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√トゥルース -002 検問所




「成人したばかりの大人三人に子供が一人と、馬が二頭……と、白猫もか? 入国の目的は?」

「帝国へ入りたく、通らせて貰おうと。ついでに道中で採集した薬草等を買って貰えるところがあれば」


 検問所にて警備兵に問われ、トゥルースが荷物に括り付けた薬草の束を指差して言うと、それを見た警備兵は納得の顔をする。


「……ふむ、そうか。では質問を変えよう。そちらの女性はどちらかの貴族の方では?」


 警備兵は今度はトゥルースにではなく、ティナへと声を掛ける。突然話を振られたティナだったが、落ち着いたものだった。


「わたくしですか? ええっと……わたくしは追い出された身、既に身分は関係ありませんのでお気になさらず」


 この答えでは暗に貴族だった(・・・)と言っているに等しい。この見目麗しい少女が何故家を追い出される事になったのか、それを疑わずにいられる者などいないだろう。勿論この警備兵もである。戸惑いながら当然のように質問を続ける警備兵。


「え、それは……家出とかでは?」

「いえ、そうではありませんよ? 寧ろ追い出された事に戸惑っておりまして……」

「まさか……攫われてきたとかではありませんよね?」


 警備兵としては当然そういう事態も考慮しなければならない。こんな碌に人の通らない道を態々通って来たのだ、犯罪性を疑う事は当然と言えば当然であった。

 が、トゥルースはこの質問に冷や汗を掻く。言ってみれば半ば強引に国境を越える道に連れ出してきてしまったのだから。王国側には軍の兵士や検問所の警備兵が多くいた。もし裸だったこの娘の姿を見れば、間違いなく引き渡しを要求されるだろうし、成人した男ばかりの中に一人、これだけの容姿をした若い女を渡せば、間違いが起こらない等とは考えられない、きっと酷い目に遭う。況してやこの少女が竜の姿をしていたなんて知れたら……そう思っての行動だったが、果たしてそれが正解だったのかはトゥルースには分からなかった。


「ええ。その心配はご無用かと」

「……そう言うようにこの者たちや別の誰かに指示されたのでもなく? 今でしたら貴女をお助けしてこの者たちを捕らえる事もできますが……」


 この警備兵の質問により、他の警備兵たちの緊張が高まったのが分かった。この後のティナの返答次第で、トゥルースたち三人の運命が変わるのだ。

 が、当のティナはそれを笑い飛ばした。


「ふふふ。ええ、そのような事もありませんし、その様な事を言ってはこの方たちに失礼ですわ。貴方様方の立場が悪くなるような事はありませんので安心なさってください。ご心配ありがとう」

「そう、ですか……では、もうひとつ。貴女のその服装ですが……何故そのような?」


 今まで明るく答えていたティナだったが、この質問を投げ掛けられ遂に表情を曇らせた。そう、今のティナはトゥルースの持っていた男物の衣服を着ていたのだ。長髪の似合う少女が本来着るものではなかった。


「え? これですか? これはその……着の身着のままで放り出され、一人旅の道中で慣れない道で着ていた服を引っ掛けて裂けてしまい……こちらの方々に助けを求めたのですが、女性物では小さく着られず、仕方なく殿方のを……これ以上、言わせないでください!」


 小柄なシャイニーと幼女のフェマをチラリと見て答えるティナ。女性として良い育ち方をしているティナが、小柄で控えめな体型のシャイニーの服が着られないのは明白だった。

 二人の体格の差に納得した警備兵は、少し顔を赤くして頭を下げた。


「やや、これは申し訳ありません。という事はあなた方は別々だったと?」

「ええ、そういう事です。行き先が同じなので混ぜて頂いてるのです」

「そういう事でしたか。よく分かりました。以上で結構ですよ、どうぞお通り下さい。道中はお気を付け下さい」


 警備兵とティナとのやり取りは、聞いていてハラハラするものだった。言っている事の大半は本当の事であり、唯一嘘だと分かったのは最後の着る物の(くだり)で、着ていた物が裂けた点だけだろうか。そもそも着の身着のままと言っても何も身に付けていなかった訳だが……

