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√真実 -013 カレー対決 -2 白いカレー



「よし、じゃあ次は僕のカレーだね」


 味久が立ち上がりキッチンで盛り付けて順に出していく。それを見たみんなが目を丸くした。


「何これ? カレーの色が白っぽい……」

「ホワイトシチュー……じゃないの?」

「ご飯が黄色いし……」

「こんなの見た事ないわ」

「美味しいのか? これが」


 その見た目から口にする前から懐疑的な意見が飛び交う。が、そんな中で一人、首を傾げたのはミサだ。


「これって、ホワイトカレー? 北海道の?」

「よく知ってるね。ホワイトカレーも美味しいよね。でも惜しいけど違うよ。まぁ一口食べてみてよ」


 北海道出身の友達が大学にいたミサが白いカレーを知ってたらしいが、味久はそれとは違うと否定した。勧められるまま、みんながスプーンでそれを掬い口に運ぶと、カッと目が見開かれた。


「な、何これ!? 美味しい!」

「見た目がこんななのに味がめっちゃカレーじゃん!」

「見た目とのギャップが凄い!」

「美味しい! スプーンが止まらないわ!」


 それまで疑っていたみんなの目が一転驚きの色に変わる。そしてまたもや止まらないスプーン。先程の総司の王道カレーは少な目だったとはいえ、味久の白いカレーも似た量で合わせればそれなりの量になる。それでも食べ盛りの男子たちだけでなく女子たちもペロリと食べてしまう勢いだ。


「ぷふぅ、美味かった~! オッチャン! 何これ? 何でカレーがこんな白いんだ?」


 またもや一番に食べきった祐二。カレーは飲み物だ! とか言う人種に違いない。


「ははは、気に入ったかい? これはヨーグルトをベースに作っているんだよ」

「ええっ!? ヨーグルト!?」

「まぁ、北海道のホワイトカレーと同じく牛乳も使ってるけどね。だからさっき言ってたのも半分当たりだね」

「でも黄色いご飯は?」

「そうそう、炊いたのは白いご飯だったんじゃ?」

「確かカレー屋で出されるターメリックライスは炊く前に色を付けると思ったけど」


 総司が購入してきたガス炊飯器で炊いたのは王道カレーにも使われた白いご飯だ。そしていつも使ってる電気炊飯器は真実がケーキ作りに使っていた。別途炊く時間はなかった筈なのだ。祐二としては美味しかった色付ご飯が何かを知りたかったのだが、ターメリックライスの作り方を知っていた綾乃と香奈が話の趣旨を曲げた為、祐二がヘソを曲げたみたいだ。しかし答えはそれ程は変わらない。


「ああ、元は白いご飯だよ。色付けはターメリックじゃなく香りの良いサフランを使ってるんだ。軽く味も付けているけど、サッパリと食べたければ白いご飯にヨーグルトカレーを掛けても良いよね」


 白飯に白いカレーじゃ色合いが寂しいからとサフランライスにしたらしいが、サフランの色付けは炊いた後からでも可能だと言う。香り付けが浅いのとムラになり易いが、そこは腕でカバーだ。


