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√真実 -014 はっぴぃばーすでー



「さて、じゃあ締め括りのデザートといくか。真実君、手伝って貰えるかい?」


 味久が立ち上がると、真実も当然のように立ち上がった。


「えっ!? デザート? 結構腹一杯に食っちまったから大丈夫かな?」

「見境なくバクバク食べてたユージが悪いんでしょ? 何ならワタシが食べてあげるわ」

「そういえば最後に飛弾が一緒に作ってたわよね。忘れてたわ」

「おっちゃんが最後に手を加えてたからちょっと楽しみね。何を作ったんだろ?」

「……ん。ウチも手伝う」


 作っているところをずっとカウンターで見ていた智樹は何が出てくるのかを知っている為か黙っていたが、それ以外のみんなは見えてなかったので何が出てくるのか分からずそわそわしていた。昨日作っていたゼリーならスルッと入るだろうが、味久の登場で数が足りなくなる。よって料理の途中まで匂っていたバナナ系の何かが関わっているのだろうが、味久の手によってそれがどんな形に姿を変えているのだろうと。


 間もなく手伝いに入った光輝により片付けられたテーブルとカウンター上に小皿が配られた後、味久によって湯気を立てる紅茶も配られた。何を作っていたか分からなかった者は首を傾げる。いきなり紅茶? と。ミサが泣きながら来た時に出されたカモミールティーではなく、今回はストレートティーだ。そして真実がトレイに載ったそれ(・・)を慎重に持ってくる。歌を歌いながら。


「ハッピィバースデートゥーユー♪」

「えっ!!」


 何を作っていたか見ていた智樹と、手伝いをして目にしていた光輝も声を合わせて歌うと、それを察した周囲のみんなも声を合わせて歌いだす。


「「「「「「「ハッピィバースデーミサさ~ん♪ ハッピーバースデートゥーユー♪」」」」」」」

「えっ!? えっ!?」

「誕生日おめでとう、ミサさん!」

「「「「「「おめでとう! ミサさん!」」」」」」

「えっ!? えっ!?」


 まるで訳が分からないとばかりに目を丸めるミサ。それはそうだろう、今日が誕生日だと打ち明けたのはついさっきなのだから。なのに何故か目の前には誕生日ケーキが。

 それはケーキ屋に売っているような綺麗なものではなく、デコレーションは簡素なものであったが、クリームで真っ白になった山の上に乗った真っ赤な苺は透明なコーディングが施されていて艶々としている。更にその苺の合間合間には透明な塊がちりばめられ、まるで宝石のような輝きを放っていた。更に中央には切り刻んだチョコで【HAPPY BIRTHDAY MISA】の文字が。


「こ、これ……どうして…… え? ……なんで?」

「いや、偶々材料が揃っていたからね。話を聞いて真実君にその材料を使って作る事を提案したんだよ」


 ロウソクは流石に用意できなかったが、スポンジケーキは真実が丁度焼いていた物を使い、クリームとチョコは料理で隠し味に使って余った物、イチゴは偶然夏イチゴを見付けた総司がデザートにと買ってきた物、透明なのは昨日から冷蔵庫で寝ていたゼリーである。偶然にもスポンジケーキを真実が焼いていたのが幸いしたのだ。


「いやあ、炊飯器でスポンジケーキとは良いアイディアを貰ったよ。今度早速試してみよう……ってあれ? 何で泣いて?」


 味久が種明かしをしていると、感極まったミサがまたもや泣き出した。しかし今度は先程とは違って勿論嬉し泣き(マジ泣き)だった。




「わ~! これ、美味しい~♪」

「クリームがあんまり甘くないと思ったらスポンジが~♪」

「これ、すっごい! バナナの香りが鼻を抜けるわ」

「……ん。スポンジとスポンジの間にもクリームとイチゴと……何? チョコ? だけじゃない?」


 出されたケーキは女子たちには好評のようでホッとする真実。炊飯器で焼いたバナナケーキを二つにスライスして間にクリーム、イチゴ、砕いたゼリーとチョコレートをまぶして挟んであった。


