表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/120

√トゥルース -018 湖で心の洗濯



 パシャパシャと大陸一広い湖の穏やかな水面に水飛沫が上がる。


 結局トゥルースたちは宿が取れなかったせいで、今は大陸一広い湖の畔にある貸し出し型の個人湖岸で寛いでいた。

 ティナが竜の姿から人の姿に戻ってからというもの、ほぼ休みなしで移動していた付けが回ってティナの体調が崩れたからだ。隧道を抜けて侯国から帝国へと入った途端、体が参ってしまいそうな残暑に見舞われたのも大いに関わっているのだろう。

 四人が借りた個人湖岸(プライベートビーチ)は、ある一定の範囲を仕切って個人的に遊泳を楽しめる所であり、そこで天幕を張って泊まる事も出来る。トゥルースはそこを三日間借りる事が出来た。長期で借りていた貴族がキャンセルして空いていたのだ。よくある事と聞いていたが、実際に借りられるかは時の運だ。もしもの時は延長出来そうな雰囲気でもあった。

 町からは少しだけ離れている場所であったが、ラバがいればそんなに大した距離でもない。大衆が集まる無料の遊泳場でも天幕は張れるのだが、見目麗しいティナは勿論、顔に痕のあるシャイニーもいて目立ち過ぎるのだ。トラブルにならない訳がない。宿が取れない今、旅を強行してしまえばティナの体調が悪化する事は目に見えており、この浜を借りられるかが生命線だとも言えたので、無事に借りられたのは行幸だった。

 ……のだが。


「……なあ、あれは止めなくて良いのか?」

「……まぁ、楽しそうじゃから良いではないか」

「……まさかの展開ですね、あなた様」

「……みゃ~」


 目の前の光景に立ち竦む三人と一匹。


「ミール、メーラ! 気が済んだら戻って来なさいね~!」


 波打ち際で声を張るシャイニー以外は、ラバたち(・・・・)が湖に入って水遊びをしていたのだ。余程暑かったのだろうが、二頭のラバが対岸も見えない大きな湖で走り回る様はシュールである。小さな子供がいれば泣き出すかも知れない。とは言え、二頭は水のあるところといえば、せいぜい対岸が直ぐそこに見える川くらいしか見た事がなかったので、その壮大さにテンションだだ上がりだったのだ。

 そもそもこの町に移動してきた昨日は借りた後、暗くなる夕方まで町で用事や買い物、食事を済ませており、一行がまともに湖を目にしたのは夜が明けてからだ。暑くなってきてウズウズしていた二頭を、シャイニーが少しだけならと水際まで引っ張って行った途端、この有り様であった。


「ま、いっか。今日は思いっきりのんびりするぞ!」

「坊、何を言っておる! 先ず先にやる事があるじゃろ!」

「へ? やる事?」

「……分からぬか、坊。洗濯じゃ、洗濯! 道中も洗っておったが、ここで確りと洗ってしまうのじゃ! 坊の冬物など臭くて敵わんわ! ティナ嬢もじゃぞ?」

「ええっ!? わたくしも臭いますか?」

「いや、そうではない。確りと汚れを落としておかねば、坊のように着ておらんでも臭うようになりよるぞ」

「……フェマさんは博識でいらっしゃいますね」


 王族であったティナが今まで洗濯というものをした事がある筈もなく、その手つきを見たフェマとシャイニーが代わりにティナの衣類の洗濯を行っていた。そしてそのついでにとトゥルースの衣類も二人で洗っていたのが実状だ。二人としては旅の資金の出所が全てトゥルースだから、そのくらいの事をするのは当たり前だとの考えもあったが。

 いつもなら空いた僅かな時間に汚れた衣類だけを手早く洗うのみだったが、今回はいつもはない時間がたっぷりとある。更に使い放題の水も目の前に大量という言葉以上にあるのだから、ここでサッパリとしない手はない。

 全員の荷物をひっくり返して衣類を全て出すと、その全てを抱えて水際に行く。はしゃぐラバたちを見ながらの洗濯は中々にシュールだ。

 今回ばかりはトゥルースも洗濯大会に参加する。と言うか、この中で一番衣類を持っているのがトゥルースである。フェマもある程度の数は持っているが、体が小さいので量としては大した事はない。そしてシャイニーとティナは元々身一つで放り出された事もあり、衣類の数はまだそれ程多くはなかった。


「ティナ嬢よ、昨日買うて貰った服も一度洗っておくから出しておけ」

「え? 何故ですか? 着てないので綺麗ではありませんか」

「いや、一度洗っておいた方が汗をよく吸いよるし、新しいのは汗で濡れると染料が体に付くぞ?」


 斑になる自分の身体を想像したティナが、慌てて新たに買い足した衣類を持ってきた。この町の衣料店はそれまでの町よりも品揃えが充実していた。避暑客が増えるこの時期は特にそうだと言う。その客層を狙って態々帝都から最新ファッションを仕入れて来るのだという。折角余暇を楽しむのだ、そこに最新ファッションで身を包んで満足度アップを、という算段らしい。流石に帝都の品揃えとまではいかないものの、その品揃えは元王女のティナのお眼鏡にも敵ったようで、新たに数着をトゥルースに約束通り購入して貰い、早速着込んでいた。


「あのっ! フェマさん! 今着ている物も洗った方が?」

「ま、まぁの、その方がええのじゃろうが……」


 青い顔をして顔を覗き込んできたティナの形相に引くフェマ。 確かに今日も暑くなりそうで、このままでは汗で湿ってしまうだろう。そうすればたちまち衣服の染料が身体に移って……と最悪のシナリオに血の気が引くティナ。確かに濯ぎきれていない染料が衣服に残っている事はこの世界ではよくある話だったが、それが原因で体が斑になってしまう程移ってしまう事は殆どない。が、下着や別の衣類に色が移ってしまう事はあるのでそれを窘めるつもりでフェマは言ったのだ。しかし、何を思ったのかガバッと着ていた服を脱ぐティナ。


