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√トゥルース -015 隧道 -4

 


「ニー、フェマ! ミールを頼む!」


 灯りを手に駆け出すトゥルース。ふたつしか買わなかった照明器具は高い方を買っただけあって、トゥルースが激しく揺すっても消えてしまいそうにもならずに前を確りと照らす。既に馬車の灯りは小さくなっていたが、トゥルースの全力疾走よりは遅いようだ。馬を全力で走らせるには狭く天井が低い事と、地面も真っ平らとはいかず速度を上げると転倒する恐れがあるからだろう。


「何をするんですか!! 嫌ぁ!! 助けて!」

「煩い! 静かにしねぇか!!」


 これは急がねば、ティナが何をされるか分かったものじゃない! とトゥルースが急ぐが、今度は馬の鳴き声と何故か男の悲鳴(・・・・)が聞こえた。途端に僅かずつしか近付けなかった馬車に急激に追いつくトゥルースが目にしたのは、止まった馬車からトゥルースの照らす灯りを頼りに逃げ出してくるティナの姿と……


「うみゃあ!!」

「うぎゃああああ」


 男を引っ掻くミーアの姿だった。てっきりメーラの背中に乗っていると思っていたミーアだったが、こっそりとティナに付いていたようだ。ミーア様さまだと心底思うが、まだティナが無事かも確認していない。トゥルースに飛び込んできたティナは、トゥルースの上着をひしっと両手で掴み、涙目だ。


「ティナ、無事か?」

「うっく、あなた様ぁ。襲われるのがこんなに怖いものだとは……」


 トゥルースの胸元で嗚咽しだしたティナ。間違いなく暗闇の中での出来事なのも関係しているのだろう。ミーアが相手している男に気を付けながら、ティナに質問を投げ掛ける。


「何をされたんだ?」

「ひっく、あの人の手が突然暗闇の中から伸びてきてわたくしの腕を掴んで引っ張ったんです。ひっく。そして倒れたわたくしの上から乗り掛かられそうになったところでミーアちゃんが……」


 男がティナをどうしようとしていたのかは分からないが、少なくとも善意は介入していない事は確かだ。何と言ってもミーアが助けに入っているのだから。

 取り敢えず灯りをティナに持って貰い、引っ掻き傷まみれの男を縛り付けようとしたところ、男が出口方向へと逃げ出した。真っ暗闇の中を逃げていく男を追い掛ける気力はない。オジサンたちに倣って大声で叫ぶトゥルース。


「暴漢が逃げましたー!! 捕まえてくださーい!!」 さ-ぃ……さーぃ……


 返事がない。が、その大声で馬が驚いたのか、突然馬車が走り出した。呆気に取られるトゥルースとティナだったが、スタッとその場にミーアが走り出した馬車から飛び降りてきた。ミーアが何かしたのか? と思っている暇は今はない。入り口で言われたことを実践する。


「馬車が暴走したー!! 気を付けろー!! ばーしゃーがーぼーうーそーうー!!」 そーー……そーー……

「(警告ー! 馬車が暴走ー!! 警告ー! 馬車が暴走ー!!」 そーー……そーー……


 今度は聞こえたようだ。という事は前の声もちゃんと聞こえていた? 首を捻るトゥルースだったが、そこに後から追い掛けてきていたシャイニーとフェマがやっと追い付いた。


「大丈夫!? ティナさん!」「無事かや!? ティナ嬢!!」

「ええ、ミーアちゃんに助けて貰って無事です。ありがとうミーアちゃん!」

「うにゃ!? うみゃうにゃあ~」


 ティナに抱えられたミーアが身じろぎする。逃げようとしているらしいが、ギュッと抱かれて逃げられそうもない。そういえばミーアはティナとは少し距離を置いていたような? ティナが竜だった時の姿を見ているので警戒しているのか? そう思ったトゥルースだったが、ミーアはただ単にベタベタされるのが嫌いなだけだった。


 仕方なく再度ティナをトゥルースがおんぶで背負って先を進む。フェマがミールの手綱役を買って出てくれたので、今度はティナを背負ったトゥルースが先頭を歩き、続いて灯りを持ったシャイニー、メーラ、灯りを持ったフェマ、ミールの順となった。万一男がどこかの待避所に逃げ込んでいればトゥルースが対処するしかない。

