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√真実 -008 実力テスト

 


「よう、どうだ?」

「見た事ないのもあったけど、何とかなってるかな? そっちは?」

「ワタシもそんな感じかな? 今までなら何問か解けなかったかも」


 智樹の質問に、祐二と華子が箸を動かしながら笑みを浮かべる。


「あたし、夏休み前だったら全然出来なかった自信あるわ~」

「おいおい、いくらなんでもそれは問題だろ、綾乃」


 綾乃が沁々(しみじみ)と頷きながら答えると、真実が溜め息を吐く。定期テストでは上の下だと自身が語っていたのに、何故そんな結果を生むかは本人にしか分からないだろう……と思っていたら、定期テストは出題する教師の癖である程度は山が張れると言う。何それ良いなと思ったけど、融通が利かないから誰が作ったか分からない今回のようなテストでは勘が働かないらしい。


「で、光輝は?」

「……ん。ウチも思ったより出来たと思う。マイナスの掛け算も出来るようになったから、間違いは減った筈!」


 真実からの問いに、ふんむ! と拳を握る光輝さん可愛いな。(作者比)

 真実への料理教室で閉ざしていた心を開いていった光輝は、真実と付き合う事になってから更に口数が増えていた。付き合いだしたからと言って変わった事は殆んどなく、精々勉強終わりに光輝の家である集合住宅の前まで送って行っているくらいだ。途中までは家の方向が同じ智樹や綾乃が同行するが、道程の半分も過ぎればそれぞれの家の方向に別れていく。

 それからの道では二人で話をしながら行くが、大した内容の話はしていない。今まで良かった料理や作ってみたい料理、道場での稽古の内容等……話す事がなければ無理して話す事はしない。それでも特には気にせず、無理して話題を探す事はしなかった。今まで一人が多かった二人にとって、喋り続けるのは負担であり窮屈だったから、それでも全く問題ではなかった。そんな事もあって夏休み前に比べて別人かという変貌を見せた光輝だったが、毎日のように顔を合わせていた五人には少し変わった程度でしかなかった。


「で、真実はどうなんだ?」

「思っていたよりは、って感じかな? 問題は午後の理科だな」

「「「「ああ……」」」」


 真実の懸念に智樹以外の顔色が曇った。苦手な教科が見当たらない完璧超人(智樹)を除いてみんな理科が苦手だ。

 真実は化学が、光輝は物理が、綾乃は物理と生物が、祐二と華子は全部が……

 特に祐二と華子は傷の舐め合いだった。似た者同士はこういう時に足を引っ張りあっていけない。


「まあ、今までよりは解けると思うけどな。その為の勉強会だろ。おっ! その肉団子って、この前のか?」

「おいおい、あげないぞ? 智樹。あの時、味見させてやったろ。まぁでも、どこまで出来るか分からないけど、今までよりは期待出来そうかな?」



 智樹が言うように、ここ最近はみんな頑張って苦手科目に取り組んでいた。理科も然り。


 今日は全国共通学力テストの日で、今は午前中の科目が終わって昼食の時間だ。夏休み期間中とあって、周囲の同級生たちは随分と気が緩んでいた。それもその筈、夏休みは残り一週間なのだ。出題が終わってない者は終わってそうな者におねだりし、終わっている者は遊びの計画を仲間たちと立てる。今日のテストを重要視している者は殆んどいなかった。

 六人もまた、弁当の中身で盛り上がりはしているが、他の者たちとは違ってテストの出来を気にし、そして意外にも解けている事に驚いていた。これなら午後のテストも思っていたよりは良い結果が出るだろう。


「テストが終わったらどうする? そのまま来る?」

「いや、一度帰って着替えてから行くつもりだ」

「だよな~、時間もあるし」

「お呼ばれされて制服のままじゃね」

「それに道場の人も来るんでしょ?」


 真実の問いにみんなが当然のように着替えてくると言うが、一人だけ返答のなかった者が……


「……ぇ。みんな、そう、なの?」


 光輝だ。いつも道場から直接立ち寄るのが通例となっていた為、今日もそうしようとしていたらしいが、みんな揃って着替えてくると言う言葉に目を丸くしていた。確かに第一小学校出身者の光輝は真実たち二小出身者より遠いので、一度帰るのは面倒であり一仕事となる。光輝は学校から一番近い真実の家に、道場からの帰りと近い感覚で直接立ち寄るつもりでいたのだ。


