じゃの。お主らにわしが死ぬところは見せられん。特にあの二人にはの」
「……フェマは俺が失敗してフェマが命を落とすと?」
「もし解けたとして、その結果がどうなるか分からん以上、そう思っておいた方が良かろう。違うか?」
「むぅ……」
フェマの呪いはたぶん若返りである。そしてそれが原因でフェマは170年余りの永い時を過ごしてきた。
もしその呪いをトゥルースの呪いの力によって解けられたとして、フェマの体がそのまま若返りが止まって人並みにゆっくりと成長していくとは限らない。もしかしたら止まっていた時間が急激にその体を蝕み、体を朽ち果てさせるかも知れないと二人は懸念していた。
もしそうなれば、トゥルースは自責の念に駆られよう。しかし、それと同じくシャイニーやティナも深い哀しみに囚われてしまうに違いない。フェマとしてはそんな姿は人に見せられないと考えているのだろう。
「でも、俺だって何の覚悟もなく言った訳じゃないからな」
「分かっておる。じゃが、だからなのじゃよ。坊は一人でそれを負おうとしておるじゃろ。あの二人には知れぬように、と」
「まあ、な。でもそんな簡単に解ける様な呪いじゃないんじゃないかって俺は思ってる。なんたって百年以上も続いている呪いなんだろ? 俺の呪いが成功したところで、それが成功だとは分からないかも知れないじゃないか。分かっても何ヶ月、何年も経ってからの事になるだろ? それに一時的に解けただけになるかも知れない。であれば、やっぱり早くから試していく方が良いんじゃないかと思ってさ。俺たちはフェマと関係なく容赦なく歳を取っていくんだし」
「むぅ……」
今度はフェマが黙ってしまった。トゥルースの言う事も分かるからだ。トゥルースに出会え、同行できている今だからこそ、人並みに歳を重ねていける可能性が出来たのだから。このまま呪いによって若返っていけば必ずや文字通りの物理的幼児退行となり、いつか赤子から胎児の体となり生きていけなくなるだろう。そもそも赤子へと戻っていく子を誰が育てようと言うのか。事情を知るトゥルースたちだからこそこの身を預けられるのだ。
「よし、分かった。じゃが、あの者たちの前では決してやるでないぞ? 約束じゃ。でなくともお主の呪いは口が悪うていかん。わしは平気じゃが、見ておる方が耐えられぬじゃろうからの」
「まぁ、確かにそうだな。よし、思いっきり罵ってやるから覚悟しろよ?」
「ふふふ。そのくらいの覚悟、命と引き換えであれば安い物よ。さて、では早速やってみるとするかの」
「えっ!? 早速って……今から!?」
「どうせ坊の事じゃからわしを気遣って失敗するじゃろう、予行練習じゃ。じゃが……そうじゃの。あっちの岩場でやってみようかの。万一という事もあるからの。その時は波にでも浚われたとでも言っておけばええじゃろ」
「えっ! ちょっ! あっちには近付くなって……」
「なぁに、心配せんでもええ。坊は言う事を聞かぬ餓鬼を引き戻しに来たという事にしておけば、のぅ」
フェマが指差したのはプライベートビーチの貸出し事務所に注意されていたところだ。その岩場より向こうへは絶対近付くな、と。今借りている場所はプライベートビーチの中でも一番端であり、その向こうは帝国の王族が管理する敷地だと言う。もしそのエリアに入ろうものなら反逆罪や不敬罪等の罪に問われ命の保証はしない、と。一応手前に小さな柵はしてあるが、水際にまでは柵は伸びておらず、入ろうと思えば入れてしまう。恐らく柵は余裕をもってしてあるだろうが、近付かないに越した事はない。が、止めるのを聞かずにずんずんと侵入禁止区域へと向かっていくフェマを慌てて追い掛けるトゥルース。
「おっ! 岩場には食えそうな貝がようけおるぞ! ほれ、見てみぃ。手付かずじゃからたんと採れそうじゃ」
「こら、フェマ! こっちへ来ちゃ駄目だって言ったろ!」
意外と足の速かったフェマに追いついたのは、柵を越えて岩場に辿り着いてからだった。その小さな体のどこにそんな力があるのだろうかと首を傾げたくなるトゥルース。
「ほれ、坊。ここなら大丈夫じゃて。今の勢いのままやってみい」
「本気か? フェマ! こんな所でなんて!」
「なんじゃ、坊。怖気付いたか? 男なら度胸を見せぬか。それともそのぶら下がっておるチンコは飾りか? ん?」
「チン……このっ! 言わせておけば!! そうやって長年人を馬鹿にして生きてきたのか!? そんな事をしていたらいつか本当に"人知れず野垂れ死ぬ"事になるぞ!」
「おう、その調子じゃ。じゃが、そんな事はもう覚悟しておるぞ?」
「そんな事を言って! 本気で知らないからなっ!」
「ああ、そうじゃ。その調子じゃ。坊の言う通り本気にならんとわしの呪いは簡単には解けはせぬじゃろう。お主の事じゃ、わしで効果があれば嬢の呪いも解いてやりたいと思うておるんじゃろ。遠慮はいらん、坊の本気をわしに見せてみよ、本当に男ならな!」
流石はこの世の誰よりも長く生きる者だ、卑猥な言葉も相手を煽る言葉も口にするのに躊躇がないが、まだまだフェマとしては序の口だった。こんな形ではあるが、長い間、年頃の女の姿で生きていれば純情のままではいられなかった過去が何度もあったのだ。これしきの言葉は何とも思っていない。
が、フェマは幾数もそんな危険な目に遭いつつも窮地を乗り切ってきた為、若干(?)危険な事には鈍感になっていたようだ、トゥルースが次の言葉をフェマに投げ掛けようとした時だった。
「そこで何をしている!」