「ちょっ!! ティナ! 脱ぐな、脱ぐな! 俺もいるんだぞ!? それに替えの服も今洗っているだろ!?」

「え? あっ!!」


 慌てて曝け出した下着を隠すティナ。幸いにもプライベートビーチであり、周囲に他人の目はないとはいえ、目の前の異性であるトゥルースの存在が頭からすっぽ抜けて青くなっていた顔が見る見るうちに赤く染まった。


 が、しかし。


 四人は忘れていた。

 水辺で走り回る奴ら(・・)の事を。


ズドドドドド ばしゃばしゃばしゃっ! ズダダダダダ ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


「のわっ!!」 「ふぁっ!?」 「ひゃあっ!!」 「ぶふぉっ!!」


 四人に態と近寄って水を掛けて回るミールに、四人を背中から押して回るメーラ。

 丸でお前たちも暑いだろう、一緒に水遊びしよう! とばかりの所業である。おかげで四人とも無事に? 濡れ鼠だ。


「こ、この馬鹿ラバどもがぁ!!」


 ずぶ濡れのままラバたちを追い掛けるトゥルースだったが、遊んで貰ってると勘違いしたのかラバたちは益々調子に乗って水飛沫を上げた。


「大丈夫!? ティナさん!」

「……ぷふっ! なんだか気持ち良いですね、シャイニー様。水に飛び込むってのは」

「そう……ね、ティナさん。これだけ暑いし……ふふふ」

「……何を笑っておるんじゃ、お主らは。全く、着替えは皆洗濯中じゃというのに……じゃが、こうなってしまっては今更……じゃのぅ」


 水に浸かった状態で駄ラバたちを追い掛けるトゥルースを見ながら笑う女性陣。


「ハッ! いけませんわ! このままじゃ色が移ってしまいます!!」

「何じゃ、ティナ嬢。さっきのをまだ信じておるのか?」

「いえ、身体が染まるというのは言い過ぎなのでしょう? そのくらいは分かります。でも、下着や他の衣類に色が移ってしまうのは本当ではありませんか?」

「確かに。まだ新しいから他に色移りするかもしれないね」

「やはりそうなんですね、シャイニー様」

「……ティナさん、その名前に様付けは何だか他人行儀で心苦しいんだけど……」

「あら、ごめんなさい。でもこの口調は小さい頃からこう躾けられてきましたので……あ、そうですわ。トゥルース様のようにわたくしも愛称で呼ばさせていただいても宜しいですか? ニー様と」

「ううっ! それでも様付けは直して貰えないのね? でも直せないのなら仕方ないから、それで……」

「……わしは端からさん付けだったのじゃがの。それよりええのか? 色移りの件は」

「「ああっ!」」


 慌てて服を脱ぐティナ。濡れて脱ぎ難いのでシャイニーがそれを手伝い、自分たちも脱ぎだした。その様子に気が付いたトゥルースが慌てる。


「ちょっ! 何をしてるんだ!? みんなして服を脱ぐなんて!!」

「あら、濡れた服をいつまでも着ている訳にはいかないでしょう? 風邪をひいてしまいそうです。それに、あなた様には全てを見られてしまってますので今更ですわ。幸いここには他の人の目を気にする事もないし……ほら、あなた様も早く脱がないとお風邪を召しますよ?」


 王国には海も湖も無い事から水着文化は殆ど発達しておらず、水着と言ってもまるで普段着のようであったが、大きな湖のある帝国を始め海に面した遊泳場のある国では結構露出の多い水着が出回っていると王国にも話は聞こえていた。それがどんな物かまでは大半の者は知らずに。

 当然、王女であったティナが人目に肌を曝す事はないので水着自体を着る事はおろか見る事もなかった。遊泳場に行く事のなかったフェマも然り、孤児院から出られなかったシャイニーもなのだが……

 その為、シャイニーの作る胸当てを見たティナやフェマは最新の水着がこういった形なのだろうと誤解を生んでいた。実際にはもう少し布地の多い水着が主流であり昨日ティナの服を買った時にも売り場に並んではいたのだが、それに気付かなかった一行。

 しかし思い込みは怖い物で、シャイニー特製下着でも問題ないと思い込んでいたのと、この暑さに加え目の前に広がる広大な湖を見て()てられた三人は心を広く持ち過ぎたのであった。羽目を外し過ぎであるのだが、それを窘める者はいなかったのだ。

 当然のようにトゥルースが暫くの間水面から出られなくなったのは若い証拠であった。年頃の男子(トゥルース)には目の毒の何物でもないのだ。結局、女三人に押し切られたトゥルースもまた、下着姿になって遊ぶ事に。リア充爆発しろ!(作者心の叫び)






 ティナに、自分は全てを見られたのにトゥルースのは見てないからと、パンツをむしり取られた事は本文には書けませんでした。そして女性陣たちも、身に着けていた下着までも洗濯するために...(!?)


 な~んて事になったのかどうかは作者も知らぬところ。

 因みにフェマとシャイニーは大怪我をしたトゥルースの治療時に全てを見ております。でも...ティナが見られた事もトゥルースが見られた事も、どちらも不可抗力ですよね?剥かれたのが本当ならトゥルース不憫だなぁf(^_^;

 王女:「一方的に見られたままなのは何か納得がいきませんね」

 幼女:(後ろから)「ほれ、見たいなら見せてやろう」ズルン

 女性陣:「「きゃ~!」」

 ルース:「...解せん!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