 そう警戒しながら進んでいたが、いつの間にか出口の光が見え始めていた。




 外からの明かりはとても眩しかった。もう直ぐ着こうかという頃には向かい風に変わりだしており、手に持つ灯りが風で掻き消えそうになったが、何とか無事に出口まで辿り着いた四人。見るからに満身創痍なその姿に、出口で待ち構えていた帝国の兵と思わしき者たちが駆け寄って大丈夫か? と声を掛けてくる。


「少し話を聞きたいのだが、良いな?」


 場合によっては拘束もあると脅してくるが、まあ大丈夫だろうと高を括る四人。しかし、案内された建物の中で見たのは柔らかそうな長椅子(ソファー)に寛ぐあの行商人の男の姿。手や腕、顔には包帯や綿布(ガーゼ)が貼られ、周りに兵がいるのに余裕そうだ。


「さて。話を聞かせて貰おうか」


 食堂らしき長机の固い椅子に着席を促されると、早速厳つい人に聞かれるが、どうも威圧的だ。もしかしてこちらが疑われているのか? と思う四人だったが、作業場からの出来事を説明していく。


「ふむ。すると? そちらの女性が足を痛め、それを理由に馬車に乗せて貰ったと。で、争いになってあちらの男を捕らえようとしたところを男がその場から逃げ仰せた。で、声を出して馬を暴れさせた、と」


 大まかには合っているが、どうも言い方が引っ掛かる。


「で、あの男の馬車から何を盗んだ?」

「「「「はぁ?」」」」


 嫌疑を掛けられているのは、まさかのトゥルースたちだった。あの男が色々と含んだようだが、余計な事をする! と四人は憤った。しかし、自らの身の潔白を証明しなくてはならない。


「俺たちがあの人から何かを盗んだと? そんな事はしてませんよ」

「口では何とでも言える」

「じゃあ何を盗んだと?」

「金、だとさ。それも白金貨(十万ウォル)を九枚と金貨(一万ウォル)を数枚」

「……現金を? そんなの商売をしながら旅をする人なら誰でも持っているんじゃないですか。特に隧道を通れるような人なら」

「まあそうとも言える。けどな、あの者がそう主張する以上、検める必要がある。荷物から財布まで見せて貰うぞ?」

「……どうぞご勝手に。あ、女性陣の体は男から見えない所で女性の方にお願いしますよ? 三人とも男に見られるのも触られるのも嫌だろうから」


 ラバから降ろした荷物をくまなく探す兵たち。折角綺麗に収めたのに台無しだ。女性陣たちは一人づつ別室に女性兵と入っていった。行商人の男が、見てなければ不正を働いても分からないじゃないか! と騒いだが、流石にこちらの主張が通って男の意見は却下された。



 女性陣はティナから検査を受けていく。ここに女性兵は一人だけしかいないらしく、急遽調理のおばちゃんたちが補助に入る事になった。偶にある事らしく、手慣れた感じだ。


「はいはい、ごめんなさいよっと」


 服の上からペタペタと触っていくおばちゃん。ふと胸に辿り着いたその手がピタリと止まった。


「おや、この年代の娘は胸の大きい子もいるけど、あんたの胸は少し硬いねぇ。何か隠してないかい?」

「えっ!? いやこれは下着で……」

「本当かい? 貴族令嬢なら分かるんだけど……ちょっと服を脱いでもらうよ?」

「ええっ!?」


 あ~れ~ぇ~とひん剥かれるティナ。一応相手は女性、それもおばちゃんだけど、侍女以外で服を脱がされたのは服を仕立てる業者と、シャイニーやフェマ以外にはおらず、赤の他人に服を剥かれるという辱めを受けるのは初めての事だった。いきなり裸を見られたトゥルースはある意味事故であって例外であり、致し方ない事と気持ちの整理は付いていた。


「……こんな下着を見るのは初めてなんだけど……どちらのご令嬢で?」

「それにはお答え出来ません。あの、恥ずかしいので手早くお願いできませんか?」


 顔を真っ赤にしてモジモジとするティナ。一応疑いがあるのだからと結局胸当てまで脱がされる羽目になったのだ。相手が女性とはいえ、着替えや入浴、服の仕立ての為以外で見ず知らずの者に乙女の柔肌を見られるという屈辱を受けるティナ。ここ何日かは散々な目に遭っている事を考えると、新たな呪いかと思ってしまうティナだが、物語の進行上、仕方ない事なのだ! 仕方ない事なのだ!! 大事な事なので二度言った! 決してエロ要員にしようとするような悪意はないのだ!(作者力説)






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