「別々に口に入れるとイマイチなのに……不思議だな」

「だよな。バランスが絶妙だ。それにしてもこのイチゴがテカってるのって……」

「ああ、それはナパージュって言って、ゼリーがあったから一度溶かして掛けてあるんだよ」

「にしても、バナナケーキは甘過ぎたな~、ちょっと失敗だ」


 バナナで甘くなる事を考えていなかった真実は、バナナ入りスポンジケーキを作る際に砂糖の分量を減らす事をしていなかったのだ。バナナの糖分だけ甘くなっていた。


「それにしても、よくスポンジが甘いって分かったな、味久君」

「ああ、それは炊飯器から出す時に、釜に残っていたカスをちょっと口にしてみたんですよ、飛弾さん。この甘さなら他の物の糖分を調整しないとって思って」

「でも、バナナの風味とチョコレートの香りのバランスも良いわね。餐児君、そこまで計算して?」

「ええ、バナナとチョコレートとの相性は良いですからね、花苗さん」


 カウンターでもお零れに与り、ケーキを頬張る大人三人組にも評判は良さそうだ。

 

「ちょっとミサさん。そろそろ泣き止んだら?」

「うっぐ。だってぇ……美味しくってぇ……ひっぐ……嬉しくってぇ……」

「ミサさ~ん、涙で塩辛くなっちゃいますよぉ?」

「えっぐ……良いもん、塩辛くなっちゃっても。真実君が作ったスポンジは甘いもん……」


 ミサの返答に、冗談を言った香奈だけでなくみんなからも苦笑が漏れた。流石にそれは冗談を冗談で返したのだと思うみんなだったが、ミサは半分くらい本気だった。いつからか真実ラヴになっていたミサにとって、その真実に誕生日を手作りのケーキで祝って貰えたという事実がそう思わせていたのだ。実際はデコレーションは味久、ゼリーは光輝との共作だったのだが、脳内変換で全て真実に作って貰った事になっていた。今まで断り続けられていた真実の家にお呼ばれしたという事も少なからず影響しているだろう。恐るべし恋心。



「いや~、食った食った! 美味かった~!」

「あれだけカレーを食べておきながら、ケーキもペロッと……どんな胃袋してんのよ、ユージ」

「ふふん、甘い物は別腹ってのは女子の専売特許じゃないんだぜ? カコ」

「そんな事言ってると、あのオジサンのようにお腹出ちゃうわよ?」

「んなもん、そう簡単には出ねぇよ! オッサンじゃあるまいし」

「いや、出ちゃうわね、あんな感じで。ブクブクと」


 うわっ!? ひっでぇ……と指差された味久が声を上げるが、祐二と華子の耳には入らずいつものように口喧嘩に発展していく。毎度の事にいつものメンバーは呆れ果て、初見のミサや香奈、花苗に味久は呆気に取られる。


「……かこちゃん、布田くん! お呼ばれしている席なんだし、ミサさんのお誕生日なんだから喧嘩はダメ!」

「「……はい」」


 そして光輝が止めるのも、いつも通りだ。


「ぷふっ! 何それw今の流れが凄く自然だったんだけど、いつもそうなの? キラちゃん、いつも物静かなのにw」

「ホントに~! 光輝ちゃん、そのくらいの声が出るんなら、稽古でも頑張って声が出せるんじゃないの~?」

「全くよね。光輝ったら稽古になると途端に怖がって声が出せなくなるもんね?」


 普段とは違う光輝の姿に笑い出す香奈やミサの意見に同意する綾乃。途端にさっきの勢いを殺がれしゅんと小さくなる光輝の様子が、またみんなの笑いを誘った。



「ああ、そうそう。真実、あんたにこれあげるわ」

「え? わわっ!」


 テーブルの上を、裏表が白黒の白く四角い板が放物線を描く。慌ててそれを両手でキャッチする真実。落とす事なく受け取った真実は、思ったより重量感のあるそれを手を広げて見ると、目を丸めた。