 それにしても、この面子で人攫いを疑われるとは、とティナ以外の三人はお互いの顔を見て苦笑するのだった。


「あ、待て待て、ちょっとだけ良いか?」


 ラバにトゥルースが乗り、ティナを乗せようかとしたところで再度警備兵に呼び止められた。言葉遣いが荒いのでティナにではなくトゥルースたちにだろう。が、先程よりは言葉が柔らかになっている事に苦笑が漏れた。


「この道を通ってきて、何か変わった事はなかったか? 変に大きい動物の様な物を見たとか聞き覚えのない鳴き声を聞いたりとか……」


 不明瞭な質問ではあるが...何を聞かれているのか四人にはピンと来てしまう。


「え?いや……特に何も……それって何かあったんですか?」

「いやな、どうやら竜が出たやらその竜が行方を眩ましたとか言う話があってだな……」


 やっぱり!という顔はしないように気を付けながら、首を傾げて見せる。


「え!? 竜!? それって……どこからそんな話が?」

「ああ、それが王国の軍からの情報でな。正式ではない物の、過去の協定が今も生きているそうで我が国も無視はできないと……いや悪い。見たり聞いたりしていなければ良いんだ。止めて悪かったな」


 碌に荷物の中身を検ためられる事もないところを見ると、王国側と同じか、それ以上に検問は緩いみたいだ。





 ラバで少し進むと村が見えてきた。宿の心配をするトゥルース。王国側では皆無だったが、駄目であればどこかの軒先を借りる事も考えねばいけない。が、幸いにも小さな民宿があった。宿専門ではなく、農家が兼業しているところだ。母親らしきその女性の足元で、口をぽかんと開けてティナを見上げている男の子はたぶん五歳くらいなのだろう、子供らしい反応だ。フェマとは大違いであった。


「今は片付いてないから一部屋しか用意できませんが、それでも良いですかい?」

「えっ!?ど、どうしよう……」


 今まで、トゥルースとシャイニー、フェマの三人では女のシャイニーとフェマが同室で構わないと言い張っていた事で三人一緒の部屋で寝ていたのだが、今はティナがいる。

 トゥルースはティナを保護してから、天幕内に女性三人を寝かせ、自分は外で野宿していた。ティナの裸を見てしまったのはトゥルースにとって目に毒以外の何物でもなかったのだ。万一一緒に寝て間違いでも起きてしまったら……と思うと外で寝ること自体は苦でもなかった。


「ウチは一緒で良い……と言うかルー君と一緒が良い」

「わしも問題ないがな」

「え? わたくしですか? わたくし、今まで人と一緒の部屋で寝るという事をした事が無いのですが……その上、殿方と同じ部屋に?」


 男と同じ部屋に寝る事自体を躊躇するのは分かるが、一人ででしか寝た事が無い。そんな人がいたのか!と衝撃を受ける一同。しかしよくよく考えれば自分の部屋(兼物置部屋)を持っていたトゥルースは、自分の部屋があればそういう事もあるかと納得する。しかし何で驚いてしまったのかはこの時のトゥルースとシャイニーには分からないのであった。


「それしかお部屋が無いという事であれば仕方ありません。同室で構いませんわ」

「良いのか? 男の俺と同じ部屋でも」

「良くはありませんが、文字通り身一つで放り出されたわたくしでは嫌も応もありません。気になさらないでください、トゥルース様」

「……その様付はどうにかして欲しいけど……仕方ないか。何なら俺が馬小屋に泊まっても良いんだけど……」


 だが宿側がそれは衛生上駄目だと。それに馬小屋ではお金を取れないからだと。身も蓋もない話だ。正直すぎて笑うしかない。

 朝晩とも飯は出る宿だったが、味は閉口する程だった。普段、シャイニーとフェマの料理や町中の美味い食堂を利用している三人だけでなく、昼に粥のような簡素なものだけしか口にしてなく、腹の減っているであろうティナですら黙ってしまうくらいだった。フェマがこっそりと荷物の中から調味料を持って来て振りかけるのを見た三人が、それを奪いあったのは無理もない話であった。






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