√真実 -011 カワイイ
「これはまた可愛い娘たちが集まったものだね」
「うむ。三人とは私もこの一週間毎日会っているが、今日は随分とお洒落をしてきてくれたようだね」
鼻の下が伸びるオジサン二人。先程も溢していたように職場で女性との出会いがないと言っていたという事は女性に耐性がない事をも意味する。しかし二人ともいい大人だ。節操のない事はせず、挨拶を交わすと料理に戻った。
「へぇ、二人別々の料理を作るのね。それもあっちのオジサンはプロの料理人……」
「うわぁ、期待して良いんだよね? ね?」
「何が出来るかは出されるまでのお楽しみって、本当に気になるわね」
「……ウチ、料理するところ見てても良いかな? 良いよね?」
男料理の様子を見ながら興奮しだす女子四人だったが、そんな女子たちを見て興奮するのは男子三人だ。
「う~ん、カコがあんな服を持っているなんてな。マジでパネェ……」
「ああ、和多野もそうだけど、まさか黒生があんなに化けるとはな……」
「うん、俺も驚いた。浴衣姿も良かったけど、今日のは反則でしょ……」
「それに智下と耶奈木さん? あの二人もああして着飾ると、結構レベル高いんじゃないか?」
女子たちの後姿を見てゴクリと喉を鳴らす三人。うん、健康な男子の正しい? 反応だ。
その後、祐二は華子と二人でソファーに座ってイチャイチャしだし、綾乃と香奈はテーブルに着いて二人でスマホを見せ合って盛り上がる。そして真実と智樹と光輝はカウンターで料理を見ながら談笑する。
「なあ、光輝。その服って……」
「……ん。あやのちゃんと、かこさんが持って来てくれたの」
「へぇ、そうだったんだ。今までTシャツにハーフパンツとかの組み合わせが多かったから、凄く新鮮でビックリしたよ」
「……ん。あれ、小学校の時のとかで、小さくなっちゃったの。今年は夏服を買おうと思ってたんだけど、最近ちょっと他の物にお金が掛かっちゃって……」
ぴったりサイズを好んで買っていたのだと思っていたら、まさかの小さくなっちゃった方だった。女の子としては珍しいパターンだ。
「え?そうだったのか? でも食材なんか共同で買ってるし、日中はうちに来たりして家にいないから結構節約になってたと思ったんだけど……違うのか?」
「……ん。それは節約になって助かったんだけど……」
言い淀む光輝。節約になっていればお金は以前より残る筈。しかし、それ以上に倹約家の光輝がお金の掛かった物とは……真実が首を傾げる横で光輝も聞いてないフリをして耳はダンボだ。
「……今年は下着とか生理用品を買わなくちゃいけなくなっちゃって……」
「えっ!? ちょっ! そういう話はオブラートに包もうよ、な? 光輝」
慌ててそれ以上の発言を止める真実。その横で黙って顔を逸らす智樹。確りと聞いていたようだ。幸いにもオジサンズには耳に入ってなかったようだが、迂闊にも程がある。
しかし、綾乃と香奈から衣類の提供があったとは……そういえば、と綾乃や香奈、華子の着ている服を見て何となく想像が付いた智樹。
「もしかして和多野も二人の服を?」
「……ん。ウチもかこちゃんも上があやのちゃんの、下がかなさんのだよ。かこちゃんは上が合うの無くて仕方なくあれになっちゃったの」
「「あ~」」
華子は四人の中で一番胸が大きい。細身である二人のトップスでは中々着られる物がないのは想像が付く。その中で伸縮性のあるリブTシャツが選ばれ、そこから香奈の持ち寄ったボトムが選ばれたらしい。そんな話を光輝から聞いていると、それが耳に入ったのか綾乃と香奈が三人の方へと声を掛けた。
「どう? あたしたちのコーディネートは。中々なものでしょ?」
「苦労したわよ? サイズを合わせるの。事前にサイズを聞いておいて良かったわ。何せキラちゃんのガウチョなんて三~四年前のを見付けて引っ張り出した物だし」
「あ、それあたしも~。最近着ていた服だと光輝じゃダボっちゃうのよね~。だから二~三年前のを探したもの~」
ええっ! っと光輝が驚いて愕然とした。自分が小さいとは自覚していたが、今が二人の小学六年から中学一年の頃と同じくらいの体型だとは……と。勿論それはウェストもだが、バストサイズもであった。