「え? これ……」

「私のお古よ、使いなさい」

「ええっ!? 本当に!?」

「いらないなら棄てるから返しなさい」

「いや、そんな事言ってないだろ?」

「言っておくけど、料理のレシピとかを調べるのに使えって事だから。エロサイト見てたりゲームとかで遊んでたら回収するからね?」

「いや、そんな事はしないからっ!」

「あ、因みに電話は使えないから。家の中でのWi-Fi専用としてだからね」

「は? ナニソレ!?」


 真実の手に握られていたのは白いスマホであった。しかし、本来電話を掛けるのが目的である筈のそれでは電話は掛けられないと言う。更に真実には耳慣れないWi-Fiという言葉に、首を傾げるばかり。学校でもパソコンを使うが、普段触らない為に家で触っている者たちと差が開く一方だった。


「な~んだ、白ロムか。番号があれば色々と出来たのに」

「は? しろろむ? 色々と? って、何を!?」

「いや、でもある程度の事は出来る筈だぞ? 真実ならマガシェフ(マガジンシェフ)とかインストールすれば……って、インストールが出来る状態なのか? それ」

「は? まがしぇふ? インストールって何か難しい事をしなくちゃいけないの!?」


 スマホ未経験者にとっては未知の領域だった。しかしそれを見ていたミサがガッカリした顔を見せた。


「……はぁ~、真実君のケータイ番号ゲット出来ると思ったのに」

「あ~、番号が分かればlinkとか出来たのにね。あ、ミサさん、あたしと番号交換して!」

「あ、アタシも! フリフリで良いですよねっ♪」

「えっ? あ~、うん。ええっと、これで良いかな~?」

「あ、キタキタ! ポチポチっと、よし! 登録完了♪ミサさん、店長さんによろしく~♪」

「あっ! ほらほら、さっきのカレーをフォトアプに載せたら、もうベリグッ! が付いてる♪」

「ふふ~ん♪ あたしなんて、もうこんなにベリグッ! が付いてんだから~♪」


 いつの間にやら撮っていたらしいカレーやケーキの画像を見ながらスマホ持ち女子たちが盛り上がる傍らで、スマホを持たない祐二と華子が残る夏休みの過ごし方について相談を始め、スマホと呼べるか分からない物体Xを手に入れた真実はスマホ持ちの智樹に泣き付いていた。


「智樹~! これって、どうしたら使えるんだ?」

「う~ん、そうだな……フリーメールでアカウントを作れられれば、マガシェフやlINkをDL出来るかもな」

「えっ!? ふるいめーる?あかんと? だんろど? 何ソレ???」


 学校のパソコンでは設定の必要のない言葉ばかり出てくる為、聞かない単語ばかり並び立てる智樹がだんだん宇宙人に思えてくる真実。当然その隣で真実と智樹のやり取りを聞いていた光輝も頭の上にクエスチョンマークがいくつも並ぶ。


「……はぁ、あんたたち。折角集まってんだから、スマホなんて弄ってないでちゃんと顔を合わせて話しなさいよ。これだからスマホを持たすのは嫌なのよね」


 花苗が溜息を吐く。花苗は画面越しだけの交流が全てと思い込んでいる最近の若者を懸念していた。そういう時代ではあるが、それが健全とは言えない。学生は健全に。それが医者である花苗の意見であった。

 言われたみんなが顔を見合す。何れも縁がなければ顔を合わせる事のなかった面子だ。その縁を大事にしろと言われているのだ。奇しくも今日はミサの誕生日、それを祝わなくてどうするんだと。みんなで苦笑をする。

 それからというもの、最近のミサの仕事の内容に驚いたり、短期間で綾乃と香奈がスペシャルシリーズのフラッペ全種類ジャンボサイズ制覇した事が伝説になっているらしい話を聞いたり、夏祭りでの男たちを撃退した道場のお姉さんたちの豪快なその後の話に沸いたり……帰るまで楽しいひと時を満喫するのだった。





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