「あたし白いご飯で食べてみたい!」

「あ、カナも!」

「あいよ!」

「おれはその黄色いご飯でオジサンのビーフカレーを食べてみたいけど、合うのか?」

「まぁ、合わない事はないね」

「オレはおじさんのビーフカレーかな」

「あ、俺も」

「……ウチ、あとちょっとだけ白いカレーを食べたいかな?」

「あ、私も~!」

「ワタシは両方を混ぜてみたいな」

「なっ! その手もあったか!」


 みんなが勝手な事を言い出してカオスな状態に。堪らず給仕をしようとしていた味久が爆発し、自分でやれ! と匙を投げた。



「それにしてもオジサン、このビーフカレーはオッチャンのホワイトカレーと比べても負けないくらい美味いけど、オジサンも料理するのか?」

「ああ。とは言え、私はカレーと味噌汁くらいしか出来ないけどな。ま、休みが金曜日に当たればほぼ必ず作っていたから隠し味もこだわっていたらこの通り、な」

「いや、これは結構レベル高いと思うけど……」

「くぅ~! これに豚カツを乗せたかった!」

「それにチーズを乗せたり? やだ~! 絶対太る~!」


 今回は二種類のカレーを食べるとあって、ボリュームのあるカツカレーにはならなかったが、祐二の発言にみんなが想像を膨らませ腹一杯なのに口の中に涎が充満する。


「大丈夫~、太ったら良いアルバイト先を紹介してあげるわよ~?」

「えっ!? まさかあのカフェ?」

「わ、ちょっと考えるかも~! 新作の味見が出来たりしたら絶対行くかも!」

「え? 出来るわよ~? そもそも賄い料理からメニューに載る事もあるんだって~。よく試作品が出てくるし~」


 実際体重が減ったので半分本気で、もう半分は冗談で口に出したミサの言葉に、香奈が食い付く。


「……ミーさん! お願いしますっ!」

「「「ええっ!? 本気(マジ)!?」」」


 意外な形で。


「だって試作品が食べられるって事はアタシの意見だって反映されるかもって事でしょ? アタシの好みのメニューが増えるって事よね!」


 目を輝かせて言い切る香奈に、みんな言葉を失う。どうやら香奈にとって、カフェでのアルバイトは働いてお金を貰うところという場ではなく、自らの欲を満たしてくれる場だという認識のよう。

 そもそも香奈はスペシャルシリーズのフラッペ・ジャンボサイズを連続して食べに行き、更に華子に新し目の衣類を提供しても何ともないだけの小遣いを貰っているので、今更お金を稼ぐ必要はない。それでもカフェでのバイトを望むという事は、それだけ香奈にとってそのカフェの味付けは理想に近いという事であり、メニューに載る前に口に出来るという事は何よりのご褒美なのだった。

 幸い繁忙期である夏休みは残り一週間。それさえ乗り切れば夏期限定であるフラッペも姿を消してしまうが、現在の殺人的な忙しさからは解放される。そんな中での新人教育は骨が折れるだろうが、今は猫の手も借りたい筈。ミサが店長に話をしてみるという事でこの場は治まったが、思いもしない事が起きるものだ。恐るべき乙女の好奇心である。




「さて、二種類のカレーを食べて貰った訳だが、どちらが美味かったかな?」


 みんな二種類のカレーの美味さに惚けていたが、これは料理対決だったと思い出す。う~んと考えた後からこっちかな? そっちの方が好みだった! と意見が割れていく。結果……


「王道カレーが俺と智樹と祐二、ヨーグルトカレーが光輝と綾乃と和多野さんとミサさん……香奈さんは?」

「う~ん、どちらも甲乙付け難いのよねぇ。ヨーグルトカレーは冷やしても美味しいだろうけど、夏だからこそだと思うし、プロだからこその味だろうから。そこをいくとビーフカレーはまだ色々とレパートリーが増えそうだし年中楽しめそうだけど……アタシはドロー(引き分け)って事で!」

「……という事は、三対四で味久さんの……」「ちょっと待って! 私のジャッジがまだじゃない。私には聞かないの?」


 真実が判定を下そうとしたところを止めたのは花苗。顔色を見ればぷんぷん丸と化している。判定に不服のようだ。


「えっ!! か、母さんも判定するの!?」

「当然でしょ! 何のために両方食べたと思ってるの?」

「わ、分かったよ。母さんはどっちに票を入れるの?」

「当然総司さんのに決まってるじゃない! 理由はあるわよ? 総司さんの方が見た目から食欲をそそるし、カレーを食べたって満足度もあるから。餐児さんのカレーは美味しいけど上品過ぎるのよ。少食な女の子や珍し物好きには良いかも知れないけど、ガッツリ食べようとは思えないわよね?」


 フンムと鼻息を荒くする花苗に、味久は肩を竦めた。どうやら若い女性陣が多いという情報を元に見た目でインパクトがあり食べ易く色合い的にも女子受けするだろうヨーグルトカレーを選んだようだ。


「そこまで奇を衒うなら青いカレーとかピンクのとか真っ黒いのもあるじゃない。ま、私は食べないけどね、そんなのは」

「いや、流石に青いのは自分のどうかと思いますよ? 花苗さん。でも……やっぱりなぁ。今度これを作ってやろうと思ってたけど、野郎どもには厳しいか」

「いや、そんな事はないと思うぞ? 味久君。中には運動不足で太りだしている者も多いからな。偶になら変わり種があっても良いのではないか? これはこれでアリだと思うがな」


 どうやら職場のメニューに加えようか迷っていたらしいが、一度出してみて様子を伺う事になったようだ。結局、料理対決は、四対四と一引き分けのドローとなった。






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