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√トゥルース -012 隧道 -1

 


「ふぁ…… あ? ……また、か。どうにかならないかな?」


  トゥルースが目を覚ますと、両脇に同い年の女の子がくっつき、股の間に幼女が埋もれていた。

  右にくっつくのはサラサラな金の髪を持つ女性らしい体付きのティナ。すぅすぅと小さな寝息を立てているが、柔らかく主張の強い胸がトゥルースの腕に押し当てられてイケナイ気分になってくる。

  股の間に埋もれているのは嘘っぱち幼女のフェマだ。呪いによって実は百七十歳を越えていると思われるフェマが寝返りを打とうとするが、股間に頭が乗っていて余計な刺激を与えて来るのがイケナイ。

  そして左にくっつくのは銀の髪で現在進行形で発育中のシャイニーだ。最近漸く柔らかさを帯びてきたと思ったら少々胸も膨らんできたようで、それに気付いたトゥルースも困惑中だ。しかし、本人にその事を指摘するのを躊躇する理由が。今もそうだが、体を小刻みに震わす事がある。物心付く前からいた孤児院での虐待を思い出す事があるのだろう。特に昨夜から今朝に掛けては。

  今、寝ているのは教会の一角の小部屋。シャイニーにとっては教会イコール孤児院、孤児院イコール虐待なのだ。



 何故教会に泊まっているのかというのは、昨日隧道を通る事が出来なかったからだ。隧道手前の検問所に着いた時、丁度隧道を通り抜ける風が止んだからだ。侯爵夫人のマーナに聞いた話で、風が止んだり向かい風の時は通れないと。


 一歩遅れで足止めを喰らった一同は、検問所の兵に聞いた近くにある滝を見学して時間を潰した。中々迫力のある瀑布に感嘆の音を上げるが、その見事な水の流れによって周囲に舞う飛沫によって周囲の温度は随分と下がっていた。夏とはいえ、標高の高いそこは元々気温が低く、薄着な一同は震え上がり少し離れての見学となった。

 水の流れは心を落ち着かせる。ずっと見ていて飽きる事もなく、四人はそれを眺め続けた。何を思うのかはそれぞれだ。だが何れもが今までの事、これからの事に思いを巡らせた。


 それから朝イチで隧道を通ろうと検問所の脇に天幕を張ろうとして気が付いた。検問所の向かいにある建物が教会である事に。

 ビクビクとするシャイニーだったが、中にいた神父は物腰の柔らかな人で、泊まらせて欲しいと申し出る前に泊まる事を勧めてきた。

 そもそもその教会は隧道の掘削工事で拠点となった建物で、時折起こる事故に教会から神父が派遣されたという歴史を持つ。なので地元にというよりは隧道に拠った教会であり、当時は工事の無事を、今は旅人の安全を祈るのが仕事になっていた。

 近隣には土産物兼隧道の通行に必要な物を売る商店が二軒並ぶに(とど)まり適度な競争をしてはいたが、多くはない通行人に本職を諦めたのか裏で一所懸命に畑仕事をしていた。その作物を売る事を忘れないところは逞しい。

 昔からこの教会が宿の役目を果たしていた事もあり、教会でありながら宿泊用の小部屋が幾つもあった。周囲に宿屋は一軒も出来る事はなかったらしい。そんな成り立ちの教会には孤児院は併設されず、神父が一人で切り盛りしていた。



「ニー、大丈夫だからな」


 震えるシャイニーに声を掛けるトゥルース。たぶん先に目が覚めていて、目に入った装飾にここが教会内である事を思い出したのだろう。歯を食いしばるシャイニーにトゥルースは声を掛けるが、反対の手はティナに占拠されて動かせないし、股間にフェマが乗っていて全く身動きが取れない今、声を掛け続けるしかない。すると、寝息を立てていたティナとフェマがその声に気が付いて起き出した。

 いつもと様子の違うシャイニーに心配する二人。トゥルースも二人が起きた事で身動き出来るようになり、シャイニーの頭に手を置いて撫でてやると、漸くシャイニーの震えが止まった。トゥルースの左側でしがみついているシャイニーは、彼女の呪いである顔の火傷のような痕が下に隠れて丸でその痕がないような錯覚を起こさせ、痩せぎみだった顔にも肉が付いてきた事で、その美貌がティナにも負けていないのではと思わせる。


「……ごめんなさい、ルー君。ウチ、色々と思い出しちゃって……」

「ああ、大丈夫だから。ちゃんと俺が付いているからな」

「……ありがとう、ルー君。あ、ティナもフェマも心配を掛けちゃったかな?」

「いえ、わたくしたちがシャイニー様の事を心配するのは当たり前ですよ。何があったのかは存じませんが、わたくしもまたシャイニー様の味方ですからね?」

「みゃ~」

「おいおい、(ミーア)まで混じってわしを除け者にするでない。嬢の味方なのはわしだって言わずもがなじゃぞ? じゃが……良いのか? 姫様。そんな事を言うておると坊を取られてしまうぞ?」