「ちょっとキラリ。いくらカレシの家でしょっちゅう行ってるからって、制服のままじゃ……あっ! そうだ! アヤノ、ちょっと」

「ん? 何? 華子」


 コソコソと耳打ちする女子たち三人。えっ? と目を丸くする光輝に対してニヤニヤする綾乃と華子。


「ねえ、飛弾。夕方までに行けば問題無いのよね?」

「え? まあ、たぶん早くても六時くらいにならないと食べられないんじゃないかな?」

「ほら。ね? 少しくらい遅くなっても良いじゃない」

「あたしが見立ててあげるからさ。良いじゃん♪」


 眉をハの字にする光輝だったが、困ってはいるが嫌がっている訳ではなさそうだ。一瞬助けないといけないかと思った真実(カレシ)だったが、そんな雰囲気を感じて口出しはしなかった。

 結局、女性陣は別に集まってくると言う事で、一小の智樹、二小の祐二は別々に来る事になった。





「智樹~! この後、みんなでカラオケ行くんだ。お前も来いよ!」

「クラスの半分が行くんだ。女子も行くぞ?」

「勿論行くだろ? 智樹~」


 テストが終わり、ホクホク顔でさあ帰ろうかと真実たちと共に席を立つ智樹に、クラスで智樹と人気を二分する麻野が声を掛けると、一緒にいた集団からも誘いの声が上がった。定期テストの後には集まって行く事が多いクラスだが、今までは部活に行く者も多かったので、クラスの半分も集まるのは珍しい。流石にそれだけ集まると、みんなでカラオケも楽しいだろう。真実が誘われれば、無いお金を叩いても付いて行ったかも知れない。今まで誘われて行ったところで居場所がないから断っていたが、今は六人でグループが出来るから良いかもと思える。しかし……


「悪い、先約があるんだ」

「え~!? 秦石(智樹)君、行かないの?」

「楽しいのに~! ねぇ、行こうよ~!」

「また今度誘ってくれ、な?」


 当然のように断る智樹。


「何だよ、秦石。付き合い悪いな」

「もしかして女でも出来たか?」


 冗談で出たその言葉に、ええっ!? と女子たちから悲壮な声が上がる。


「いや、オレは(・・・)出来てないよ」

「じゃあ何で来ないんだ?」

「さっきも言ったけど、先約だよ。真実の親父さんが帰って来ていてこの後真実の家にみんなで招かれてんだ」


 あ、馬鹿! と真実が智樹を小突くけど、後の祭りだ。


「あ? 飛弾って親父さんいたんだ。知らなかったな」

「あ~、何か前の登校日に飛弾の母ちゃんが呼び出されたって聞いたけど、飛弾にも母ちゃんいるんだなって思ったもんな」

「そうなのか? 何か一小の奴らが飛弾には親がいないって言ってたの聞いた事があるけど、デマだったんだ」

「いや、いくら何でも中学生が親無し一人で家に住んでる筈がないだろ!?」


 勝手な事を言うクラスメイト(主に男子)たちに真実が吠える。


「おれは前の集会で言ってた、飛弾が助けた妊婦ってのが親の愛人か何かかと思ってたぜ」

「は? そうなのか? おれはその妊婦が義理の母親じゃないかって……」

「いや、おれはその妊婦が飛弾とデキてんのかと……」


 いやいや、と男子たちがおかしな方向に盛り上がる。本人を目の前にして。


「あのさ、ある事無い事言わないでくれるかな。てか、みんな今のデタラメばかりだったから。前に助けたのは道場の師範の奥さんだから。な? 光輝(きらり)綾乃(あやの)


 流石に抗議する真実だったが、最後の同意を求めるのは余計だった。


「あ? 何で飛弾が黒生(くろはえ)智下(ちげ)を下の名前で呼び捨てしてんだよ?」

「それに何でその二人に聞いてんだ? 道場って何の道場なんだよ?」

「お前んちにみんなで招かれたって、まさか女子も一緒なのか? どうなってんだよ、お前ら」

「いや、そんないっぺんに言われたって……名前はそう呼べって言われたんだし、道場は一緒に通ってるんだし、父さんが呼んだのであって俺が呼んだ訳じゃないし……どうなってるって言われたって……」


 困惑する真実だったが、更なる追求が始まろうとしたので智樹がそれを遮って遅くなるから帰ると真実たちを教室から引っ張り出した。


「あんなの馬鹿正直に答えなくて良いんだよ。適当に濁しときゃ」

「そんな事言ったって……って、元はと言えば智樹がうちに来るってバラしちゃったのがいけないんだろ!?」

「あ? そうだっけ? ははは、悪い悪い」


 肩を竦めておどける智樹を見て、ああこうして濁すのかとみんな納得するのだった。






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