対して華子の衣服も苦労している。前出の様にトップスは四人の中では育ち過ぎている胸のせいで伸びない材質の物は全て却下。今着ているリブTも二人にとっては伸び過ぎてアウトなのだが、大目に見てギリセーフとしたのだ。そしてボトムは太めの物でウェストはゴムの入った物をチョイスする事で回避した苦肉の策だった。それでも華子は背丈があるので決して太っている訳でもない。スポーツをしていたおかげか、細身の二人の衣服を着られる程には引き締まっていたのだ。
「ところで、さっきからスマホで何を見てたんだ?」
「ああ、これ? これはミサさんのバイトしているカフェで食べたフラッペをフォトアプに上げた反応が思いの外良くって」
「そうそう、昨日遂にスペシャルシリーズを制覇したのよね♪」
「ええっ!? 制覇って、五種類あったよね? あれを全部!?」
「勿論ジャンボでの制覇よ♪そしたら更に隠しメニューがあるって……」
「そ、そ。だからカナっちとまた行かなくっちゃ!」
スペシャルシリーズのフラッペをジャンボで既に五種類全制覇だとは! と驚愕の色に染まる真実と光輝。それも一杯1500円前後もする嗜好品を短期間にだ、驚かない訳がない。何の事だか分からない智樹は幸せ者だと心底思う二人。
「で、フォトアプって?」
「ん? 何だ、知らないのか? 真実は。フォトアプってスマホで撮った画像をネットにアップするアプリの事だよ。画像の加工も出来るからって人気があるんだよな」
「流石スマホ持ちの秦石君ね。使ってる?」
「ああ、使っていると言えば使ってるな。ま、オレの場合は画像を保管するのが目的だけどな」
「あら、そうなの? みんなに見てもらえば良いのに。ほら、見て見て。最初に食べたスペシャルフルーツチョコミントフラッペにベリグッ! がこんなにも沢山付いたのよ!?」
差し出されたスマホの画面を覗くと、あの時の馬鹿デカいフラッペと、その脇に小さく写った真実たちの注文した金時の姿が。いつの間に写してたんだ!? と驚く真実だが、ミサと話している時に撮っていたらしい。
「いやぁ、スペシャルじゃないミニサイズとの対比で話題になっちゃって。ね、もう一度一緒に行かない?」
おやつとしては極一般的な大きさの宇治金時とミルク金時を画像の端に写す事でスペシャルシリーズのフラッペジャンボの異様な大きさが引き立っていた。それをもう一度! という事らしい。勿論真実も光輝もそれを丁重に断る。そう何度も奢って貰う訳にはいかないし、あの食べっぷりをまた目にしたくはなかったのだ。うぇっぷ。
キッチンでは大の男二人が忙しなく動いていたが、先程から別の良い匂いが漂っていた。
「……これって、バナナの匂い。何を作っているんだろ?」
「ああ、炊飯器でバナナを混ぜたケーキをね。昨日作っておいたゼリーだと人数分足りなくなるから急遽作ったんだよ」
今回はいつものようなバットに流し込んで包丁を入れるタイプではなくて、アルミのカップで人数分を作っていた。総司が折角作ってくれるというのだから、真実たちもデザートは丁寧に作ろうとしたのが裏目に出てしまった形だ。バナナを使ったケーキは初めて作るが、たぶん失敗はないだろうし、嫌いだと言う者はいないだろう。
いよいよその匂いがリビングにまで充満した頃、炊飯器の炊き上がりを知らせる電子音が鳴るのと同時に玄関のチャイムが鳴った。慌てる真実に光輝が炊飯器の処置をする事を名乗り出ると、それを味久が止める。総司のサポートだけでなく真実の作った炊飯器ケーキも面倒を見てくれるという。ぎこちない総司に対して流れるような動きの味久に頼んだ方が邪魔にならなさそうだと味久に任せて玄関に向かう真実。
玄関を開けると、そこにはミサの姿が。
「ミサさん、久し振り……って、何だか疲れているみたいだけど、大丈夫?」
「真実君……やっと話せた。真実君!」
「えっ!? ちょっ!? ミ、ミサさん!?」
ガバッと抱き付いてくるミサに押し倒されないよう踏ん張る真実。道場でも偶にこんな事をしてきていたので何とか持ち堪えたが、以前より少しだけ軽く感じた。いや、気のせいではない。ミサが痩せていたのだ。稀にダイエットが~と言いながらも、それ程体重を減らす事がなかったミサにしては珍しい。ザイラ●プも真っ青の効果ではないだろうか。
と冗談を考えている場合でもない。ドアの向こうのエアコンを効かせた部屋には真実のカノジョがいる。こんなところを見られでもしたら余計な誤解を招き兼ねない。そう思って引き剥がそうとしたら、ミサが本気で泣いていた。動揺する真実だったが、更に問題が。
ガチャリ。
「……あんたたち、玄関で何をしているのよ」