「なっ! それとこれとは別問題ですよ!? そうですよね? シャイニー様!」

「ふぇ? な、何の事?」


 意味の分からないシャイニーだったが、その実、一歩リードしている事には本人も気付いていなかった。出会って三ヶ月のシャイニーと、まだ数日しか経ってないティナでは差が出て当たり前なのだが、その事が更にティナの行動に拍車を掛ける事になるのはまた別の話であった。



「少し冷え込みましたが、よく寝られましたかな? もう検問所は開いておりますよ」


 支度を整えて神父にお礼を伝えに行くと、既に隧道は通れると言う。昨日の内に幾ばくかのお金と薬草を寄付した。流石に四人もいて、タダでは泊まれない。他の隧道利用者はもう主発していて、トゥルースたちが最後のようだ。


「これから隧道を通られるのであれば、風に強い灯りと火種が必要です。お持ちでなければ購入されるのが良いでしょう。造りの良いのは出て右手の売店、安いのは向かいの売店ですね。必ずしも購入しなくても、検問所を通って隧道の入口に行けば有料ですが貸し出しもしてますよ」


 聞けば隧道の中は真っ暗であり、灯りが無ければ進む事が出来ない。万一火が消えてしまうと一本道ながら進めなくなってしまう。いつ来るか分からない通行人を待つ事になるが、下手をすれば翌日まで足止めになったり、一方通行の為に戻る事になるかも知れない。途中で待つのは非常に邪魔で危険なのだ。

 売店で売る灯台は高いが出来の良い方が良いか、出来が悪いが安い方が良いか、という選択になる。少し安い方が優勢だったが、利益では均衡していた。トゥルースたちには関係の無い話だが。



「この通行証は……」


 検問所の兵が出された人数分の札に目を丸くする。通常であればそれなりの身分の者が手にするものであり、成人したばかりの子供が……いや更に言えば幼女まで連れている、お世辞にも高い身分とは言い難い集団が持つような物ではない筈なのだ。しかし裏に記載された本人たちの名前と年齢が盗まれた物ではない事を示していた。

 顔を見合わせた兵たちは、首を傾げながらも通例に従って旅の目的の聞き取りと簡素な荷物のチェックをする。通行証を持っていても違法な物を流入・流出させる訳にはいかない。その為の検問だが、その心配が不要だと思わせる四人の風貌にチェックも緩い。入国審査も緩かった事を考えると、この国の入出国は案外簡単なのかも知れない。



「この通行証は……」


 無事に検問を通った四人は今度は隧道の入口で通行証を見せるが、検問所と反応の同じ所が四人の苦笑を誘う。何故検問所が先なのかは、直ぐ脇に旧道があり隧道を使うだけのお金が無い人がそちらを通るからだと分かったが、今ではそんな酔狂な人はいないらしい。通行料金と命を天秤に乗せること自体ナンセンスなのだ。


「こちらの隧道は初めてなんですね? 注意点ですが、南の隧道と同じく道内での焚火は厳禁です」


 火は灯火のみ。道内は天井が低いので乗馬しての通行は出来ない。どうしてもという者には専用の低床小型馬車を有償で貸し出しているらしい。徒歩で一時(二時間)弱という距離、結構長い。途中の休憩は所々にある幅の広くなったところでなら可能だと言うが、特に馬を連れていると追い越しが困難になるので極力避けて欲しいという。万一馬が暴走した時は大声でその旨を叫べと。道内では声が反射して遠くまで音が届く。万一そのような声が聞こえてきたら荷物を障害物(バリケード)にして距離を置き壁際に退避しろと。命懸けな道だ。


「あと、こちら側は途中まで洞窟を利用してますので、道を逸れた場合の命の保証は出来ません。捜索も浅い所しか出来ませんのでご注意ください。途中で待避所の工事をしていますのでご注意ください」


 今はまだ途中に広い場所を作っている段階で、長い時を掛けて道幅を広げていっているらしい。開通から五十年経つ今でも広げているとは恐れ入る。話を聞くと以前はもっと天井が低かったようで、馬も通行不能だったそうだ。


「さてと、じゃあ行きますか」


 これで侯国とは一時お別れである。田舎な国ではあったが、悪くはなかったように思う。今度来た時には何か名産品でも生まれているだろうと期待しつつ、一行は灯りを手に洞窟の中へと足を進めるのだった。






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